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第56話 青い涙の紋様
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クスマが驚天動地の「解剖」提案を持ち出した後、洞窟内の先ほどまでの静かで幻想的な雰囲気は、一瞬にして打ち破られた。
ぽつり。
頭上から逆さに垂れ下がるキノコの傘から水滴が落ちる音が、この瞬間、異様にクリアに響き、空気はまるで凝固したかのようだった。
ふゆこが真っ先に顔面蒼白になり、彼女は「ひぃっ!」と叫び声を上げ、小さな体がびくっと震え、無意識にクスマの服の裾を掴み、力いっぱい引っ張った。
「し、師匠……」
彼女はしきりに手を振り、小さな頭をでんでん太鼓のように振り、泣き出しそうな声で、鼻声混じりに小声で抗議した。
「ざ、残酷すぎます……あんなに綺麗だったのに、今それを……切り開くなんて……そ、そんなの可哀想すぎます……」
「おい、もやし!頭おかしいのか?!」
クレイは嫌悪感に満ちた目でクスマを睨みつけ、さらに大げさに身震いした。
「誰があんなヌルヌルの気持ち悪いもんに触るかよ!想像しただけで鳥肌立つわ!」
クレイはそう言いながら、力いっぱい自分の腕を擦り、その表情はまるで月涙蛾を丸ごと飲み込んだかのようだった。
「行くならてめえで行け!」
(なんだよ……一人は残酷だの、一人は気持ち悪いだの……)
クスマは諦めきれずに助けを求める視線を、チームの秀才——みぞれに向けた。
しかし、みぞれはこめかみを手で押さえ、クスマを殴り昏倒させたい衝動を必死に抑え込んでいるようだった……。
彼女は深呼吸をした。周囲のキノコの幽玄な青い蛍光が、彼女の澄んだ瞳の中で揺らめく。しかし、注意深く観察すれば、彼女の瞳孔が微かに震えているのがわかる。
続けて彼女は、優しくも普段通りの、有無を言わせぬ理性的な声で、この茶番に最終的な判決を下した。
「却下。」
(えぇ?!お前もか?!)
クスマは信じられないといった表情だった。
みぞれはクスマを見据え、冷静に述べ始めた。その口調はまるで教室で導師の質問に答えるかのようで、理路整然とし、反論の余地もなかった。
「あなたの提案には致命的な欠陥があるわ。魔物は死亡するとすぐにアイテムに変わる。解剖するなら生け捕りにする必要がある。それが可能かどうかはさておき、その過程自体が非効率すぎる。」
この完璧な分析に、クスマは一瞬、反論の言葉も見つけられなかった。
「それと」
みぞれは口を開いたが、ふと口ごもった。
彼女の視線が、遠くで安心しきって食事をしている月涙蛾をさりげなく捉え、肩もそれに伴って微かに硬直した。彼女は平静を装って咳払いをし、頬には密かに赤みが差した。
続けて口から出た声は、小さく、早く、硬いものだった。
「……実は、私も虫が苦手なの!」
クスマ、ふゆこ、クレイ:「…………」
─ (•ө•) ─
数秒にわたる、息詰まるような沈黙を、最後にはやはり発端者であるみぞれ自身が打ち破った。
彼女は軽く咳をし、頬の赤みを無理やり抑え、まるで先ほど虫が苦手だと告白したのが自分ではないかのように振る舞った。彼女はチームメイトたちの呆然とした顔から視線を外し、洞窟の別の方向へと向けた——そこには、ちょうど群れから離れ、一匹だけで旋回している月涙蛾がいた。
みぞれはすぐに口を開き、この気まずい話題を逸らそうとした。
「あそこを見て。はぐれた蛾が一匹いる。」
「今はちょうどいい機会ね。」
彼女の声は大きくはなかったが、一瞬にしてチームの雰囲気を気まずい茶番から戦闘への集中へと引き戻した。
