クズヒロインなのになぜか人が寄ってくる

キリアイスズ

文字の大きさ
67 / 115

思考が綺麗すぎて逆に嫌なんだよ

しおりを挟む
「ちょうど3時か」

通路を歩きながら私は懐中時計を取り出し、時間を確認した。

そういえば、あの少年にウィルのことを聞けばよかった。ムカッときたせいで忘れていた。私たちはホールを出た後、一度探した場所を何回も探し回っている。カーテンの裏、手洗い場、屋根裏など居そうにない場所も徹底的に見た。

しかし、やっぱり見つからない。
おかしい。これだけ探したのになぜ見つからないんだ。公演が終わり、客がほとんどいなくなった劇場内は見通しがはっきりしている。こんな数十分も歩き回るほどこの建物は高層でもなければ、ホールも多いわけでもない。

なんで見つからないんだよ。かくれんぼしているわけでもないのに。私はいくら探しても見つからない不毛さに苛立ちながらも考えを巡らせた。もしかして、私たちが動き回っているのと同じくウィルも移動しているのか。

「向こうも私たちを探し回っていたりして」

いや、それはないか。
ウィルには探知能力に近いノアがある。ノアを発動していたらとっくに私達と合流しているはずだ。 
もしかして、まだあの子は自分が迷子になっているって自覚していないのではないか。

「もしかして、どっかで寝てたりして」

ありえる。私ほどではないにしろ、よくウトウトしているところを見かけることが多い。歩き回るのに疲れていつのまにか眠ってしまっているのかもしれない。

「まだ、探していないところとなると関係以外立ち入り禁止の控え室、物置部屋、劇場の裏口……ってまだ探してないとこけっこうあるな、あんたはどう思う?」

斜め後ろについてきているであろうリーゼロッテに話しかけた。
しかし、返事がない。

「?ねぇ、リーゼロッ―」

「怜」

リーゼロッテの代わりにうさぎが応答した。

「後ろ」

うさぎの視線を辿るとリーゼロッテは立ち止まっていた。
しかも遠い。つまり、私はずいぶん前からいない相手にずっと話しかけていたということだ。

私はむっとした表情で顔を伏せているリーゼロッテを見据えた。
なんで、立ち止まっているんだよ。

しかし、ここからだとリーゼロッテの顔がよく見えない。私は文句を言うため歩いてきた通路を戻った。

「ちょっと、なんで立ち止まってんだ。私、付いてきていると思って話しかけていたのにアホみたいじゃないか」

怒気を含ませながらリーゼロッテに近寄る。しかし、私の言葉が届いているはずなのに彼女は顔を上げなかった。

「………のせいだ」

やっと発した言葉は震えていた。

「私のせいだ。ウィルくんがいなくなったのはわたしのせいだ。私がもっとちゃんと見ていればよかったんだ」

ゆっくりと顔を上げたリーゼロッテは思いつめた表情をしている。今にも込みあがってきそうな涙を必死で押さえ込むため、拳を強く握り締めていた。

「ウィルくんに何かあったらアルになんて言えばいいの?もし、このまま見つからなかったら」

リーゼロッテは今にも自責の念に押し潰れそうだった。人間、緊急時に一度悪い方向に考えてしまったらその考えに引きずられてしまうことが多い。

こりゃ、ドツボにはまちゃってるな。
うっわ、めんどくさっ。

「私の、私のせいで」


「そうだな、あんたのせいだな」

私は淡々とした口調で吐き捨てた。

「あんたがもっとちゃんとしていればウィルは居なくならずに済んだんだ。私もすぐに家に帰ることができたし。元凶は全部あんただ」

「………っ」

「私、何もしないでウジウジ突っ立ってるだけの人間の面倒なんか見るつもりなんてないから」

今すぐ家に帰りたい。寝たい。グータラしたい。
でも、それができない。そうしたいのに帰れない。

「あんたはここで突っ立ってるだけ?もう探す気ないの?時間がもったいたとは思わないの?」

「………!」

だからこそ、早くウィルを見つけなきゃいけないんだ。だから自責の思考よりもウィルを見つけ出す方法に考えを巡らせ、足を動かしてほしい。

「探す気がないんだったら目障り。いますぐ帰れ」

「………帰らない」

リーゼロッテをそのまま置いてこうとしたとき、後ろから声が聞こえた。その声はさきほどのような悲痛な声ではなかった。落ち着きながらもはっきりとした芯が通った声だ。振り返るとリーゼロッテは真剣な面持ちで私を見据えてた。私の暴言とも取れる言い方に腹を立てたのか無言で私から視線を外そうとしない。

