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引いてダメなら
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古くから恋愛事において、押してダメなら引いてみろという駆け引きがある。
獲物が逃げれば追いたくなるのが自然の摂理である。
俺の幼馴染み、夕鶴トマリもまたその性質の持ち主ではないだろうか。
今までの俺は禁欲に固執するあまり、トマリのアプローチをかわしすぎていた。その結果、彼女の狩人的本能を引き出していたのかもしれない。
そこで逆転の発想として、俺がトマリにアプローチをすればどうだろう。
もちろん、ただトマリを受け入れるのではない。引くのを止めるのではなく、俺が押す側に回るのだ。
またアプローチの仕方もただ好意を見せるのではない。常人ならば百年の恋も冷めるような偏愛を見せる。
そうすれば、トマリも自らの行動を省みるようになり、禁欲の妨害も鳴りを潜めるかもしれない。
我ながら名案だと思う。
俺はさっそく、とある写真と写真立てを用意した。
明日の朝侵入してくるであろう、トマリの驚く顔が楽しみである。
カフェインをたっぷりと摂取し、早朝になってもなお俺の意識ははっきりとしている。
布団をかぶって今か今かと待ちわびていると、がらりと窓が開きトマリが部屋に侵入してきた。
「んふふ……おはようございまぁす……」
早朝ドッキリさながらの台詞を呟きつつ、彼女はそろりそろりと俺のベッドに近寄ってくる。
俺は笑いを噛み殺しながら、彼女が目覚まし時計の傍にある写真立てに気づくのを待った。
「ススムちゃん、朝だよぉ……ん?」
かかった!
俺の頭の上を通り越し、トマリの腕が写真立てに伸びていく。彼女はそれを手に取った。
「これ、私だよね……?」
写真立てにはトマリの写真が入っている。それもあえて不鮮明に撮った盗撮風の写真だ。
さながらストーカーのような行為。これは不快感が高いだろう。さあ、ドン引きして悲鳴をあげろ!
「そんな……ススムちゃん……」
幼馴染の偏愛の証拠を見て、トマリが押し殺したような吐息を漏らす。
「部屋中に私の写真を貼るなんて……」
あれ!? まったく心当たりのないこと言ってる!?
思わず飛び起きてあたりを見回すと、部屋中に所せましとトマリの写真が貼ってある。
「怖い怖い怖い! ついさっきまでこんなんじゃなかった!」
「ススムちゃんにこんな一面があったんだねぇ」
「ないよ! こんなことしてたら新聞の一面を飾るわ!」
俺の反応とは裏腹に、トマリの表情はいつも通りにこにことしている。
つまり俺の企みを見抜かれ、からかわれたのだ。
「ああ、もう……驚かせやがって……いやこれどうやったの? 一息つけないわ」
彼女が来るまでは写真立て以外、いつもと変わらぬ部屋だったのである。
この奇怪な部屋をいったいどうやって作ったんだ。
「え? いつもみたいにえいってぇ……」
「なんでいつもふわっとしてるの? 人を超えるってそういうことなのか?」
呆れながらも貼られた写真を剥がしていく。よく見てみると、そのどれもがトマリの際どい自撮りだった。
カフェインの興奮作用もあってか、俺の股間に血が流れ込んでいく。
「んふふ……すっきりする?」
「し、しない!」
囁かれた誘惑を振り払い、写真の片づけを続ける。
部屋中が元通りになると、トマリが写真立てを置き直した。
「これはこのままでいいよねぇ?」
「いや、それはだな……」
「ドッキリを仕掛けれて、ちょっと驚いたのになぁ……?」
「驚いたのは俺のほうだ!」
しかしトマリをはめようとしたのも事実であるので、俺は渋々写真立てをそのままにした。
再び写真立てを見ると、中身が彼女の笑顔が写った自撮りにすり替えられている。