「やるのか?」
クレイはとっくに待ちきれず、興奮して拳を握りしめた。
「ええ。」
みぞれの指示のもと、四人は素早く散開した。彼らの動きは流れるようで熟練しており、明らかに最近、練武場で数えきれないほど繰り返してきた戦闘隊形だった。
「クレイ、あなたは遠距離制圧をお願い。」
みぞれは振り向きもせず、指示を出した。
「任せろ!」
クレイはすぐに構えを取り、背中から長弓を引き抜いた。
「クスマ、あなたの回避能力が一番高いわ。正面からやつの注意を引きつけて。」
(……また俺がおとりか。)
クスマは口をとがらせたが、体は正直にチームの最前列へとふらふらと移動し、いつでも左右に飛び跳ねる準備ができているような、ふてぶてしい構えを見せた。
「ふゆこ」
みぞれの声色が少し和らいだ。
「あなたは側面から遊撃し、攻撃の隙を探して。」
「は、はい!」
ふゆこは緊張して唾を飲み込み、武器をしっかりと握りしめ、小走りで素早くチームの側翼へと陣取った。
一方、みぞれは重心を低くし、刀の柄を握り、その小柄な体でクレイの前にしっかりと立ち、チーム唯一にして最重要の「主砲」のために、最も堅固な防衛ラインを構築した。
クスマとふゆこは、最近の訓練で、クレイの火力がどれほど恐ろしいかを十分に目の当たりにしていた。
トントン導師から贈られた高級な長弓と、まるで尽きることのない魔力とが組み合わさり、彼は絶え間なく、驚異的な威力を持つ矢を放つことができた。
「俺の『粉砕』で一撃で仕留めてやる!」
クレイは興奮して叫んだ。
「待って。」
彼がまさにそうしようとした時、目の前に立つみぞれに制止された。
みぞれは振り向きもせず、ただ静かにその二文字を口にしたが、それは有無を言わせぬ威厳を帯びていた。クレイの頭上に伸ばされた手も、一瞬で空中で停止した。
「あなたの『粉砕』は威力が強すぎて、他の蛾を引き寄せやすいわ。」
みぞれは冷静に前方を睨みつけた。
「それに今は洞窟の中よ。上の岩壁が崩落するかもしれない。」
みぞれは続けて言った。
「まずは『粉砕』を使わないで。『流血』に切り替えて、ゆっくりと削り殺して。」
「ちっ!」
クレイは不満げに舌打ちした。
「『流血』は威力が低すぎるんだよ。俺は好きじゃねえ。つまんねえだろ!」
クレイは文句を言いつつも、みぞれの指示に従い、しぶしぶと手を伸ばし、自分の頭上を掴んだ——
「ぽんっ!」
——まるで大根を引き抜くかのような軽快な音と共に、クレイは頭から、とっくに準備してあった銀剣草を引き抜いた。
(……あいつ、そんなに力いっぱい引っこ抜いて、ただでさえ足りてない脳みそまで一緒に引っこ抜いちまわないだろうな?!)
クスマはこの光景を見るたび、ツッコミを入れたくなる。
他のヒナが能力を使う時は、一時的に共生植物を具現化するのに、クレイというやつだけは、直接頭の銀剣草を引き抜いて使うのだ。まるで自分の頭を矢筒代わりにしているかのようだ。
クスマはさらに気づいた。戦いが近いとわかっているためか、彼の頭にはすでに三本の銀剣草が具現化されていた。
クスマの脳内劇場が繰り広げられている間に、クレイはすでに『流血』の能力を発動していた。
彼が矢として使う銀剣草の先端が、一瞬、不吉な赤い光を放ち、まるで一滴の血が凝固したかのようだった。周囲の幽玄な青いキノコの光に照らされ、その一点の赤光はことさらに不気味に見えた。
クレイは矢を弓につがえ、不満げな表情は消え、代わりに狩人のような集中力が現れた。彼は深呼吸をし、遠くで旋回している月涙蛾に狙いを定めた。
─ (•ө•) ─
ヒュン——!
