[完結]自称前世の妻と、悪役令嬢の私

夏伐

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5 ブチ切れのようです

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 コンコン。
 扉をノックする音がした。

「入って」

「そろそろお夕食の時間にございます。どうか、どうかお気を落とさずに」

 マーサが今にも泣きそうなほどに狼狽うろたえていた。窓を見ると、反射してうつる私は、近しい人にしか分からないだろうけれど、だいぶ怒った顔をしている。
 ……そうか、私は怒っているのか。

 こんな駄作の適当なオチのモデルにされたことに!

 読みやすく、感情移入しやすい物語ゆえにオチのとってつけたような感じで駄作と表現してしまうほどだ。
 どこのどいつが出版したんだ! 作者は誰だ!

 裏表紙を見ると、皇室の印が押してある。
 皇族一人一人がそれぞれ、狼をかたどった印章を持っている。

 狼をツタの葉で囲んでいる――これは、第五皇子の印章だ。

 皇族お墨付きのモデルのいる小説ということか。何のために……?
 そしてなぜ、私とエリックが登場するのか。

 私は急いで父の書斎に向かった。マーサとアルバンも焦りつつも後ろを着いてくる。気づいたら私は走っていた。
 ドレスのすそを掴んで、ヒールも気にせず走る。

 すぐに書斎に着くと、乱暴にノックした。淑女教育? そんなもの私の怒りの前では何の役にも立ちません! 

「入りなさい」

 父の言葉に、扉を勢いよく開ける。
 あら? この扉ってこんなに軽かったかしら?

「やはりエミリアも怒っているわね。お母さまもよ」

「アルバン、これをアングラード公爵家の当主へ渡してくれ」

「はい!?」

 ぜえぜえと肩を上下させてるアルバンは、反射的に返事をしつつも父から小包こづつみを受け取った。

「旦那様、これは何ですか?」

「例の、駄作本の貴族向けの本だ」

 お父様はかなり怒っていらっしゃるようで、こめかみのあたりがぴくぴくと痙攣けいれんしている。
 小包こづつみの大きさからみるに、私が見せてもらった本よりも分厚い。

 私が帰宅するまでに情報源として、既に購入済みだったか。私は手に持っていた『巡り合う運命』をマーサに手渡した。
 マーサはそっと父に本を運ぶ。

「お父様、この絵本のことですが……」

「ははは」お父様は乾いた笑いをこぼして、すっと表情が消えた。「アルバン、早く行きなさい」

「は、はい!!! ただいま!!!」

 アルバンがばたばたと急ぎながら外に飛び出していった。
 母は常に微笑んでいるが、父は怒ると表情がなくなってしまう。今もブチ切れ寸前のようだ。
 マーサに礼を言って、本を受け取りみんなに見えるように机に放り投げた。

「既に公爵家には大体の話は知らせてある。あの忌々しいオーベルめ……領地戦でも挑んでやろうか……」

「お父様! 落ち着いてください!」

 自分より怒っている人をみると逆に冷静になるなぁ。
 父は机の上で拳をぶるぶると震わせている。

 パン、と言う音に母を見ると、鮮やかに扇を開いて口元を隠している。

「それで、エミリア」

「はい」

「オーベル嬢は学園ではどのような様子なの?」

 母は顔は微笑んでいるが、恐ろしいほどに冷めた瞳をしている。

「まあ本と似たような感じではありますね。ただエリックは嫌がっていますけど」

「そうでなければ娘はやれん! ……エミィが読んだのは絵本だけだったな、こっちではさらに主人公のマリアが様々な男と恋に落ちる話が書いてある」

「まあ、噂ではよく聞きますね」

 女子生徒は婚約者を奪われてしまったり、やっかみの対象になって取り巻きにいじめられたり。本当に迷惑している。友人たちとお茶会を開いても話題はマリアベルの話ばかりだ。

「「エミリア」」

 父と母が同時に私を射抜くように見つめた。
 母が咳払いをしてから、扇をパシンと閉じた。

「あの娘をどうしたい?」
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