31 / 58
第31話 二人まとめて
しおりを挟む
みぞれの提案で、四人はアカデミーの公共練武場へとやって来た。
そこは硬い砂土で舗装された、広大な野外の広場で、周りには練習用の木人樁や武器架が点在している。
クスマとクレイの直接衝突がエスカレートするのを避けるため、そしてチームの実力をより客観的に評価するため、みぞれは自ら、まずは彼女がクスマとふゆこの二人を相手に、手合わせをすることを提案した。
「能力は一切使わないで」
みぞれは武器架から、ごく普通の木の棒を三本手に取った。彼女はまず自分でその重さを確かめ、それからそのうちの二本を、それぞれクスマとふゆこに手渡した。
「一番基礎的な木の棒での手合わせで、お互いの反応と技術のレベルを見てみましょう。いいかしら?」
彼女の声は優しかったが、有無を言わせぬ、「隊長」としてのオーラをまとっていた。
「……俺は構わないぜ」
クスマは木の棒を受け取ると、手の中で無造作に二、三度振り、プロフェッショナルに見える構えをしようと試みた。
ふゆこもそれに倣って頷き、彼女には少し長すぎるその木の棒を両手で固く握りしめた。その澄んだ瞳には、緊張と不安が満ちており、その視線は無意識に、師匠とみぞれの間を行き来していた。
一方、クレイは腕を組み、場外へと下がり、一本の木人樁にもたれかかった。彼は何も言わず、ただ、探るような、まるで自分とは無関係の芝居でも見るかのような眼差しで、彼に言わせれば、「大人が子供の相手をする」ような、この指導試合を観戦する準備をしていた。
─ (•ө•) ─
みぞれは目の前の、この緊張した様子の二人を見つめた。その、いつもは水のように優しい眼差しが、今は、底知れぬ古井戸のように、微塵の波紋も立てずにいた。彼女は手に持った木の棒を、そっと、横に持ち上げた。
「二人まとめて、かかってきなさい」
その声は軽やかだったが、まるで有無を言わせぬ命令のように、がらんとした練武場に響き渡った。
「——行くぞ!」
クスマの叫びが、合図のように、瞬時に戦場に火をつけた!
合図を受け取ったふゆこの瞳に、一瞬の決意が閃いた。
彼女は両手で木の棒を固く握りしめ、全ての力をこの「唯一の一撃」に注ぎ込んだ!彼女には余計な技術はなく、ただ最も純粋で、最も真っ直ぐな、全身全霊を込めた、不器用な脳天への斬撃があるだけだった!
一方、クスマは、全く常識にとらわれない動きを見せた。彼は側面から回り込むことなく、逆に身を低くし、手に持った木の棒を砂地に沿わせ、ビリヤードのように、みぞれの両足を目掛けて、素早く、そして狡猾に滑らせた!彼はこの「下劣な」手口で、みぞれの平衡を崩そうと試みたのだ。
一つは正面からの、なりふり構わぬ無謀な突撃。一つは足元からの、陰険な奇策による妨害。この二人の「初心者」による、全く協調性のない攻撃が、しかし同時に、一見すると解けない立体的な攻勢を形成した!
しかし、この挟撃に直面しても、みぞれの顔には、依然として何の表情も浮かんでいなかった。
彼女の選択は、前進だった。
彼女は退かずに進み、その影が身に迫るまさにその瞬間、一歩前に踏み出した。その一歩は、寸分の狂いもなく、ふゆこの渾身の一撃の下にある、唯一の、絶対的な死角へと踏み込んだ!