クレイが放った銀剣草は、暗闇の中で赤い流光を描き、周囲の幽玄な青いキノコの光と影を完璧に引き裂き、月涙蛾に命中した。
「キィ——!」
月涙蛾は甲高い鳴き声を上げ、空中で狂ったように旋回した。撃ち抜かれた翼の傷口からは、青く、微かな蛍光を帯びた血が絶えず滴り落ち、癒合する気配は全くなかった。
「今だ!もやし、お前も早くしろ!」
機を逃すまいと、クレイはすぐに再び弓を引き絞り、クスマに向かって叫んだ。
クスマはそれを聞いてすぐに動いた。彼はとっくに具現化し、手に握っていた数本のもやしに『硬化』を発動させ、鋼の針のように変えると、続けて力いっぱい空中の月涙蛾に向かって投げつけ、追撃を試みた。
ふゆこも手伝おうとしたが、彼女には有効な対空手段がなかった。
「あ……高すぎる……」
彼女は地上で拳を握りしめて焦るしかなく、さらにその場で二度ほど跳び上がり、敵に届かせようとした。
「師匠、頑張って!クレイ、頑張って!」
(俺の弟子がこういう時、チアリーダーにしかなれないとは!)
クスマは思わずまた心の中でツッコミを入れた。
一方、みぞれは魔力を温存しつつ、冷静に状況を観察していた。
彼らが月涙蛾がもう限界だと思った、その時——異変が生じた。
月涙蛾の翼にある「青い涙の紋様」の一つが、突然、月光のような清らかで柔らかな光を放った。
光に包まれると、絶えず流血していた傷口が、なんと目に見える速度でゆっくりと癒合し、再生し始めた!
治癒が完了すると、その青い涙の紋様もそれに伴って輝きを失った。
「はぁ?!ふざけんな!」
自分がようやくつけた傷が消えるのを見て、クレイが真っ先に奇声を上げた。
「き、傷が消えちゃった!」
ふゆこも驚きの声を上げた。
「まさか?!」
クスマは呆然としていた。
「なるほど……」
みぞれは輝きを失った模様を見つめ、その澄んだ瞳に理解の色が閃いた。彼女はまるで問題を解くかのような推測口調で、静かに説明した。
「やつらの翼にある青い涙の紋様は、見たところ、おそらく『エネルギー嚢』ね。中のエネルギーを消費して、自己治癒を行うことができる。」
彼女はもう片方の無傷な青い涙の紋様を一瞥し、眼差しが即座に鋭くなった。
「つまり、もう一回使えるってことね。」
「攻撃を早めて!」
みぞれはすぐに新たな指示を出した。
クレイとクスマはそれを聞いてすぐに攻勢を強めた。
「キィ——!」
月涙蛾は再び傷を負ったが、もう片方の翼にある青い涙の紋様も、それに伴って光を放った!
