冬の一陽

聿竹年萬

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少年期 大学生活編

(23)揺れる形勢

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 突如として事態が動く。レオンが模擬槍に魔力を乗せ、推進力を強化して投擲する。
 この動きを予測しいていなかったフィンは、しかし大きくバックステップを踏みつつ辛うじて弾き落とす。槍は足元を転がり、そのまま止まる。手に痺れる感覚があった。

(武器を手放すなんて……なんだ、一体)

 やや開いた距離から、レオンは不敵な笑みを浮かべる。

「お前のやり口は、もう分かった」
「……」

 ハッタリではない。フィンは、確信する。
 ここまでやり合ってきて、相手が自分よりも上を行くものだとは分かっている。だからこそ、嫌らしい戦法も取ってきたのだ。
 それを、見破られた。その事実が、フィンの顔に冷や汗を垂らす。

「わざわざ挑発してきたのも、俺を乗せるためなんだろ?」
 レオンの口調は、余裕をたっぷりと見せつけるものだった。まだ手札を出し切っていないとでも言うようだ。
「ここからは、そんなこともできないぞ」

 口を動かしている間に槍を振るう、という選択肢もあった。しかし、フィンは混乱してしまっていた。
 予想外の行動を起こしたこともそうだったし、自分の意図を見透かされたことで思考が揺さぶられている。呼吸は荒くなり、考えがまとまらず、必然動きを起こすこともできない状態に陥る。

 どうする。どう動けばいい。フィンが自問自答の渦に巻き込まれていく中、レオンの様子が変わっていく。
 全身に魔力のうねりが生まれていく。目に見えるほどの濃厚な魔力生成は、実際に目の当たりにすることも初めてだ。神話か逸話の中にしか登場しないような魔力量は、学内はおろか、自らの師でもコントロールできるものじゃない。人間業とは思えない。
 フィンが恐れていることを知ってか知らずか、レオンは言い放つ。

「そろそろ食らっとけ、お前」

 その右手に、眩い光球が出力される。レオンは掌をフィンに真っ直ぐに向け、それを放った。

「ーーっ!」

 飛んでいく光球は、徐々に加速してフィンの顔へ飛び込もうとする。
 フィンはそれを避ける。そのまま、動かざるを得ない状況に追い込まれていく。
 光球はフィンの近くまで飛来するとその姿を炎や氷柱、あるいは衝撃波や圧縮された水などに変じさせ、ひっきりなしに襲い掛かる。連発に次ぐ連発が弾幕を張る。
 空気が焼ける、氷のつぶてが鋭く肌を刺す。風圧が破片を運び、弾丸じみた水滴ごと飛び散らす。

(逃げるしか、ない!)

 もはや回避なんて悠長なことを考えている場合じゃない。
 会場いっぱいを使って動きながら、フィンは考える。乱れていた思考は、問題を前に落ち着きを取り戻していた。
 レオンは信じられない威力の攻撃を放ち続けている。これだけでもどうかしているのに、

「どうした、来いよ! さっきまでの威勢はどうした!?」

 挑発する余裕があるどころじゃない、動き回るフィンに狙いを合わせている。
 逃げ切る前に、限界が来る。足が立たなくなるか、魔力が切れてしまうか。どちらにしても時間の問題となってしまう。

 ならば、どうすればいいか。自問を続けながら、フィンは止まらずに足を動かし続ける。
 自分が駆け抜けた場所に的確に叩き込まれる光球が、地面を燃やし、吹き飛ばし、凍らせる。食らったら終わりだと、改めて確信させられる。

(そうじゃない)

 フィンは、直線的な動きから方針を変える。考えなしに見えるような、でたらめな動きを取る。

「逃げるにしても、もう少し頭使ったらどうだよ!?」

 分かり切ったことを言われていると、フィンは思う。だからこそ、頭を使って目を凝らす。
 付け入る隙を探る。状況をひっくり返せる何かを見極める。そうだ、自分のやり方はそれだったじゃないか。
 前後左右、縦横無尽。体力など、最後に決め手を打てれば問題ない。
 だから、挑発をやり返すことだって、気にせずできる。

「お前だって、ごり押しばっかじゃねえか!」

 不敵な笑みを添えつつ、大げさに叫んでみせる。

「……てめえ」

 レオンの弾幕に勢いが増す。威力から光球の数まで、全てのレベルを上げてくる。自分の取って置きを前にしてなお見せる余裕に怒気を吐く。

「言ってくれるじゃねえかぁああ!」
「くっ――!」

 そのまま、会場の端まで離脱する。そこから円を描くように、ぐるぐると駆け抜ける。地面をひっかいた槍が、嫌な音を立てて削れる。

「逃げの一手が生意気ほざくかよおぉお!」
「……」

 光球はまっすぐに飛んでくる。多少の変化はあっても、基本的には一直線な軌道を描く。

(そういうこと、なのか)

 レオンの繰り出してきた弾幕を思い返していくと、何かがひらめく。
 それを確かめようと、目を凝らす。光球を打ち出す手ではなく、別のところに視線を注ぐ。

(勝つために取れる手段は?)

 フィンの頭で作戦が組み立てられていく。一か八かとも取れる内容ではあった。
 意表を突いて隙を作りうる内容には違いない。それでも、実行が難しいことには変わりない。
 ただ、迷えば迷うだけ勝率は落ちていくだけだ。フィンは限界に近づいてきているのに、レオンの勢いは衰えを知らない。




「フィン君は何かに気付いたようですね」
 オリヴァントの言葉に、ドロシーが遅れて頷く。
「何か仕掛けるつもりですね――いや、仕掛けを披露するといったところかな?」
「そうですね」
 額の汗を拭うこともせず、師匠が弟子を見守る。
「さて、どうなるかな」
「すぐに分かりますよ」
 そっけない言葉に、オリヴァントが肩をすくめた。
 次の瞬間、フィンが攻勢に転じる。
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