彼女は退かずに進み、一歩前に踏み出すと、その体は瞬く間に、全力で斬りかかってくるふゆこに肉薄した。続いて、彼女の手にあった木の棒が、まるで一本の霊蛇のように、不可思議な角度で、軽やかに、力を入れすぎてもはや変えられない、ふゆこの手首へと、上から打ち込まれた。
ふゆこは手首に痺れを感じただけで、彼女の全ての決意が込められたその力は、まるで針で突かれた風船のように、途中で霧散してしまった。
ふゆこの攻勢を無効化したのと全く同じ瞬間、みぞれの足捌きは、まるで氷上を滑るかのように、左へと半歩平行移動した——それは絶妙で、クスマの、彼女の足首を目掛けて滑ってきた木の棒を、紙一重の差で、彼女の後ろへと滑り抜けさせた。
それと同時に、彼女の動作には何の殺気もなく、むしろどこか「気怠げ」でさえあった。彼女はただ、無造作に木の棒を前に突き出し、その先端で、何の力も込めずに、バランスを失ったふゆこの膝に、そっと「触れた」だけだった。
「きゃっ!」
ふゆこは驚きの声を上げ、膝から力が抜け、その場に膝から崩れ落ちた。
続いて、みぞれが手首を返すと、その木の棒のもう一方の端が、まるで目でも生えているかのように、そっと、ドアをノックするかのように、「コツン」という音を立てて、前につんのめってしまい、まだ体勢を立て直せないでいたクスマの後頭部を叩いた。
「……うぐっ!」
クスマは目の前が真っ暗になり、全世界が回転しているかのように感じ、砂地へと頭から突っ込んだ。
戦いが始まってから、終わるまで、五秒も経っていなかった。
みぞれはただ、無造作に前進し、触れ、そして叩いただけだったが、それで、全力でかかってきた二人を、いとも容易く、一挙に片付けてしまったのだ。
─ (•ө•) ─
クスマとふゆこが地面から起き上がった後、クスマの瞳には、微塵の落胆もなく、逆に、「不服」という名の、燃え盛る炎が宿っていた。
「もう一回だ!」彼はみぞれに向かって叫んだ。「今度こそ、お前を驚かせてやる!」
「……まだやるのか?」傍らで観戦していたクレイが、思わず小声でツッコミを入れた。
みぞれはクスマのその不屈の様子を見て、一瞬呆気にとられたが、すぐに、そのいつもは水のように静かな瞳に、初めて、「どうしようもない」という諦めと、「面白い」という興味が入り混じった、複雑な笑みが浮かんだ。
彼女はそっと頷き、再び構えを取った。
今回、クスマはすぐにふゆこに攻撃させなかった。彼はこそこそとふゆこを脇に引き寄せ、彼女の耳元で小声で、素早く、彼の新たな「天才的戦術」を指示した。ふゆこは茫然とした顔で聞いていたが、それでも、分かったような分からないような様子で、力強く頷き、「師匠」の意図を完全に理解したと示した。
戦いが再び始まった。
「——今度こそ、見てろよ!」
クスマは大声で叫んだが、しかし、彼自身は動かず、逆に一歩後ろへ下がり、「俺は後ろで高みの見物といくぜ」とでも言いたげな構えを取った。
合図を受け取ったふゆこは、再び勇気を振り絞り、みぞれに向かって、彼女のあの不器用で、よろよろとした突撃を開始した。
彼女は師匠の教えを固く胸に刻み、走りながらも、必死に、横目で、地面にある、「わざとつまずくのに適した」石を探していた。
しかし、彼女のその、元々協調性のない体は、この「突撃しながら物を探す」という高難易度の操作に、到底耐えられるものではなかった。足元がもつれ、まだ「わざと」の段階に至る前に、本当に自分の足につまずいてしまい、体は制御を失い、みぞれの横手へと、倒れ込んでいった。
みぞれはただ、そっと横に半歩移動しただけで、この「自爆式」の攻撃を、軽々と躱した。
しかし、これら全ては、クスマの「前菜」に過ぎなかった。彼が待っていたのは、この、ふゆこが地面に倒れ、みぞれの注意が彼女に引きつけられた、千載一遇の瞬間だったのだ!
「——今だ!」
クスマは大声で叫び、身を低くし、みぞれに向かって猛然と突進した!
(そうだ!彼女の注意は全て、倒れたふゆこに向いている!俺の本当の攻撃が、武器からではなく、ここから来るとは、絶対に思うまい——)
クスマの瞳に、知性の光が閃いた。彼は木の棒を振るうことなく、みぞれに近づくまさにその瞬間、勢いよく足を伸ばし、力一杯、地面の砂を、みぞれの顔を目掛けて、激しく蹴り上げた!