そしてゆっくりと息を吐き、両手を頬に当て思いっきり自分の両頬を叩いた。

ばちん。

乾いた音が私の耳にも届く。通路には私たちしかいないため、余計に音が響いた。

「ごめんなさい、立ち止まって。行こう」

それはは己を奮い立たせ、気持ちを切り替えるための行動だったのだろう。
リーゼロッテはドツボにはまる前の姿に戻った。

自分の頬を思いっきり叩いたリーゼロッテに呆気に囚われている私を通りすぎ、ずんずん前に進んでいった。

「怜、あの子のためだったとしても言い方」

いつものようにうさぎが余計な口をまた出してきた。

「うるせ」

リーゼロッテのためでもウィルのためでもない。結果的にはリーゼロッテを奮い立たせることにはなったが、挑発的な物言いをしたのは自分のためだ。ウジウジしている人間を「私」が見たくなかったから。「私」が相手にしたくなかったから。
目障りだったからだ。それに私にとっての最優先事項はウィルを見つけ出すというよりも「私」が早く家に帰ることだ。

「一旦、二手に分かれよう」

一階ロビーの階段付近でリーゼロッテを呼び止めた。一緒になって探すよりもそっちのほうが見つかる可能性が高い。少し考えればそちらのほうが効率の良いはずなのに今の今までその考えに至らなかった。

(これって自分が思っている以上に焦ってるってことなのか?)

「そうだね」

「私は一階探すから、2階探して」

リーゼロッテはさきほどのような思いつめた表情をしていなかった。もちろんウィルはまだ見つかっていないので気は抜けない状況ではあるが、落ち着きを取り戻したほうが視野も広げ、好転するきっかけにもなる。さっきの重たい空気よりはマシだろう。

「ええ、わかった」

私の提案にリーゼロッテは力強く頷いた。

「………ねぇ、ちょっと」

私は階段を駆け上がろうとするリーゼロッテを呼び止める。別にさきほどの発言に対しての弁明も謝罪もするつもりはない。しかし、胸の中で少しつっかかっている部分がある。

「言い返さないの?」

「え?」

「さっき『ウィルがいなくなったのはあんたのせいだ』って私が言ったとき『そっちだってちゃんと見ていなかった』って思わないの?自分のことを棚に上げるなって言い返せばいいじゃん」

私はウィルのことはリーゼロッテにすべてまかせていた。それだけではなく、気にも留めようとさえも思っていなかった。そんな私にだって非は明らかにある。苛立っていたとはいえ、さきほどの発言はリーゼロッテにすべての責任を押し付けるような言い方だった。

私に怒鳴っても別によかったんだ。言い返すけど。

「わざわざ、それを言いに引き止めたの?」

「一応」

「たしかにそんな言い方ってないんじゃないかって思ったけど、そんな風には考えなかったかな。レイのおかげでこうして自分を奮い立たせることができたから」

リーゼロッテはくすっと笑って見せた。
マジか。お人よしにもほどがあるだろ。

「それにしてもレイって」

「何?」

「ううん、なんでもない。じゃあ、私は2階を探すから」

そう言ってリーゼロッテは2階に上がって行った。

「あれは言い合いの喧嘩じゃ負けるタイプだな」

リーゼロッテのような乙女ゲームの王道タイプの主人公は基本相手を侮辱するような言葉は吐かない。たとえ攻略キャラクターからそれに近い罵倒か侮辱の言葉を浴びせられても同じような言葉を吐くことはなく、飲み込んでしまうことが多い。終盤やルートによって変化がある場合もあるが、序盤あたりではほとんどいっていいほど皆無だ。

「怜ってリーゼロッテみたいなヒロインって嫌い?」

うさぎが言っているヒロインとはおそらく乙女ゲームの中でのことだろう。

「好きか嫌いかで言ったら嫌い。だって自己投影まったくできないから」

私だったら理不尽に怒鳴られたり罵倒されたりしたら普通にぶん殴りたいって思う。
ていうか絶対ぶん殴る。例え、相手に何かしらの事情があったからって理不尽な扱いをされていい理由にはならないはずだ。でも、リーゼロッテみたいな典型的な王道ヒロインは理不尽な立場に置かれても最終的に許し、寄り添うことを選んでしまうことが多い。乙女ゲームでプレイしていて画面越しに何回「そこで許すなよ」と苛立ったかわからない。

「思考が綺麗すぎて逆に嫌なんだよ」

私は階段を見上げながら吐き捨てた。

「とりあえず、一回外出てみるか。いるかもしれないから」

私はウィルがいることを願いながら外に移動を開始した。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...