クズヒロインなのになぜか人が寄ってくる

キリアイスズ

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こんな状況、絶対にありえない

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アーサーの中では今までの私の言動は悪魔とやらが頭を打った衝撃のせいで住み着き、そこから心とか体とかを操っているということらしい。そういう妄想が出来上がっちゃってるみたい。

その妄想が固まり過ぎて私の話を一向に聞いてくれない。私の言葉が届いていても完全に右から左に流している。

それにしても悪魔だと?それが頭の中に住み着いている?なんてすごい妄想力だろう。
何がすごいって、だってその妄想全部がまるっきり間違いってわけじゃないから。
実際、別世界から来たわたしがレイの体の中に乗っ取っている。

“俺の知ってるレイじゃない”?

そりゃそうだ。別人だからな。

「俺が助けてあげるから」

「あのぉ、とりあえずどいてください」

「俺に全部まかせて」

「どいてください」

「今、苦しみを取り除くから」

「……」

聞けよ。どけよ。笑うなよ。まったくなんて面倒で迷惑な従兄なんだ。
私の言動に今一度問いただしたいと考えて直談判しに来るのは百歩譲って仕方がないとしても、なんでそれがよりにもよって人が就寝中の時になんだよ。

普通、消灯した家に無断で入り込むか?

なんで、合鍵使うんだよ。
なんで、泥棒みたいにのっそりのっそり入ってくるんだよ。
なんで、人の体の上に跨がっているんだよ。

オマエはヤンデレ要員か。私はヤンデレは嫌いなんだよ。

混乱でいっぱいだった感情に、ちくちくとした苛立ちが芽生え始めてきた。

マジ、なんなんだよ。私が今日一体どれだけしんどい思いをしたと思っているんだ。
そのせいでこっちは気力体力のゲージがすでに残量ゼロなんだよ。そんな状態なのになんでこんな非常識のレイの従兄とやらの相手をしなくちゃいけないんだ。

こんな状況、絶対ありえない。

…………いや、ありえるかもな。クッソ、こういうことはありえるんだった。
寝起きのせいかこの世界は乙女ゲームの世界だってこと、一瞬忘れてた。

非常識で理不尽で災難のオンパレードが乙女ゲームの世界観。ファンタジー要素がある乙女ゲームに凝った仕掛けが何もないなんてありえないし、聞いたことがない。

よくよく考えれば、こういうシーンはざらにある。夜、ヒロインの家にイケメンキャラが忍び込むなんてシーンは。そしてけっこうな頻度で恋愛の甘さの糖度関係なく、ベッドでのやりとりが多いんだよな。

……ベッド……ベッド?……ベッド!?

私はハッとし、青ざめた。

そうだよ、ここはベッドの上だ。そして私は女でヒロイン、こいつは男でイケメン。
最近の乙女ゲームは18禁じゃなくてもイベントやスチルで性的なものを匂わせるものがあるからな。
なんていうことだ。なんで、もっと早くに気づかなかったんだ。
やばいじゃん、私。普通に貞操の危機じゃん。

今のこいつの様子は普通じゃない。私に何かをするのは明白。
もし、その何かが…………。

ああああ、ちょっと想像するだけでもおぞましい。
こや、こいつはサブキャラだからその可能性は低いか?

…………いやいやいや、低いからと言って油断はできない。攻略キャラ以外のサブキャラとのイベントやスチルはざらにあるんだった。おいおいおい、冗談じゃないぞ。なんで、今日初めて会ったパリピ男とそんなおぞましいことしなくちゃいけないんだ。乙女ゲームの夜這いシーンなんて18禁だけで十分だ。

私は掛け布団をがっちりと掴んだ。

なにがなんでもこの掛け布団だけは離さないぞ。この掛け布団は18禁にならないための命綱だ。
がっちり掴んだまま、この状況をなんとか切り抜ける方法を考えないと。

……考えないといけないのに、頭がうまく働かない。

掛け布団を握っている掌が小刻みに震え、汗が滲み出る。体は硬直し、動かしたくても動かせない。手足の指先の熱を感じないのは、きっとドアから入ってくる冷風のせいじゃない。
やばいな。時間が経てば経つほど膨れ上がってきた。恐怖心が。

そう、私はこの状況に思いのほかビビっていた。こんなに何分もサブキャラとはいえイケメンキャラが夜に、よりにもよってベッドの上に跨がっているなんて恐怖心を抱くなというほうが無理な話だ。こんな生々しいセクシャルな事態、この世界に送られてきて初の事態だ。
無論、元の世界でもそんな経験は無縁だった。
私だって曲がりなりにも女だ。よく知りもしない男にこうやってベッドの上に何分も跨られると女としてやっぱり、怖い。普通に怖い。この状況に似つかわしくない目の前にある不気味過ぎる笑みがますます私の恐怖心を煽る。

改めて思う。乙女ゲームや少女漫画で夜這いに来たイケメンにキュンとするヒロイン、マジで頭おかしい。

「あのぉ、マジで、まずはどいてくれま、せんか?」

頭が回らないから舌も回らない。だから、月並みな言葉しか出てこない。
とりあえず、このベッドの上から下ろさなければいけないということだけはわかる。

「レイ、大丈夫?」

「……は?」

私の話を聞く素振りを一切見せず妄想の中に浸っていたくせに、急に私を気遣うような言葉を吐いてきた。

「震えてくるよ、寒い?」

わざと言ってんのか、こいつ。どう見てもこの震えはオマエのせいだろうが。

「もしかして、俺がレイに何か不埒なことをするんじゃないかって思ってる?」

「……」

次の瞬間、アーサーはそれがおかしく思ったのか軽く吹きだした。

「ふはっ、そんなことするわけないじゃん。従妹にそんなことするなんて、俺をなんだと思ってるの?」

「……」

ありがとう、アーサー。オマエのその人を馬鹿にするような笑いのおかげで、ほんの少し心が落ち着いた。オマエのおかげで苛立ちが恐怖心よりも上回ってきている。
この苛立ちのおかげでかちんこちんに凍っていた脳みそに熱が入り、思考にもエンジンがかかってきた。まだ状況は何も好転はしていないけどアーサーは私に不埒な手出しはしないとわかった。それがわかっただけでも恐怖心がだいぶ和らぐ。

それでもやっぱりまだまだ警戒心を解くことはできないため、掛け布団はきつく握ったままだ。



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