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6 手遅れのようです

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 マリアベルをどうしたいか、だなんてそんなもの決まっているじゃないか。
 大人しくしてくれればそれで良い。大人しくしてくれないなら、目に映らないところへ送ってほしい。それだけだ。

 別にあんな子、興味が無い。
 ただ、さすがに目に余る。

「そうか……ただ今回は皇室も関わっていることもあるから、皇帝の耳にも入れなければいけないだろう」

 父の言葉に思い出す。
 そうだ。あのバカ皇子はどういうつもりなのかしら?

「最後に、レミリアと皇子が結婚するだろう?」

 父がダン、と机を叩いた。落ちた書類をマーサが拾い集める。

「はい、途中まではなんだかんだ楽しんで読めていたんです」

「私もよ」

「みんなそうだろう。急に出てくる皇子はなんなんだ一体!」

 父も母も、物語の流れに怒っていたんですね。私もです。
 皇子が出てくるまでは、やってることは悪女そのものなのに主人公マリアをなぜか応援したくなるほど物語に入り込んでしまう面白さだ。

「モデルになっているだろうことは、侮辱とまでは言えませんからね。言い逃れされたら追及できないわ」

「私と、ふふ、アリアの仲も劇にされたくらいだからな」

 お父様は思い出したのか、急に表情がほわほわと緩んでいる。お母さまがピシリと扇で机を打った。お父様は、途端にしゃきりとした顔に戻る。

 私は、マリアベルの他に処遇を決めたい人がいたことを思い出した。

「ああ、オーベル嬢はいいので、この本の作者を見つけたら連れてきてください」

 他に被害にあっている令嬢には悪いが、私とエリックの仲は揺らいでない。きっと作者を見つけたら八つ裂きにしたいと思うモブ役の令嬢もいることだろう。

 辛い思いをしたのに創作物で群衆の一人だなんてことも、彼女たちの怒りに油を注ぐようなものだ。

「作者を捕まえてどうするんだ?」

「保護いたしますわ。皇室も作者をとらえたいと思うでしょうから、先に話をつけてくださいませ」

「分かった、何とかしてみよう」

 お父様まで話を聞いているということは、そろそろ学園の子供社会も終わるのだろう。子供が支配して支配される小さな世界が瓦解がかいする。

 今までは小さな社交場として、機能していた学園はもうマリアベルのおかげで大混乱だ。
 継承権が低いとはいえ皇子が関わっているものに、教師が手を出すはずもない。

 だからこそマリアベルの横暴が今まで放置されてきた。

「それと、エミリア」

「はい」

 お母様が扇で冊子を叩く。

「これ、魔法がかかっているわ。弱いけれどね」

 その言葉に目をらすと、確かに微弱だけれど魔力の流れを感じる。
 よく読み取っていくと『触れたものの感情を増幅させる魔法』がかかっている。精神支配の魔法の一種のようだ。

「この魔法のせいで……」

「うちに連日来てた連中の原因はこれだな。普通はムカついてもあんな人数で押しかけてこない」

 父が納得したように頷いている。
 確かに身分で分断されたようなこの国で、暴動でもないのに貴族家に押し掛けてくるなんて、死ににくるようなものだ。

 うちは幸い、穏便に殴ってから帰しているけれど、その場で叩き斬られてもおかしくはない。

「精神支配魔法で暴動を誘発しているととらえられてもおかしくない状況ですね……テロでも起こすつもりなんでしょうか」

 私の言葉に、母はにこりと微笑んだ。大昔に、社交界を支配した女帝の笑みだ。

「さあ、ただそうとらえられてもおかしくはないってことよね」

 マリアベルは目障めざわりなだけで、憎くはないのですが彼女はどうやら終わりのようです。
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