目立ちたくない英雄はコッソリ世界を救いたい

四畳半

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第15話 親心と子の想い

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ミケ達と別れ家に戻った俺は今後の事について考えていた

前々から気になっていたミヒャエルとこんな形で繋がりが出来るとは…

それにカノンと俺に更なる共通点が出来るとは思ってもみなかった

ここまで来ると運命の様な気がしてきたな…

昔から俺にはあの物語が自分に全く関係が無い様にはどうしても思えなかったからな

それに、忘れていた訳では無いがタズキとの事もあり、どんな理由を付けて海外へ出るかを模索していた所だった

多少は興味本位な所が無いとは言えないが、呪いを解く為の旅に出る理由として俺には十分だった

タズキとの約束まで後2週間余り…

色々と準備や根回しを含めれば、そろそろ本格的に動かなければいけないだろう

カノンと話しが出来たこのタイミングしか無いと思い、夕食後の両親に声を掛ける

「あの…お父さん、お母さん、聞いて欲しい事があるのでちょっと良いですか?」

食事が終わり、ビールを飲んでいた父はコップを置き、

「ん?どうしたジュン、改まって…」

食べ終わった食器を片付けている母はその手を止め、

「何?改まって話しがあるなんて」

そんな2人に俺が話し始める

「…実はこの夏休みが終わったらフランスにホームステイに行きたいと思っています」

母はかなり驚いた様子で、

「え?フ、フランス?それにホームステイってどういうこと?」

父は戸惑っている様だが冷静に、

「…突然過ぎてちょっと理解が追い付かないな」
「とりあえず話しを聞くから順序立てて説明してくれないか?」
「理由も無くそんな事を言うとは思えないからな…」

そんな2人の様子を見た俺はひとつ深呼吸をして話し出す

「…突然こんな話しをしたら驚くとは思っていたので、ちゃんと説明します」
「実は小さい頃からフランスの文化や歴史に興味があったんです」
「おじいちゃんがフランス生まれだったのがずっと気になっていて、今でもよく図書館へ行ってフランスの事について僕なりに調べていました」
「…それでこの前もその図書館でフランスについて調べていたら、そこに来ていた人と仲良くなって…」
「色々と話しをしていく内に、その人が幼い頃にフランスに住んでいた事があって、そのフランスの知り合いが僕がの好きだった本を書いた作者さんだったんです」
「初めの頃はただの興味でしかその人の話しを聞いて無かったんですが、実際にフランスに行きたいという気持ちが大きくなってきました」
「そして最近になってその思いをその人に話したら、僕さえ良ければその作家さんと連絡を取ってくれる、と言う事になったんです」
「でもちゃんと両親に話してから決めて欲しいって言っていたので、その事を話したくて聞いてもらいました」

俺の話しを黙って聞いていた父が、

「そうか…で、その人っていうのは誰なんだ?」
「全く知らない人の言う事に賛成は出来ないぞ?」
「それにフランスに行くって言っても学校はどうするんだ?」
「向こうの言葉だって分からないのに、どうやって生活するつもりなんだ?」

そういう反応が返って来るのは分かっていたので俺は、

「…その人は、今芸能界で働いていて、歌手をしている『如月カノン』さんという方です」
「そのカノンさんは僕の通っている学校の卒業生で、仕事の関係でこっちに来ていた時に寄った図書館でフランスについて調べている僕に声を掛けてくれたんです」
「…その、フランス語はまだ分からない(嘘)ですが、カノンさんが知り合いの作家さんは日本語も話せる人(嘘2)って言ってました…」
「かと言って、海外に行く事は不安もありますが…」
「…それでもフランスに行きたい気持ちが強いんです!」
「それで…学校は…出来れば休学届けを出せればと思っていますが、退学してでも行きたいと思ってます」

これまであまりの驚きに言葉を失っていた母が、

「ジュン…あなたいつからそんな…」
「私のお父さんは確かにフランス人…小さい頃は私もフランスで生活していた時はあったわ」
「お父さんとジュンが仲良くしていたのは知っていたけど…フランスに行きたいだなんて思っているとは思ってなかった…」
「だけどねジュン…学校はそんなに簡単に休んだり辞めたりする所じゃないわよ?」
「今は良いかもしれないけれど、今後必ず後悔する事になるかもしれないのよ?」
「それにあなたはまだ中学生じゃないの…もっと大人になってからじゃ駄目なの?」

母の言葉に頷き聞いていた父が、

「…確かに母さんの言う通りだと俺も思う」
「世間から見てもまだ幼いお前を海外にホームステイさせるのは抵抗がある」
「正直勉強に関して言えば学校に通わなくも、努力次第でどうにかなるかもしれない」
「だけど、世間はそんなに甘くは無いと父さんは思う」
「ある程度人間としての成長をしなければ世間では通用しないかもしれない」
「ジュンの父親としては反対したいのが本音だ」
「…だが、父としてではなく男としてジュンの考えに答えるとしたら、今持っているその情熱が冷める前に動いた方が良いとも思う」

