ひよこクスマ

プロトン

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第2話 俺、本当に強くなったのか?

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「ああああああああ!!!」

クスマの悲鳴は、巨大な轟音にかき消された。

燃え盛る隕石が猛スピードで接近するにつれ、周囲の空気はまるで巨大な見えざる手によって握りつぶされるかのように圧縮され、恐怖を覚えるほどの高温と高圧で視界に入る全てが激しく歪み始めた。

時間の感覚が無限に引き伸ばされた。クスマは世界が無理やりスローモーションにされたかのように感じ、一秒一秒がまるで一世紀のように長く感じられた。

(あぁ……これが噂の「走馬灯」ってやつか?)

彼は村の説教好きの年寄り連中から聞いたことがあった。死ぬ直前のその瞬間、一生の記憶が絵巻物のように目の前で展開されるのだと。

どうせ逃げられないのならと、彼は潔く目を閉じ、この最後の一瞬に何かを掴もうとした。彼は人生のすべての美しいものを覚えておきたかった――例えば三日前にこっそり食べた、母さんが瓶に隠していた蜂蜜クッキーのこと。五歳の時に泥んこになって転げ回り、体中汚れたけど最高に楽しかったあの午後のこと。それから……

(くそっ!なんでいい思い出がこんなに少ないんだよ!)

クスマは悲しく思った。高温のせいで羽毛の先が縮れて焦げ臭い匂いを放っているのさえ感じ、命がまさに尽きようとしているのを悟った。

その時だった――

「ヒュンッ――」

微小な、未知の青い光の点が、突如としてその天地を滅ぼす隕石の核から弾き出された。

それはあらゆる物理法則を無視し、時空を超える弾丸のように、何層もの熱波を一瞬で貫き、寸分違わずクスマの眉間に吸い込まれた。

冷たく、見知らぬ、しかし奇妙な感覚が急速に全身へと広がり、続いて、彼の意識はまるでスイッチを切られた電球のように、一瞬にして底なしの闇に飲み込まれた……

─ (•ө•) ─

「ああああああああ!!!」

凄まじい叫び声が、正午近くの静寂を破った。

クスマはバネのように跳ね起きた。ベッドの上で飛び起き、目を見開き、顔中に恐怖を張り付かせていた。

彼は荒い息を吐き、心臓は胸郭の中で狂ったように打ち付け、まるで飛び出してきそうだった。冷や汗が額を伝い落ち、シーツに染みを作る。

目に映ったのは、地獄の業火ではなく、見慣れた、少し散らかった自分の部屋と、窓の外に高く昇った、少々眩しい太陽だった。

彼は自分が傷一つなく自宅のベッドに寝ていることに気づいた。羽毛の一本すら欠けていない。

「……あれ?」

彼は呆然と頭を下げ、信じられないといった様子で自分の体を触り、さらに自分の翼を力いっぱい抓った。

「痛っ!」

痛みはある。肌は滑らかで柔らかく、焦げ臭い匂いなど微塵もない。

「ハハハ!ハハハハハ!」

彼は突然、九死に一生を得た乾いた笑いを爆発させ、骨を抜かれたようにベッドへ倒れ込み、大の字になった。

「隕石に当たるわけないじゃないか!やっぱりな!あー怖かった!」

彼は翼の先で額の冷や汗を乱暴に拭い、大きく息を吐いた。

「わかったぞ!きっと俺が能力を欲しがりすぎてたから、あんなにリアルな悪夢を見たんだ!そうに決まってる!」

クスマがそう自分を慰め終わった直後、彼の安堵の表情が突然強張った。

おかしい。

本当におかしい。

彼は慌てて目を閉じ、精神を集中させて瞑想状態に入った。

次の瞬間、彼は驚喜した。自分の脳内にある、本来なら空っぽのはずの魔力の源が、なんと本当に覚醒していたのだ!微弱だが確かに存在する魔力がゆっくりと流れている。それは彼自身の、最初の能力だった!

だがそれと同時に、彼の意識の片隅に、奇妙な、微光を放つ青い点が一つ増えていた……

(……なんだこれ?おまけ付きか?まあいい、今はそんなことより!)