二度目の治癒が完了した後、やつ(月涙蛾)の二つの青い涙の紋様はどちらも輝きを失った。
——やつの回復手段は、ついに尽きた。
回復能力を失った月涙蛾は、もがく力も残っていなかった。クレイの次の一矢が、その体を貫き、空中から撃ち落とした。
月涙蛾は即座に空中で分解し、死体は残さず、代わりにキラキラと輝く、月光のように清らかな金色の粉末の小さな塊となり、ゆっくりと舞い落ちた。
「ふぅ……やっと倒した……」
クスマは安堵のため息をついた。
「ちっ!無駄な力を使わせやがって!」
クレイは不満げに弓を収めた。
ゆっくりと舞い落ちる「月塵」を見つめるみぞれの顔に、喜びの色は微塵もなかった。彼女はただ、極めて真剣な口調で、今回の戦闘に対する最終的な結論を下した。
「よく聞いて」
彼女は皆に向き直った。
「この蛾は厄介よ。」
「一匹でこれだけ面倒なんだから……しかも回復の機会が二度もある。」
みぞれの視線が皆を捉え、その瞳にはわずかながらも察知できる重みが宿っていた。
「これはまだ一匹よ……もし、私たちが相手にするのが、群れだったら……?」
ぽつり。
頭上から逆さに垂れ下がるキノコの傘から水滴が落ちる音が、この瞬間、異様にクリアに響き、空気はまるで凝固したかのようだった。
ふゆこが真っ先に顔面蒼白になり、彼女は「ひぃっ!」と叫び声を上げ、小さな体がびくっと震え、無意識にクスマの服の裾を掴み、力いっぱい引っ張った。
「し、師匠……」
彼女はしきりに手を振り、小さな頭をでんでん太鼓のように振り、泣き出しそうな声で、鼻声混じりに小声で抗議した。
「ざ、残酷すぎます……あんなに綺麗だったのに、今それを……切り開くなんて……そ、そんなの可哀想すぎます……」
「おい、もやし!頭おかしいのか?!」
クレイは嫌悪感に満ちた目でクスマを睨みつけ、さらに大げさに身震いした。
「誰があんなヌルヌルの気持ち悪いもんに触るかよ!想像しただけで鳥肌立つわ!」
クレイはそう言いながら、力いっぱい自分の腕を擦り、その表情はまるで月涙蛾を丸ごと飲み込んだかのようだった。
「行くならてめえで行け!」
(なんだよ……一人は残酷だの、一人は気持ち悪いだの……)
クスマは諦めきれずに助けを求める視線を、チームの秀才——みぞれに向けた。
しかし、みぞれはこめかみを手で押さえ、クスマを殴り昏倒させたい衝動を必死に抑え込んでいるようだった……。
彼女は深呼吸をした。周囲のキノコの幽玄な青い蛍光が、彼女の澄んだ瞳の中で揺らめく。しかし、注意深く観察すれば、彼女の瞳孔が微かに震えているのがわかる。
続けて彼女は、優しくも普段通りの、有無を言わせぬ理性的な声で、この茶番に最終的な判決を下した。
「却下。」
(えぇ?!お前もか?!)
クスマは信じられないといった表情だった。
みぞれはクスマを見据え、冷静に述べ始めた。その口調はまるで教室で導師の質問に答えるかのようで、理路整然とし、反論の余地もなかった。
「あなたの提案には致命的な欠陥があるわ。魔物は死亡するとすぐにアイテムに変わる。解剖するなら生け捕りにする必要がある。それが可能かどうかはさておき、その過程自体が非効率すぎる。」
この完璧な分析に、クスマは一瞬、反論の言葉も見つけられなかった。
「それと」
みぞれは口を開いたが、ふと口ごもった。
彼女の視線が、遠くで安心しきって食事をしている月涙蛾をさりげなく捉え、肩もそれに伴って微かに硬直した。彼女は平静を装って咳払いをし、頬には密かに赤みが差した。
続けて口から出た声は、小さく、早く、硬いものだった。
「……実は、私も虫が苦手なの!」
クスマ、ふゆこ、クレイ:「…………」
─ (•ө•) ─
数秒にわたる、息詰まるような沈黙を、最後にはやはり発端者であるみぞれ自身が打ち破った。
彼女は軽く咳をし、頬の赤みを無理やり抑え、まるで先ほど虫が苦手だと告白したのが自分ではないかのように振る舞った。彼女はチームメイトたちの呆然とした顔から視線を外し、洞窟の別の方向へと向けた——そこには、ちょうど群れから離れ、一匹だけで旋回している月涙蛾がいた。