と父が言うと母が血相を変え、

「あなた!何言っているの?ジュンはまだ子供なのよ?」
「ジュンの事が心配じゃないの?」

すると父が母を落ち着かせる様にゆっくりと話し始めた

「母さん…親が子供の心配をしない訳ないじゃないか…」
「もちろん親としては引き止めたい気持ちだよ」
「でもな母さん、今までジュンがこんなに改まって自分のやりたい事を言ってくれた事があったか?」
「こっちに引っ越す時だって、今通っている学校に行く時だって何一つ不満も言わず、俺達の都合に合わせてきてくれたと思ってみてくれ」
「守りたい気持ちはあるが、自分の子供が自分の意思でやりたい事を本気で訴えているのが分かる」
「…ジュンは俺達夫婦の宝物である事は変わらない」
「そんな親である俺達がジュンにしてあげられる事は他にもあるだろう?」
「なぁ母さん…ここは一度だけジュンの我儘を聞いてあげないか?」
「もしそれで挫折や後悔があったとしたら、親の俺達が支えてやればいいと思うんだ…」
「…どうかな?」

それを聞いた母はあまり納得はしていない様で、

「…あなたが言いたい事や思っている事は分かるわ…」
「でももしジュンの身に何かあったらと思うと、私怖くて…」
「出来ればずっと私の手が届く所にいて欲しいと思っているわ…」
「……でもきっと、いつかは私達の手を離れて生きていく事になるのよね…」

そして自分に言い聞かせる様に母は続けて、

「あなたが言う通り、もしかしたらジュンにとったら今しか出来ない事かもしれないわね…」
「その年で何かを決断するのはまだ早いかもしれないけど、挑戦する事に早いも遅いもないのかもしれないわね?」
「正直本心では納得は出来ないけど、ジュンが本当にやりたいと心に決めている事には応援してあげたい気持ちよ?」

それを聞いた俺は少し複雑な気持ちだった

このフランス行きはあくまでも俺に掛けられ呪いを解く為のものだが、両親の葛藤を聞いた俺は、自分の我儘で両親を苦しませていると感じていた

それと同時に、この両親の間に生まれて良かったともつくづく思えた

こんな中学生の我儘に心の底から考えてくれて、苦しんでくれて、悩んでくれて、そして答えをだそうとしてくれている

もし俺に呪いが掛けられていなければ、この両親の元で生涯を幸せに暮らせる事が出来たのではないだろか

そう思いながらも、己に掛けられた呪いを解くためには今動くしか無いと自分に言い聞かせる

「…2人が心配してくれる事も、もちろん反対される事も承知でした」
「だけど今しかないと僕は思ったんです」
「偶然にも繋がったこの機会は、僕のこれからの人生を変えてくれるものだと感じています」
「お父さん、お母さんには迷惑を掛けます」
「学校の先生やクラスの皆にも迷惑は掛けると思います」
「でも今感じているこの気持ちには嘘を付きたくないんです!どうかフランスに行く事を認めて下さいっ!」

と頭を下げ両親に懇願した

「…頭は下げなくていい」

と父が言葉を振り絞る様に言い、母も優しく、

「…ジュン?あなたの気持ちはちゃんと私達に伝わっているわよ?」

と言ってくれた

父は少しの沈黙を挟んで、

「…分かった…フランスへのホームステイは認めよう」
「…母さんも、それで良いな?」

母は複雑な表情をしているが、

「…うん…お母さんも認めるわ」

更に父が俺の目を真っすぐ見て、

「…但しいくつか条件がある」
「まずは、向こうに行く前にそのカノンさんに会わせて欲しい」
「少しでもいいから直接カノンさんに会ってジュンの事を話したい」
「それと、向こうにいる間は連絡を取れる状態にしてくれ」
「お前の声も聞きたいし、安否確認だと思ってくれ」
「…最後に一つ、周りにいるどんな人にも感謝を忘れるな」
「今までも、そしてこれからもジュンの周りには助けてくれる人が沢山いる筈だ」
「感謝を忘れず、人を大事に思う事は絶対に忘れないでくれ、いいな?」

その言葉に心臓をグッと掴まれる様に強い決意を感じた俺は、

「はい!分かりました」

と父の目を力強く真っすぐに見つめて言った

すると母がこの緊迫した空気を和ませようと思ってくれたのか、

「…さっ、話しも付いたし今日はもう遅いから」
「明日も学校でしょ?寝坊したらいけないからもう寝ましょ?」

と言ったのを聞いた父が

「おっと、母さんの言う通りだな」
「俺も朝からお得意さんの所に行かなくちゃいけないからもう寝ないとな?」
「ジュンも早く寝て元気に学校行かなくちゃな!」

と言い、俺は寝支度をしに自分の部屋に戻った

いつも普通に部屋へ向かって登っている階段が、今日は辛く長く感じていた

部屋に戻った俺は明日の事を考えていた

明日ミケに連絡してカノンに会えないか確認しなければな…

うまくカノンがミヒャエルと連絡取れてればいいが…

それに一度タズキと会ってこれからの事も話さなくちゃいけないな…

…それに…………スゥ…スゥ

と考えている内に俺は眠ってしまっていた

第16話に続く
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