やはり彼女に対して引くべきではない。結果的に、彼女の侵攻を許してしまったのだから。
獲物が逃げれば追いたくなるのが自然の摂理である。
俺の幼馴染み、夕鶴トマリもまたその性質の持ち主ではないだろうか。
今までの俺は禁欲に固執するあまり、トマリのアプローチをかわしすぎていた。その結果、彼女の狩人的本能を引き出していたのかもしれない。
そこで逆転の発想として、俺がトマリにアプローチをすればどうだろう。
もちろん、ただトマリを受け入れるのではない。引くのを止めるのではなく、俺が押す側に回るのだ。
またアプローチの仕方もただ好意を見せるのではない。常人ならば百年の恋も冷めるような偏愛を見せる。
そうすれば、トマリも自らの行動を省みるようになり、禁欲の妨害も鳴りを潜めるかもしれない。
我ながら名案だと思う。
俺はさっそく、とある写真と写真立てを用意した。
明日の朝侵入してくるであろう、トマリの驚く顔が楽しみである。
カフェインをたっぷりと摂取し、早朝になってもなお俺の意識ははっきりとしている。
布団をかぶって今か今かと待ちわびていると、がらりと窓が開きトマリが部屋に侵入してきた。
「んふふ……おはようございまぁす……」
早朝ドッキリさながらの台詞を呟きつつ、彼女はそろりそろりと俺のベッドに近寄ってくる。
俺は笑いを噛み殺しながら、彼女が目覚まし時計の傍にある写真立てに気づくのを待った。
「ススムちゃん、朝だよぉ……ん?」
かかった!
俺の頭の上を通り越し、トマリの腕が写真立てに伸びていく。彼女はそれを手に取った。
「これ、私だよね……?」
写真立てにはトマリの写真が入っている。それもあえて不鮮明に撮った盗撮風の写真だ。
さながらストーカーのような行為。これは不快感が高いだろう。さあ、ドン引きして悲鳴をあげろ!
「そんな……ススムちゃん……」
幼馴染の偏愛の証拠を見て、トマリが押し殺したような吐息を漏らす。
「部屋中に私の写真を貼るなんて……」
あれ!? まったく心当たりのないこと言ってる!?
思わず飛び起きてあたりを見回すと、部屋中に所せましとトマリの写真が貼ってある。
「怖い怖い怖い! ついさっきまでこんなんじゃなかった!」
「ススムちゃんにこんな一面があったんだねぇ」
「ないよ! こんなことしてたら新聞の一面を飾るわ!」
俺の反応とは裏腹に、トマリの表情はいつも通りにこにことしている。
つまり俺の企みを見抜かれ、からかわれたのだ。
「ああ、もう……驚かせやがって……いやこれどうやったの? 一息つけないわ」
彼女が来るまでは写真立て以外、いつもと変わらぬ部屋だったのである。
この奇怪な部屋をいったいどうやって作ったんだ。
「え? いつもみたいにえいってぇ……」
「なんでいつもふわっとしてるの? 人を超えるってそういうことなのか?」
呆れながらも貼られた写真を剥がしていく。よく見てみると、そのどれもがトマリの際どい自撮りだった。
カフェインの興奮作用もあってか、俺の股間に血が流れ込んでいく。
「んふふ……すっきりする?」
「し、しない!」
囁かれた誘惑を振り払い、写真の片づけを続ける。
部屋中が元通りになると、トマリが写真立てを置き直した。
「これはこのままでいいよねぇ?」
「いや、それはだな……」
「ドッキリを仕掛けれて、ちょっと驚いたのになぁ……?」
「驚いたのは俺のほうだ!」
しかしトマリをはめようとしたのも事実であるので、俺は渋々写真立てをそのままにした。
再び写真立てを見ると、中身が彼女の笑顔が写った自撮りにすり替えられている。
やはり彼女に対して引くべきではない。結果的に、彼女の侵攻を許してしまったのだから。
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