みぞれはすぐに口を開き、この気まずい話題を逸らそうとした。
「あそこを見て。はぐれた蛾が一匹いる。」
「今はちょうどいい機会ね。」
彼女の声は大きくはなかったが、一瞬にしてチームの雰囲気を気まずい茶番から戦闘への集中へと引き戻した。
「やるのか?」
クレイはとっくに待ちきれず、興奮して拳を握りしめた。
「ええ。」
みぞれの指示のもと、四人は素早く散開した。彼らの動きは流れるようで熟練しており、明らかに最近、練武場で数えきれないほど繰り返してきた戦闘隊形だった。
「クレイ、あなたは遠距離制圧をお願い。」
みぞれは振り向きもせず、指示を出した。
「任せろ!」
クレイはすぐに構えを取り、背中から長弓を引き抜いた。
「クスマ、あなたの回避能力が一番高いわ。正面からやつの注意を引きつけて。」
(……また俺がおとりか。)
クスマは口をとがらせたが、体は正直にチームの最前列へとふらふらと移動し、いつでも左右に飛び跳ねる準備ができているような、ふてぶてしい構えを見せた。
「ふゆこ」
みぞれの声色が少し和らいだ。
「あなたは側面から遊撃し、攻撃の隙を探して。」
「は、はい!」
ふゆこは緊張して唾を飲み込み、武器をしっかりと握りしめ、小走りで素早くチームの側翼へと陣取った。
一方、みぞれは重心を低くし、刀の柄を握り、その小柄な体でクレイの前にしっかりと立ち、チーム唯一にして最重要の「主砲」のために、最も堅固な防衛ラインを構築した。
クスマとふゆこは、最近の訓練で、クレイの火力がどれほど恐ろしいかを十分に目の当たりにしていた。
トントン導師から贈られた高級な長弓と、まるで尽きることのない魔力とが組み合わさり、彼は絶え間なく、驚異的な威力を持つ矢を放つことができた。
「俺の『粉砕』で一撃で仕留めてやる!」
クレイは興奮して叫んだ。
「待って。」
彼がまさにそうしようとした時、目の前に立つみぞれに制止された。
みぞれは振り向きもせず、ただ静かにその二文字を口にしたが、それは有無を言わせぬ威厳を帯びていた。クレイの頭上に伸ばされた手も、一瞬で空中で停止した。
「あなたの『粉砕』は威力が強すぎて、他の蛾を引き寄せやすいわ。」
みぞれは冷静に前方を睨みつけた。
「それに今は洞窟の中よ。上の岩壁が崩落するかもしれない。」
みぞれは続けて言った。
「まずは『粉砕』を使わないで。『流血』に切り替えて、ゆっくりと削り殺して。」
「ちっ!」
クレイは不満げに舌打ちした。
「『流血』は威力が低すぎるんだよ。俺は好きじゃねえ。つまんねえだろ!」
クレイは文句を言いつつも、みぞれの指示に従い、しぶしぶと手を伸ばし、自分の頭上を掴んだ——
「ぽんっ!」
——まるで大根を引き抜くかのような軽快な音と共に、クレイは頭から、とっくに準備してあった銀剣草を引き抜いた。
(……あいつ、そんなに力いっぱい引っこ抜いて、ただでさえ足りてない脳みそまで一緒に引っこ抜いちまわないだろうな?!)
クスマはこの光景を見るたび、ツッコミを入れたくなる。
他のヒナが能力を使う時は、一時的に共生植物を具現化するのに、クレイというやつだけは、直接頭の銀剣草を引き抜いて使うのだ。まるで自分の頭を矢筒代わりにしているかのようだ。
クスマはさらに気づいた。戦いが近いとわかっているためか、彼の頭にはすでに三本の銀剣草が具現化されていた。
クスマの脳内劇場が繰り広げられている間に、クレイはすでに『流血』の能力を発動していた。
彼が矢として使う銀剣草の先端が、一瞬、不吉な赤い光を放ち、まるで一滴の血が凝固したかのようだった。周囲の幽玄な青いキノコの光に照らされ、その一点の赤光はことさらに不気味に見えた。
クレイは矢を弓につがえ、不満げな表情は消え、代わりに狩人のような集中力が現れた。彼は深呼吸をし、遠くで旋回している月涙蛾に狙いを定めた。
─ (•ө•) ─
ヒュン——!