蹴り終わった後、彼は、みぞれが砂で目をくらまされ、狼狽し、自分のなすがままになる光景を、既に見ているかのようだった。
しかし、みぞれの反応は、再び彼の想像を遥かに超えていた。彼女は目をつぶることさえせず、ただ頭を、そっと、横に傾けただけだった。
クスマの全ての希望を乗せたその砂塵は、彼の行き場のない青春を巻き込み、格好良く、みぞれの耳元を、唸りを上げて通り過ぎた。
そして、一秒の狂いもなく、全てが、たった今顔を上げ、「師匠」の戦術が成功したかどうかを見ようとしていた、罪のない表情のふゆこの両目へと、注ぎ込まれた。
「うわああああ——目が、目がぁ!」
ふゆこは悲鳴を上げ、砂で目をくらまされた彼女は、瞬時にパニックに陥った。彼女は無意識に、めちゃくちゃに、手に持った木の棒を振り回し、そこにいない「敵」を追い払おうとした。
一方、今のクスマは、前への勢いが強すぎて全く止まれず、無様な姿でみぞれのそばを通り過ぎ——やっとのことでよろめきながらブレーキをかけた時、上半身が慣性で勢いよく前に傾き、ちょうど、無防備な後頭部を、起き上がりかけていためちゃくちゃに木棍を振り回すふゆこの攻撃軌道上へと、完璧に送り届けてしまった。
「ドン!」
鈍く、そして、確かな、チームメイトの愛に満ちた音がした。
クスマは目の前が真っ暗になり、自分の後頭部が、まるで巨大な鉄槌で力いっぱい殴られたかのように感じ、悲鳴を上げる間もなく、あっさりと、気絶した。
練武場に、再び静寂が戻った。
残されたのは、目を押さえ、まだ涙を流しているふゆこと、彼女の足元に横たわり、完全に意識を失ったクスマ。そして、最初から最後まで、わずか半歩しか動かず、武器さえも持ち上げなかった、みぞれだった。
彼女は目の前の、この「天才的戦術」が引き起こした、完璧な「同士討ち」を見て、ついに我慢できず、手で顔を覆い、長く、絶望に満ちたため息を一つ漏らした。
「クスマ……あなた、本当に……私を驚かせてくれたわね……」
そこは硬い砂土で舗装された、広大な野外の広場で、周りには練習用の木人樁や武器架が点在している。
クスマとクレイの直接衝突がエスカレートするのを避けるため、そしてチームの実力をより客観的に評価するため、みぞれは自ら、まずは彼女がクスマとふゆこの二人を相手に、手合わせをすることを提案した。
「能力は一切使わないで」
みぞれは武器架から、ごく普通の木の棒を三本手に取った。彼女はまず自分でその重さを確かめ、それからそのうちの二本を、それぞれクスマとふゆこに手渡した。
「一番基礎的な木の棒での手合わせで、お互いの反応と技術のレベルを見てみましょう。いいかしら?」
彼女の声は優しかったが、有無を言わせぬ、「隊長」としてのオーラをまとっていた。
「……俺は構わないぜ」
クスマは木の棒を受け取ると、手の中で無造作に二、三度振り、プロフェッショナルに見える構えをしようと試みた。
ふゆこもそれに倣って頷き、彼女には少し長すぎるその木の棒を両手で固く握りしめた。その澄んだ瞳には、緊張と不安が満ちており、その視線は無意識に、師匠とみぞれの間を行き来していた。
一方、クレイは腕を組み、場外へと下がり、一本の木人樁にもたれかかった。彼は何も言わず、ただ、探るような、まるで自分とは無関係の芝居でも見るかのような眼差しで、彼に言わせれば、「大人が子供の相手をする」ような、この指導試合を観戦する準備をしていた。
─ (•ө•) ─
みぞれは目の前の、この緊張した様子の二人を見つめた。その、いつもは水のように優しい眼差しが、今は、底知れぬ古井戸のように、微塵の波紋も立てずにいた。彼女は手に持った木の棒を、そっと、横に持ち上げた。
「二人まとめて、かかってきなさい」
その声は軽やかだったが、まるで有無を言わせぬ命令のように、がらんとした練武場に響き渡った。
「——行くぞ!」
クスマの叫びが、合図のように、瞬時に戦場に火をつけた!
