ひよこクスマ

プロトン

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第30話 きみは本当に良い人だね

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九死に一生を得た四人は、今や魂も抜殻のようだった。

空気中には、オゾン、硫黄、そして名も知れぬ何かが焦げた匂いが混じった、鼻をつく異臭が漂っていた。耳元には、あの耳をつんざくような轟音がもたらした、絶え間ない耳鳴りがまだ残っている。

ふゆこのすすり泣きが、この静寂の中で、唯一の音だった。

トントン導師は目の前の惨状と、恐怖で魂が抜けたようになった四人の「元凶」たちを見たが、その顔には何の怒りも浮かんでいなかった。彼女はただ深く、長いため息を一つつき、それから、「どうしようもない」という諦めと、「笑うに笑えない」という感情が入り混じった、極めて複雑な苦笑いを浮かべた。

「もういいわ」彼女は力なく手を振った。「『水中の炎』が解けたのか解けてないのか、よく分からないけど、もやし、あなたが一つの難題を解決してくれたことには違いないわ。分かった、私が折れたわ。あなたたちの導師になってあげる」

「えっ?」

クスマはその言葉を聞き、驚いて顔を上げた。

「待って……どうして俺たちが、あなたに導師になってほしいって知ってるんですか?」

トントン導師はその問いを聞き、彼女もまた一瞬呆気にとられ、それから「あなた、馬鹿のふりをしているの?」とでも言いたげな眼差しでクスマを見つめ、問い返した。

「これだけの大騒ぎを起こしておいて、そのためじゃないとでも言うの?」

「誤解です、導師!」

クスマが弁解しようとした——まさにその時、
トントン導師は彼にその機会を全く与えなかった。彼女はまだ黒煙を上げている巨大な穴を指差した。

「あなたたちは早く行きなさい」彼女は言った。「私が後始末をしておくから。どうせ……慣れてるし。明日の授業が終わったら、また研究室に来なさい」

四人の小さな姿が完全に消え去った後、トントン導師はようやくゆっくりと振り返り、一人、爆発後の巨大な穴に向き合った。
彼女は再び深いため息をつき、自分にしか聞こえない、困惑に満ちた声で、低く呟いた。

「一体……どんな学生たちを受け入れてしまったのかしら……」

「……なんだか、私よりも、彼らの方がよっぽど危険な気がするわね……?」

─ (•ө•) ─

這う這うの体で災難の現場から逃げ出した後、四人は安全な場所で足を止めた。

誰も、何も言わなかった。

空気中には、ふゆこの抑えきれない、小さなすすり泣きと、互いの、恐怖の後のやや荒くなった呼吸音だけが残っていた。

クレイの胸は激しく上下し、彼はクスマを見ず、まず視線を、隣にいる、同じく恐怖が抜けきらない、顔色の悪いみぞれへと向けた。彼女が無傷であることを確認した後、彼のその恐怖は、ついに、行き場のない、燃え盛る怒りへと変わった。

彼は勢いよく振り返り、怒りと恐怖が入り混じった震える声で、クスマに問い質した。

「この野郎……もう少しで俺たち全員、死ぬところだったんだぞ!」

その燃え盛る怒りの瞳でクスマを睨みつけ、一歩、また一歩と詰め寄った。

「お前と決闘だ!」

クレイは怒号を上げ、クスマの方向へと猛然と突進した。

「クレイ、やめて!」

「師匠はわざとじゃありません!」

ふゆことみぞれはクレイの後ろから、全力で、怒りに震える彼の腕を、固く引き留めた。

─ (•ө•) ─

クレイがまだ必死にもがいている間、一方のクスマは、内心の罪悪感から、初めて頭を垂れ、クレイの怒りに燃える瞳を直視することさえできずにいた。その時、一つの優しく、しかし有無を言わさぬ声が、その場の空気を一瞬にして冷却させた。

「——二人とも、そこまでよ」

みぞれだった。

彼女はクレイの腕を離し、二人の間へと歩み寄った。彼女はまず、なだめるような眼差しで、興奮したクレイを落ち着かせ、それから振り返り、クスマに向かって、静かな声で言った。

「今は仲間割れしている時じゃないわ。クレイ、あなたの気持ちは分かる。クスマ、あなたも確かに反省が必要よ」

彼女は、雰囲気が氷点下にまで落ち込んだこのチームを見回し、「隊長」としての口調で、最も理性的な提案をした。

「決闘はいいわ。でも、今じゃない。私の提案は、今すぐ練武場へ行くこと」

彼女は少し間を置き、全員の注意が自分に集まっていることを確認してから、続けた。

「でも目的は決闘じゃない。『チームの実力評価』よ。これから私たちは一つのチームになるんだから、冷静に、客観的に、まずはお互いの実力の限界がどこにあるのかを知る必要があるわ。そうして初めて、今後私たちに最も適した戦術を立てることができるわ」

彼女の一言一句が、クレイの行き場のない怒りを霧散させ、また、クスマの罪悪感に満ちた心に、まるで溺れかけている者が、一つの救命の浮木を掴んだかのような、償いの出口を与えた。

クスマは感動して、みぞれを見つめ、小声で言った。

「……僕を許してくれてありがとう。きみは本当に良い人だね」

最後に、みぞれはクスマに向かって、彼女のいつもの、まるで氷雪をも溶かすかのような、優しい微笑みを浮かべた。

「それに、クスマ、勘違いしないで。私があなたを許すなんて、一言も言っていないわ」

「実は、私も、少し怒っているのよ」

その微笑む瞳は、クスマには、今この時、まるで鬼火のように揺らめく、地獄の深淵から覗く、氷のように冷たい眼差しのように見えた。
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