ひよこクスマ

プロトン

文字の大きさ
18 / 58

第18話 学生ローン

しおりを挟む
わずかな空間の歪みと共に、クスマの姿が、始まりの巨大な広場に現れた。

彼が現れると、すぐに会場中の視線が集中した。その中には、遠くない場所からの、三つの、極めて複雑な眼差しも含まれていた。

とっくに転送されて戻っていたふゆこ、クレイ、そしてみぞれは、一箇所に集まっていた。彼らがクスマのあの「泥まみれの彫像」のような姿を見た時、その反応は様々だった。

ふゆこの目には、すぐに心配の色と、「さすが師匠だ」とでも言いたげな崇拝が混じってきらめいた。クレイは無意識に眉をひそめ、鼻の前で手を振り、その嫌悪の表情はまるで「こいつ、匂いまで一緒に持って帰ってきたのか?」と語っているかのようだった。一方、みぞれは、ただどうしようもないといった風に、甘やかすように軽く首を振り、「こうなると思ってたわ」という苦笑いを浮かべた。

クスマ本人は、仲間たちの反応に全く気づいていなかった。彼の体にこびりついて固まったアリの糞は、彼をまるでどこかの抽象芸術家が手掛けた、失敗作の泥まみれの彫像のように見せ、さらには周りの空気さえも実質的に歪ませる、言葉にできないほどの匂いを放っていた。

広場では、転送されてきた受験生の大部分がうなだれており、明らかに過酷な試練に脱落したようだった。そのため、無事に合格したクスマたち四人、特にその奇抜な出で立ちで歴史に名を残すであろうクスマは、ひときわ注目を集めていた。クスマはまるでモノクロ写真の中の、唯一の色彩のようだった(もっとも、それは匂い付きの茶色だったが……)。

─ (•ө•) ─

『王のオーラ』を全身から放つクスマを前に、仲間たちの反応は様々だった。

「……あのさ」

最初に沈黙を破ったのは、この気まずさに耐えきれなくなったクレイだった。彼は二本の指で固く鼻をつまみ、その視線はクスマの方向を完全に避けていた。

「俺とみぞれは、先に宿屋に戻って休む。お前たちは……まあ、ゆっくりしてろ」

彼は言い終わると、誰の返事も待たずにみぞれの手首を掴み、振り返りもせずに足早に去っていった。

「あ……あの、ごめんなさい!」

無理やり連れて行かれるみぞれは、振り返って、クスマとふゆこに申し訳なさと、どうしようもなさと、そして「彼がこういう性格なのはあなたも知っているでしょう」という複雑な苦笑いを向けることしかできなかった。

かくして、クスマは一人で、その『王のオーラ』を身にまとい、周りの人々の畏敬(と嫌悪)に満ちた眼差しを浴びながら、宿屋へと続くアカデミーの道を歩むことになった。彼はまず宿屋に戻り、神聖な浄化の儀式を行うことを決意した。

クスマは自分が、即位したばかりの、歓迎されざる王のような気分だった。
彼がアカデミーの広い大通りを歩くと、その無形でありながら帝王の威厳に満ちた「匂い」が、彼のために道を切り開く最強の軍隊となった。

彼が近づくと、道端の学生や教師たちが、モーセの海割りの奇跡を目撃したかのように、驚愕して両側に退き、彼のために絶対的で、真空の、馬車が十台は並んで走れそうな王者の道を開けた。

中には体質の弱いひよこもいて、彼の『王のオーラ』に触れた後、その場で地面にひざまずき、道端の花壇に向かって何度もえずき、その光景はまるで、新王に最も誠実な、五体投地の朝拝を捧げているかのようだった。

そしてふゆこは、かろうじて彼に従うことを許された、唯一の忠実な臣下だった。しかし、それでも彼女は、申し訳なさそうな顔で、遠く、「国王」の後ろを十歩以上離れた場所で、付かず離れずついてくることしかできなかった。

─ (•ө•) ─

クスマはようやく無事に宿屋の部屋に戻り、かなりの手間をかけ、石鹸を丸ごと一個ほぼ使い切って 、ようやくその身にまとった『王のオーラ』を完全に洗い流した。

彼が清潔な服に着替え、前例のない爽快感を感じ、自分はまた清潔で可愛らしいひよこに戻ったのだと思っていた、まさにその時、ドアが「コンコン」とノックされた。

ドアの外には、王都アカデミーの制服を着た一人の使者が立っていた。彼は無表情だったが、シルクのハンカチで固く鼻を押さえているその手が、彼の内心の本当の気持ちを正直に物語っていた。

「失礼します、クスマ様でいらっしゃいますか?」

使者の声は、感情のない機械のようだった。

「はい、私です」

「こちらがあなたの通知書です」

使者は精巧な羊皮紙でできた二つの巻物を手渡すと、まるで極めて危険な任務を終えたかのように、素早く身を翻して去っていった。まるで一秒でも長くここに留まれば汚染されてしまうとでも言うかのように。

クスマは訝しげに一つ目の巻物を開いた。そこには金箔で縁取られた、威厳に満ちた合格通知が書かれていた。

「ここに証明する。新入生クスマは、今回の入学試験において、常規を超えた戦術的思考を発揮し、『兵隊アリの集団自溺を誘導する』という方式で合格した。この革新的な精神を表彰するため、アカデミーはここに、追加奨励金として金貨100枚を授与し、これを奨励する」

クスマの心は狂喜に満ち、その場で跳び上がりそうになった。

(見ろ!やっぱりな!アカデミーは見る目があるじゃないか!これはまさに天才的な戦術だ!)

しかし、彼が興奮し、期待に満ちて二つ目の巻物を開いた時、その顔の笑みは瞬時に凍りついた。それは「王都環境衛生部」から発行された、項目がはっきりと記された、文言の厳格な、法外な罰金請求書だった。

「事由・本日午後、貴殿がアカデミー大通り沿いに大量の高濃度魔物排泄物を付着・残留させた件に関し、深刻な市容汚染及び嗅覚公害を引き起こした。評価の結果、必要とされる街路清掃、空気浄化、及び周辺市民への精神的慰謝料として、合計200金貨を請求する」

クスマは左手の、金貨100枚の奨励金が書かれた合格通知と、右手の、金貨200枚の罰金請求書を、呆然と見比べた。

彼の脳裏には、ただ一つの考えだけが、無限に響き渡っていた。

(つまり俺は、まだ入学もしてないのに、いきなり法外な学生ローンを背負ったってことか……?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...