冬の一陽

聿竹年萬

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少年期 港町小旅行編

(49)信用と信頼

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「もう今日は店じまいだ。折角最高傑作を作ったのにこの後に安い刃こぼれ包丁の研ぎだなんだなんて仕事はしたくない気分だからな!」

 槍の調子を見ようと四人は裏庭に出る。巻き藁で作った的や丸太が並んでいる。武具の調子を見るための広場のようであった。
 ダグはさっさと鍛冶場の火を落としてしまい、槍を使ってみるようフィンに促した。

「えっと、どうすれば……」

 その中でいちばん緊張しているのフィンに他ならなかった。ダグもドロシーも自分の手掛けた作品の素晴らしさに自信たっぷりな様子であったし、ダフネも楽しみな様子である。

 白磁のように美しく希少鉱物の内でもなお希少な天金を使って作られた、不思議と手に馴染む美しい槍を手に「こんな分不相応な……」とフィンばかりが緊張している。

「軽く魔力を込めてみてください」

「は、はい! こうでしょうか――うわっ」

 魔力を槍に注いだ瞬間、槍が跳ねようとした。魔力が軸の中で螺旋を描いているのが分かる。軽く魔力を注いだだけで運動エネルギーに代わってしまうくらいに伝導率がよく、内部に組み込まれた魔術触媒の質の良さが察せられた。
 このまま魔術に指向性だけ付与すれば凄まじい推進力を持ちそうである。

「せい!」

 投擲したらどうなるか。
 興味の勝ったフィンは的として立っている丸太に向かってそれを投げつけた。軽い力で投げてみたつもりであったが槍は螺旋回転しながら失速することなく――むしろ加速するように見えた――丸太に到達し、そのまま貫通した。

「当然の質ね」
「当然の威力だな」

 その結果を見て作者二人は満足げである。

「フィンの魔力の性質に最適化しているので抵抗も少なく、一度の投擲で魔力が続く限りターゲットした標的を追従します」
「触媒を内部に螺旋配置しとるからブレも自動修正して失速もしにくいしなあ!!」

「え。え~……」

 肌感覚でわかった。これは魔力を込めれば込めただけ。膂力があればあっただけ乗算的に威力が上がってしまう武器だとフィンは理解した。しかもまだ槍の内部に残留している魔力と自分の手にパスが残っている反応が感じられる。

 妙な確信とともに「戻れ」と念じてみると、槍は丸太から抜けて最短距離を飛来して手の中まで戻ってきた。

 軽く投げるだけで威力と飛距離を持ち、しかも使用者の手元に戻せる術式も組み込まれている。「これはもはや兵器では」とフィンは身震いする。

「こ、こんな、まかり間違って町中で使ったら容易に大量殺戮できてしまうものを渡してしまっていいんですか!」

「大丈夫ですよフィン。その魔術触媒に魔力を通せるのはフィンだけになるよう魔界シールドにも術式を組み込んでいますから」

「大変だったぜ。指の爪先程の管に術式を彫刻するのはよぅ。フンッ、オレッチしかできめえそんな芸当!」

「凄い! 二人ともものづくりの鬼だ!」

 得意気な二人をダフネは無邪気に賞賛する。
 二人が凄いのは間違いない。実際凄い。
 でも、この素晴らしい品で何か事件があれば作り手にもその累が及ぶことだってあるのはフィンにはよくわかる。どれほど道理を説いたって作り手の責任にしようとする人は一定数いる。

 特にこの白い槍のような他にはない逸品であればなお。

「ぼ、僕自身がこれを変なことに使ってしまうとか思わないんですか?」

 フィンは不安に駆られてそう問い返してしまう。

「なんだぁ? そんなこと心配してんのかおめぇ。そんなの当然、おめぇさんならそうならないと思ったから作ったんだし、もしそうなっても構わねえと思えた相手だからお前に渡してんだ。いらねえ心配しないで必要な時に必要だと思った分だけ使え使え」

「それにフィン君はそんなことしないように思うなあ。普通の人と違うし」

「ええ、なにより私がそうはならないようについていますからね……それが師の仕事というものです。もしその槍を気に入ったのなら屈託なく喜んでください」

 何の含みもなく三人がそう口にする言葉にフィンは面食らう。先生だけならまだしも出会って数日の二人のドワーフが何故自分をこんなに信用してくれているのか理由がさっぱりわからなかった。
 しかしながら、その根拠のわからない信用が不思議と信頼できるように感じられ、フィンは嬉しさに目が熱くなった。

「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 深々と頭を下げたフィンに作り手二人は小さく頷いた。

「え~。でもガンガン使ってもらってちょこちょこメンテナンスに来てもらった方があたしは嬉しいな~」

 ダフネの言葉にダグが「グフッ」と笑いを堪えていた。
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