ひよこクスマ

プロトン

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第1話 不幸なクスマ

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月はまるで冷たい銀の鋲のように、夜空にぽつんと高く懸かっている。

広大な草原を、一羽の黄色いひよこが首をすくめながら、独り散歩していた。

夜風は骨身に染みるような寒さを帯び、ヒューヒューと音を立てて草原を吹き抜け、枯草をカサカサと鳴らしている。冷気は容赦なく彼の乏しい羽毛の隙間に侵入し、彼は思わず全身を震わせ、派手な身震いをした。

「くぅーっ……寒すぎる……」

ついてなさそうに首をすくめ、翼をこすり合わせて暖を取っている、このひよこの名は、クスマ。

月光が彼の孤独な影を細長く引き伸ばし、荒涼とした草地に投射して、その姿をいっそう物悲しく見せていた。

……彼がこんな真夜中に、鳥も通わぬような場所で独り過ごしている理由は、彼が今まさに(彼自身がそう思い込んでいる、運命に関わる)悲壮な試練を行っているからだ。

(なんで「緑星の意志」は、こんな人里離れた辺鄙な場所を指定してくるんだ?しかも真夜中って……羽毛も生え揃ってない、育ち盛りのひよこへの配慮はないのかよ!?)

クスマは不満たらたらで、凍えて強ばった翼の先を伸ばし、頭頂にある力なくしなだれ、夜露に濡れた小さなものを力なく弾くと、深いため息をついた。

「はあ……」

もしあなたがよく見れば、このひよこが少しおかしいことに気づくだろう。

いや――非常におかしい。

なぜかって?なんと彼の頭には、植物が一本生えているのだ!

――そしてこの植物こそが、この『緑星』と呼ばれる奇妙な惑星において、全ての力と栄光の源なのだ。

この星には人類はおらず、ひよここそが支配者である。

彼らが万物の頂点に立ち、この大陸を統治できるのは、古来より伝わる『超凡能力』と呼ばれる奇跡の力があるからだ。

だが、この力は生まれつき備わっているものではない。大多数のひよこは、一生を平凡に終える運命にある。ごく少数の天賦の才に恵まれた幸運な者だけが、大人になる時、運命を決定づける覚醒を迎える機会を得る――頭頂に芽吹き、唯一無二の『共生植物』を誕生させるのだ。

この植物は彼らと生涯を共にし、彼らにあの渇望してやまない『超凡能力』を授ける。

そしてひよこたちは皆、ある残酷な真理を信じている。強い植物は、強い潜在能力を意味する。一方で、弱く、哀れな植物は……

そこまで考えて、クスマの顔色は一瞬にして悲痛なものに変わった。彼は勢いよく顔を上げ、夜空に向かって歯ぎしりした。

「なんでよりによって……」

─ (•ө•) ─

時は一週間前に遡る。

それは運命を変える午後だった。

当時、クスマは長老に教わった通り、ベッドの上であぐらをかいて瞑想し、目を閉じて、体内の実体のない魔力の流れを感じ取ろうとしていた――

突然!心臓をえぐるような激痛が、何の前触れもなく彼の頭頂から猛然と走った!

「うわっ!」

彼は痛みに悲鳴を上げ、体を激しく縮こまらせ、まるで尻尾を踏まれた猫のようにベッドから飛び起きた。その後、慌てて目を閉じ直し、痛みをこらえながら、精神を集中させて自分の体の中を探った。

……彼には「見えた」。

クスマが深く考える間もなく、全身の元々は穏やかだった魔力が、まるで何かの強烈な呼びかけを受けたかのように、狂ったように頭頂へと集中し始めたのだ。魔力は高速で回転しながら、頭頂の上方に集まっていき、最終的に翠緑色の光を放つ魔力の渦を形成した。

その時クスマは理解した――

これは頭痛でもなければ、魔力の暴走でもない。これは伝説の『共生植物』が今まさに発芽しようとしている前兆なのだ!

彼は怠けることなく、すぐに歯を食いしばり、死に物狂いで全身全霊の魔力をその渦へと注ぎ込んだ。丸々二時間、汗が彼の下のシーツを濡らし、彼は自分の頭が爆発しそうだと感じていた。

ついに、魔力の渦が極限まで膨張し、今にも噴出しようとしたその瞬間、彼はまるで星の意志からの祝福の囁きを聞いたかのように感じた。それは神聖で荘厳な声だった。

クスマは興奮のあまり全身を震わせた!!!

「来た!俺の……俺の共生植物がついに来た!」

彼は興奮を抑えきれず、勢いよくベッドの上で跳び上がり、両翼を高々と掲げ、まるで全世界を抱きしめたかのようだった。

「俺は子供の頃から村で一番優秀なひよこだった、テストはいつも一番だ!そして今、ついに発芽の時が来たんだ。俺の努力が裏切られるはずがない!」

彼は両翼を握りしめ、頭頂から溢れ出そうとする生命力を感じ、自分が天命を受けた主人公なのだと感じていた。

「今こそ奇跡の時だ!今日から俺は村で一番優秀なひよこになる!いや……」

彼は傲慢に高笑いした。その笑い声は部屋の窓ガラスをビリビリと震わせるほどだった。

「――国で一番優秀になってやる、ガハハハハ!」

彼の狂ったような笑い声と共に、魔法の渦が頭頂から猛然と飛び出し、翠緑色の光の中、一株の植物が急速に形を成し、そして開いた。

彼は休む間もなく、転がるようにベッドから降り、ドレッサーの上の鏡をひっ掴んだ!