クスマが興奮してベッドから飛び降り、夢にまで見た最初の能力を試そうとした、まさにその時――

「バンッ!」

ドアが乱暴に押し開かれ、その轟音でドア枠が外れそうになった。

彼の母さんが制御不能の竜巻のように飛び込んできた。顔中涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、エプロンを外す暇さえなく、彼を力いっぱい抱きしめた。

「うわあああん!クスマ!私の大事な子!目が覚めたのね!やっと目が覚めたのね!無事で本当に良かった!何日も昏睡状態だったのよ、母さん心配で死にそうだったわ!」

母さんの渾身の抱擁に、クスマは自分の肋骨が悲鳴を上げているのを感じた。

「か、母さん……は、離して……し……死ぬ……」

クスマは締め付けられて白目を剥き、両足を空中でバタバタさせた。

「あなたが隕石で粉々にならなくて良かった! 本当に良かった!うわああああん(இдஇ)」

母さんの泣き声は耳をつんざくようで、屋根を吹き飛ばさんばかりだった。彼女は手を緩めるどころか、さらに強く抱きしめた。まるで手を離せば息子が消えてしまうかのように。

クスマは顔を真っ赤にして、母さんの厚く温かい羽毛の中から必死に頭を半分出し、絞り出すように言った。

「粉々になったら……それって、チキンマックナゲットになっちゃうんじゃないか?」

「ゲフッ!」

母さんの泣き声がピタリと止まり、大きなげっぷの音が響いた。

彼女は勢いよく手を離し、涙のたまった目を不思議そうにしばたかせ、呆然と息子を見つめた。

「……『ちきんまっくなげっと』って何?」

「『チキンマックナゲット』っていうのは……えーっと……」

クスマは答えようとして、言葉に詰まった。そうだ、チキンマックナゲットって何だ?

その時、彼の脳内のあの青い点が、突然激しく明滅した。

膨大で、全く自分のものではない知識が、決壊した洪水のように一瞬で脳内に流れ込んできた。

クスマの目は虚ろになり、口が勝手に、まるで本を読み上げるかのように呟き始めた。

「『チキンマックナゲット』とは、骨を取り除いた鶏の胸肉と腿肉を細かく刻み、食感を良くするために少量の鶏皮を加え、特製の調味料を混ぜ合わせたものだ。その後、工業用金型を使って高圧で成形し、三層の特製小麦粉と衣をまぶし、予備揚げで形を整えてから急速冷凍し、その後チェーンレストランで高温で黄金色になるまで揚げる……」

(えええええ!)

クスマの内心は絶叫していた。

(俺は何を言ってるんだ?なんで俺の頭の中にこんなに奇妙で、ちょっと気持ち悪いくらい詳細な知識が増えてるんだ!?しかもなんか美味しそうに聞こえるのはどういうことだ!?)

母さんは明らかに全く理解できていなかったが、呆然と息子を見つめ、しばらくしてようやく我に返った。

息子の言ってることはちんぷんかんぷんだが、これだけ複雑なことを一気に喋れるのを見る限り、頭は壊れていないようだし、体も大丈夫そうだ。

「うわあああん!馬鹿になってなくて良かった!馬鹿になってなくて良かったわ!」

こうして、彼女はまたクスマを抱きしめて丸々一時間も号泣し続け――クスマがもう生きる気力を失うほど泣かせた後、ようやく涙を拭きながら部屋を出て行ってくれた……

「ふぅ……母さんがやっと行った」

クスマは泥のようにベッドに倒れ込み、虚ろな目で天井を見つめた。

その後、彼は体を動かし、体の下がびしょ濡れでべたつくのを感じた。

「……俺の布団、母さんの涙で水没してる……今夜どうやって寝ればいいんだよ……」

彼は仕方なさそうに起き上がり、体についた涙を嫌そうに振り払った。

「まあいい、大事なのはこっちだ!まずは最初の能力を試してみよう!」

彼はベッドから飛び降り、興奮して右翼の先を伸ばし、格好いいポーズを決めた。

「まずは基本として、もやしを一本、作ってみるか!」

クスマは精神を集中させ、体内の生まれたばかりの魔力を動かした。翼の先が微かに緑色に光り、「ポン」という軽い音と共に、小さくて、少し栄養失調気味に見えるもやしが一本、彼の手の中に現れた。