クレイが放った銀剣草は、暗闇の中で赤い流光を描き、周囲の幽玄な青いキノコの光と影を完璧に引き裂き、月涙蛾に命中した。
「キィ——!」
月涙蛾は甲高い鳴き声を上げ、空中で狂ったように旋回した。撃ち抜かれた翼の傷口からは、青く、微かな蛍光を帯びた血が絶えず滴り落ち、癒合する気配は全くなかった。
「今だ!もやし、お前も早くしろ!」
機を逃すまいと、クレイはすぐに再び弓を引き絞り、クスマに向かって叫んだ。
クスマはそれを聞いてすぐに動いた。彼はとっくに具現化し、手に握っていた数本のもやしに『硬化』を発動させ、鋼の針のように変えると、続けて力いっぱい空中の月涙蛾に向かって投げつけ、追撃を試みた。
ふゆこも手伝おうとしたが、彼女には有効な対空手段がなかった。
「あ……高すぎる……」
彼女は地上で拳を握りしめて焦るしかなく、さらにその場で二度ほど跳び上がり、敵に届かせようとした。
「師匠、頑張って!クレイ、頑張って!」
(俺の弟子がこういう時、チアリーダーにしかなれないとは!)
クスマは思わずまた心の中でツッコミを入れた。
一方、みぞれは魔力を温存しつつ、冷静に状況を観察していた。
彼らが月涙蛾がもう限界だと思った、その時——異変が生じた。
月涙蛾の翼にある「青い涙の紋様」の一つが、突然、月光のような清らかで柔らかな光を放った。
光に包まれると、絶えず流血していた傷口が、なんと目に見える速度でゆっくりと癒合し、再生し始めた!
治癒が完了すると、その青い涙の紋様もそれに伴って輝きを失った。
「はぁ?!ふざけんな!」
自分がようやくつけた傷が消えるのを見て、クレイが真っ先に奇声を上げた。
「き、傷が消えちゃった!」
ふゆこも驚きの声を上げた。
「まさか?!」
クスマは呆然としていた。
「なるほど……」
みぞれは輝きを失った模様を見つめ、その澄んだ瞳に理解の色が閃いた。彼女はまるで問題を解くかのような推測口調で、静かに説明した。
「やつらの翼にある青い涙の紋様は、見たところ、おそらく『エネルギー嚢』ね。中のエネルギーを消費して、自己治癒を行うことができる。」
彼女はもう片方の無傷な青い涙の紋様を一瞥し、眼差しが即座に鋭くなった。
「つまり、もう一回使えるってことね。」
「攻撃を早めて!」
みぞれはすぐに新たな指示を出した。
クレイとクスマはそれを聞いてすぐに攻勢を強めた。
「キィ——!」
月涙蛾は再び傷を負ったが、もう片方の翼にある青い涙の紋様も、それに伴って光を放った!
二度目の治癒が完了した後、やつ(月涙蛾)の二つの青い涙の紋様はどちらも輝きを失った。
——やつの回復手段は、ついに尽きた。
回復能力を失った月涙蛾は、もがく力も残っていなかった。クレイの次の一矢が、その体を貫き、空中から撃ち落とした。
月涙蛾は即座に空中で分解し、死体は残さず、代わりにキラキラと輝く、月光のように清らかな金色の粉末の小さな塊となり、ゆっくりと舞い落ちた。
「ふぅ……やっと倒した……」
クスマは安堵のため息をついた。
「ちっ!無駄な力を使わせやがって!」
クレイは不満げに弓を収めた。
ゆっくりと舞い落ちる「月塵」を見つめるみぞれの顔に、喜びの色は微塵もなかった。彼女はただ、極めて真剣な口調で、今回の戦闘に対する最終的な結論を下した。
「よく聞いて」
彼女は皆に向き直った。
「この蛾は厄介よ。」
「一匹でこれだけ面倒なんだから……しかも回復の機会が二度もある。」
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