合図を受け取ったふゆこの瞳に、一瞬の決意が閃いた。
彼女は両手で木の棒を固く握りしめ、全ての力をこの「唯一の一撃」に注ぎ込んだ!彼女には余計な技術はなく、ただ最も純粋で、最も真っ直ぐな、全身全霊を込めた、不器用な脳天への斬撃があるだけだった!
一方、クスマは、全く常識にとらわれない動きを見せた。彼は側面から回り込むことなく、逆に身を低くし、手に持った木の棒を砂地に沿わせ、ビリヤードのように、みぞれの両足を目掛けて、素早く、そして狡猾に滑らせた!彼はこの「下劣な」手口で、みぞれの平衡を崩そうと試みたのだ。
一つは正面からの、なりふり構わぬ無謀な突撃。一つは足元からの、陰険な奇策による妨害。この二人の「初心者」による、全く協調性のない攻撃が、しかし同時に、一見すると解けない立体的な攻勢を形成した!
しかし、この挟撃に直面しても、みぞれの顔には、依然として何の表情も浮かんでいなかった。
彼女の選択は、前進だった。
彼女は退かずに進み、その影が身に迫るまさにその瞬間、一歩前に踏み出した。その一歩は、寸分の狂いもなく、ふゆこの渾身の一撃の下にある、唯一の、絶対的な死角へと踏み込んだ!
彼女は退かずに進み、一歩前に踏み出すと、その体は瞬く間に、全力で斬りかかってくるふゆこに肉薄した。続いて、彼女の手にあった木の棒が、まるで一本の霊蛇のように、不可思議な角度で、軽やかに、力を入れすぎてもはや変えられない、ふゆこの手首へと、上から打ち込まれた。
ふゆこは手首に痺れを感じただけで、彼女の全ての決意が込められたその力は、まるで針で突かれた風船のように、途中で霧散してしまった。
ふゆこの攻勢を無効化したのと全く同じ瞬間、みぞれの足捌きは、まるで氷上を滑るかのように、左へと半歩平行移動した——それは絶妙で、クスマの、彼女の足首を目掛けて滑ってきた木の棒を、紙一重の差で、彼女の後ろへと滑り抜けさせた。
それと同時に、彼女の動作には何の殺気もなく、むしろどこか「気怠げ」でさえあった。彼女はただ、無造作に木の棒を前に突き出し、その先端で、何の力も込めずに、バランスを失ったふゆこの膝に、そっと「触れた」だけだった。
「きゃっ!」
ふゆこは驚きの声を上げ、膝から力が抜け、その場に膝から崩れ落ちた。
続いて、みぞれが手首を返すと、その木の棒のもう一方の端が、まるで目でも生えているかのように、そっと、ドアをノックするかのように、「コツン」という音を立てて、前につんのめってしまい、まだ体勢を立て直せないでいたクスマの後頭部を叩いた。
「……うぐっ!」
クスマは目の前が真っ暗になり、全世界が回転しているかのように感じ、砂地へと頭から突っ込んだ。
戦いが始まってから、終わるまで、五秒も経っていなかった。
みぞれはただ、無造作に前進し、触れ、そして叩いただけだったが、それで、全力でかかってきた二人を、いとも容易く、一挙に片付けてしまったのだ。
─ (•ө•) ─
クスマとふゆこが地面から起き上がった後、クスマの瞳には、微塵の落胆もなく、逆に、「不服」という名の、燃え盛る炎が宿っていた。
「もう一回だ!」彼はみぞれに向かって叫んだ。「今度こそ、お前を驚かせてやる!」
「……まだやるのか?」傍らで観戦していたクレイが、思わず小声でツッコミを入れた。
みぞれはクスマのその不屈の様子を見て、一瞬呆気にとられたが、すぐに、そのいつもは水のように静かな瞳に、初めて、「どうしようもない」という諦めと、「面白い」という興味が入り混じった、複雑な笑みが浮かんだ。
彼女はそっと頷き、再び構えを取った。
今回、クスマはすぐにふゆこに攻撃させなかった。彼はこそこそとふゆこを脇に引き寄せ、彼女の耳元で小声で、素早く、彼の新たな「天才的戦術」を指示した。ふゆこは茫然とした顔で聞いていたが、それでも、分かったような分からないような様子で、力強く頷き、「師匠」の意図を完全に理解したと示した。