彼は緊張して唾を飲み込み、覚醒したばかりの『硬化』という名の能力を、慎重にそのもやしに注ぎ込んだ。

『硬化!』

彼は低く叫んだ。

……

しかし、何も起こらなかった。

もやしは相変わらず彼の翼の先でだらりと垂れ下がり、彼の呼吸に合わせてわずかに揺れ、まるで彼をあざ笑っているかのようだった。

それどころかクスマ自身、脳みそをポンプで吸い出されたような激しい目眩と頭痛に襲われた。

「うっ……」

彼はよろめき、ベッドの端を掴んだ。

「なるほど、もやしを一本出すだけで……俺の魔力はすっからかんってわけか……虚弱すぎるだろ……」

世界が回り始め、目の前が真っ暗になり、彼はまた、あの涙で濡れたベッドに棒のように硬直したまま倒れ込んだ。

「仕方ない、まずは寝て……魔力を回復させて……午後に裏庭で練習しよう……」

─ (•ө•) ─

その日の午後、裏庭にて。

木漏れ日が斑模様を描いている。

クスマは空き地に立ち、長い間目を閉じて瞑想していた。その表情はまるで何かの神聖な儀式でも行っているかのように荘厳だった。ついに、彼は渾身の力を振り絞って、また少しの魔力を絞り出し、手の中にあの哀れなもやしを具現化させた。

彼は深呼吸をし、顔を真っ赤にして、目をカッと見開いた。

『硬化!』

もやしは気だるそうに揺れただけだった。

『硬化!!』

もやしの先端がほんの少しだけ立ち上がり、まるで伸びをしたかのようだった。

『硬化!!!』

三回目の絶叫の後、クスマの額に青筋が浮かび上がり、ついに成功した!彼の手の中のもやしは爪楊枝のようにピンと張り詰め、微かな緑色の光を放っていた!

……だがその代償として、彼の魔力も再び一滴残らず枯渇した。

「ドサッ」という音と共に、彼は膝から崩れ落ち、力なく草の上に座り込んだ。

「の、能力が覚醒したばかりだからか?」

彼は手の中の細い「爪楊枝」を絶望的に見つめ、泣きたい気分だった。

「というか、硬化したもやしなんて、どうやって敵を倒すのに使えばいいんだ?足の裏を突っつくのか?それとも歯の掃除用か?」

「もしかして……俺って、実はただのザコなのか?」

彼が深い自己嫌悪に陥っていたその時、脳内のあの青い点が、彼の感情の揺れを感知したのか、再び激しく明滅した。

いくつかの新しい、奇妙な知識の断片が、スライドショーのように送られてきた。

画面の中には、「忍者」と呼ばれる黒い生き物がいて、身のこなしが軽く、闇夜を音もなく駆け抜けていた。彼らは髪の毛のように細く、極めて察知されにくい「飛針」と呼ばれる暗器を使い、敵のツボや急所を狙って一撃必殺を決めていた。

「そうだ!これだ!」

クスマの目に希望の光が戻り、彼は勢いよく太ももを叩き、閃いた。

「俺のもやしは細いけど、これって天然の『飛針』じゃないか!狙いさえ正確なら、目や急所を狙えば、もやしだって人を殺せる!」

彼は勢いよく地面から跳ね起き、魔力枯渇の虚脱感も構わず、自分自身が最高に格好良くて標準的だと思っている忍者の投擲ポーズを取った。

彼は片目を細め、裏庭の古木の幹に狙いを定めた。

「食らえ――忍法・もやし飛針! 」

彼は大喝し、右翼を勢いよく振って、手の中の硬化したもやしを高速で射出した!

「ヒュッ――」

もやしが空気を切り裂き、微かな風切り音を立てた。

しかし、あのもやしは彼が思ったように、真っ直ぐ木に向かって飛んでいくことはなかった。

風が強すぎたのか、それとも単に彼の腕が悪すぎたのか、もやしは狙った木の幹から大きく外れ、そのまま横を通り過ぎていき…… 

そして――

「ブスッ」という音がした。

それは正確無比に、寸分の狂いもなく、菜園で腰を曲げて草むしりをしていた、お尻を高く突き出していた――彼の父さんの尻に突き刺さった。

空気が一瞬で凍りついた……

父さんの草むしりの手が止まった…………

クスマの顔の笑顔も凍りついた………………

少しして。

父さんはゆっくりと、コマ送りのように振り返った。手にはまだ雑草を握りしめ、顔には極度に歪んだ、しかし必死に「穏やかさ」を保とうとする微笑みを浮かべていた。

その笑顔は、地獄の悪鬼よりも恐ろしかった。

「ク、ス、マ……」

「あああああ!!!父さん!説明させて!あれは忍術なんだ!事故なんだ!」

「このバカ息子があああああ!!!」

怒号と共に、父さんは狂暴な戦神と化し、鍬を振り回して突進してきた。

結局、クスマは父さんに裏庭の古木に吊るされ、半殺しにされた……

こうして、目が覚めたばかりの彼は、また数日間ベッドで寝込むことになったのだった……。
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