「見せてくれ!ラフレシアか?それともリュウゼツランか?」

彼は震えながら、鏡を頭上に掲げ、期待に満ちた目で、生まれたばかりの、彼の一生の栄光と未来を象徴する植物を見た!

そして、彼の顔の狂喜は、鏡の中の像を見たその瞬間、完全に凍りついた……

鏡の中には、ひょろりと細長く、白くて瑞々しい、てっぺんに薄黄色の豆を乗せたものが、彼の動きに合わせて、力なく揺れていた。 

「……」

死のような静寂。

「……あああああ!!!!なんだこの得体の知れないものは?!」

悲痛な叫びが午後の静寂を切り裂いた。

鏡が彼の力の抜けた翼から滑り落ち、「ガチャン」と鋭い破砕音を立てた。

その瞬間、クスマは意識を失い、白目を剥き、脱水した金魚のように口から泡を吹き、棒のように真っ直ぐ、硬直したまま後ろへ倒れていった。

「ドサッ!」

彼はその崩壊した姿勢のまま、音を聞きつけてやって来た両親に発見され、パニックの中で救急搬送されるまでそのままだった……

─ (•ө•) ─

時は現在に戻る。

夜風は相変わらず冷たい。

「ひよこが覚醒する植物はランダムだから……」

クスマは地面にしゃがみ込み、両翼で膝を抱え、もう何度目か分からない自己慰めをしていた。

「小さくて弱い植物でも、必ずしも上限が低いとは限らない……」

しかし、現実は常に残酷だ。彼は頭頂の風に震える小さなものに触れ、悲しみがこみ上げてきた。

「あああ……なんで『もやし』なんだよ!!!」

彼は悲憤のあまり地面の草をむしり取り、天を仰いで叫んだ。

「もやしは短くて弱いし、見た目も間抜けだ。こんな格好じゃ絶対に女の子にモテない!俺の青春……俺のモテ運……全部終わりだ!」

クスマは頭のもやしに触れながら、悲しげな顔でぶつぶつと言い、全身から負け犬のオーラを漂わせていた。

その後、一陣のさらに激しい冷風が吹き抜け、彼は再び激しい身震いをして、思考が現実に引き戻された。

「……くぅーっ、寒すぎるぅぅぅ。本当にここで、能力を覚醒させる機会なんて見つかるのか?」

彼は立ち上がり、凍えた足をドタバタと踏み鳴らした。

時間を昨日に戻そう。

クスマが馬鹿みたいにこんな夜中にここにいるのは、昨日のあの忌々しい『占い』のせいだ。

この世界では、植物を覚醒させたばかりのひよこが最初の能力を目覚めさせるには、まず『緑星の意志』と感応しなければならない。

一度緑星の意志がその感応を察知すれば、応答として『占い』を下す。
そしてその『占い』の内容ときたら――

――時には非常に明確で、時には超曖昧なのだ!

そしてクスマが得た『占い』は、内容は異常に明確だった:

『明日の夜、汝に最も近しい草原にて、破壊と再生』

「占いの内容は明確だったはずなのに……」

クスマはその場でイライラと歩き回り、口の中で絶えず文句を言っていた。

「『破壊』は?『再生』は?一体何を破壊するっていうんだ?俺はもう凍ってアイスキャンディーになりそうだぞ。なんでまだ何も起こらないんだ?俺の忍耐力を破壊するつもりか?」

彼が文句を言い終えた、その瞬間だった――

元々漆黒だった夜空が、何の前触れもなく、目に刺さるような真紅色に染まった!

灼熱の熱波が空から降り注ぐ。

驚いたクスマはすぐに顔を上げた。

続いて、彼の瞳孔が猛烈に収縮した。

彼が見たのは、長い尾を引き、燃え盛る炎を纏った巨大な隕石が、夜空全体を照らし出し、天地を滅ぼすような気迫と共に、真っ直ぐに、一寸の狂いもなく、彼のいる場所へ向かって高速で飛来してくるところだった!

「ゴゴゴゴゴ――」

巨大な轟音がようやく彼の耳に届いた。

隕石は彼の視界の中で急速に拡大し、恐怖の熱波が顔に押し寄せ、瞬時に周囲の水気を蒸発させ、彼の頭のもやしさえも少し干からびさせてしまった。

その生死の一瞬、彼は恐怖で全身の羽毛を逆立て、脳裏に閃きが走り、突然あの占いの意味を悟った。

そして。

彼は張り裂けんばかりの、絶望に満ちた叫び声を上げた――

「占いで破壊されるものって……俺のことだったのかああああああああ!!!」
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