戦いが再び始まった。
「——今度こそ、見てろよ!」
クスマは大声で叫んだが、しかし、彼自身は動かず、逆に一歩後ろへ下がり、「俺は後ろで高みの見物といくぜ」とでも言いたげな構えを取った。
合図を受け取ったふゆこは、再び勇気を振り絞り、みぞれに向かって、彼女のあの不器用で、よろよろとした突撃を開始した。
彼女は師匠の教えを固く胸に刻み、走りながらも、必死に、横目で、地面にある、「わざとつまずくのに適した」石を探していた。
しかし、彼女のその、元々協調性のない体は、この「突撃しながら物を探す」という高難易度の操作に、到底耐えられるものではなかった。足元がもつれ、まだ「わざと」の段階に至る前に、本当に自分の足につまずいてしまい、体は制御を失い、みぞれの横手へと、倒れ込んでいった。
みぞれはただ、そっと横に半歩移動しただけで、この「自爆式」の攻撃を、軽々と躱した。
しかし、これら全ては、クスマの「前菜」に過ぎなかった。彼が待っていたのは、この、ふゆこが地面に倒れ、みぞれの注意が彼女に引きつけられた、千載一遇の瞬間だったのだ!
「——今だ!」
クスマは大声で叫び、身を低くし、みぞれに向かって猛然と突進した!
(そうだ!彼女の注意は全て、倒れたふゆこに向いている!俺の本当の攻撃が、武器からではなく、ここから来るとは、絶対に思うまい——)
クスマの瞳に、知性の光が閃いた。彼は木の棒を振るうことなく、みぞれに近づくまさにその瞬間、勢いよく足を伸ばし、力一杯、地面の砂を、みぞれの顔を目掛けて、激しく蹴り上げた!
蹴り終わった後、彼は、みぞれが砂で目をくらまされ、狼狽し、自分のなすがままになる光景を、既に見ているかのようだった。
しかし、みぞれの反応は、再び彼の想像を遥かに超えていた。彼女は目をつぶることさえせず、ただ頭を、そっと、横に傾けただけだった。
クスマの全ての希望を乗せたその砂塵は、彼の行き場のない青春を巻き込み、格好良く、みぞれの耳元を、唸りを上げて通り過ぎた。
そして、一秒の狂いもなく、全てが、たった今顔を上げ、「師匠」の戦術が成功したかどうかを見ようとしていた、罪のない表情のふゆこの両目へと、注ぎ込まれた。
「うわああああ——目が、目がぁ!」
ふゆこは悲鳴を上げ、砂で目をくらまされた彼女は、瞬時にパニックに陥った。彼女は無意識に、めちゃくちゃに、手に持った木の棒を振り回し、そこにいない「敵」を追い払おうとした。
一方、今のクスマは、前への勢いが強すぎて全く止まれず、無様な姿でみぞれのそばを通り過ぎ——やっとのことでよろめきながらブレーキをかけた時、上半身が慣性で勢いよく前に傾き、ちょうど、無防備な後頭部を、起き上がりかけていためちゃくちゃに木棍を振り回すふゆこの攻撃軌道上へと、完璧に送り届けてしまった。
「ドン!」
鈍く、そして、確かな、チームメイトの愛に満ちた音がした。
クスマは目の前が真っ暗になり、自分の後頭部が、まるで巨大な鉄槌で力いっぱい殴られたかのように感じ、悲鳴を上げる間もなく、あっさりと、気絶した。
練武場に、再び静寂が戻った。
残されたのは、目を押さえ、まだ涙を流しているふゆこと、彼女の足元に横たわり、完全に意識を失ったクスマ。そして、最初から最後まで、わずか半歩しか動かず、武器さえも持ち上げなかった、みぞれだった。
彼女は目の前の、この「天才的戦術」が引き起こした、完璧な「同士討ち」を見て、ついに我慢できず、手で顔を覆い、長く、絶望に満ちたため息を一つ漏らした。
「クスマ……あなた、本当に……私を驚かせてくれたわね……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる