ひよこクスマ

プロトン

文字の大きさ
58 / 58

第58話 月光石

しおりを挟む
それからの一時間――「蛍光キノコの洞窟」全体に、この不気味な環境とはまったく不釣り合いな、滑稽でいて詭譎な雰囲気が漂っていた。

洞窟は本来、静まり返った陰鬱な場所であるはずだった。しかし今、この神秘的な洞窟に響き渡っているのは、奇妙な「劇場感」だった――光と影が明滅し、投影が揺れ動き、誇張された音声が反響して重なり合っている。

「女、お前には拒否権はない!」(投影より)

「ギィ――!」(月涙蛾の最期の悲鳴)

「ブスッ!」(氷の刃が肉を貫く音)

「ブォン――!」(クレイの弓弦が震える音)

「やっ!」(ふゆこのとどめの一撃の叫び声)

こうして、昼ドラのアテレコと実戦での虐殺が組み合わさった、シュールな光景が洞窟内で繰り広げられた。

洞窟の岩壁では、あの滑稽な投影が律儀にループ再生を続けている。

そして空中では、その投影の光に引き寄せられた蛾たちが、一羽また一羽と、完全に魅入られた観客のように宙に留まり、画面を凝視していた――まるで、あまりに見入ってしまい、ポップコーンを食べるのも忘れた「入り込みすぎた観客」だ。

これにより、戦闘のプロセスは、極めて単調で、滑稽で、さらには少し……催眠的ですらあった。
映像の中のジェフが、あの下品な(本人はイケてるつもりの)笑みを浮かべ、ふゆこに向かって、すでに数十回は聞いたあのキザなセリフ「女、お前には拒否権はない!」を口にするたび、クレイは不機嫌そうに舌打ちをする。

「うるせえ……あいつ、蛾よりうぜえな」

そして、まるで鬱憤を晴らすかのように――ジェフの脂ぎったセリフにも、こんなクソみたいな芝居に本気で引き寄せられている蛾たちにも腹を立て――クレイは弓を引き絞り、『流血』の矢を放つ。矢は宙に浮かび、最も見入っていた月涙蛾を正確に射抜いた。

一方、みぞれは、ただどうしようもないという顔で、その一部始終を見ていた。

(……有効なのは認めるけど、なんだか……知能を侮辱されている気分)

彼女は内心、静かにため息をついた。

一方、「ヒロイン」であるふゆこは、さらに悲惨な待遇だった。彼女はまったく顔を上げることができず、映像が自分が「壁ドン」されるシーンになるたび、「ひゃ……」と小さな声を漏らし、小さな翼で顔を固く覆い、いますぐ穴を掘って埋まりたいと願うばかりだった。

「師匠……もうやめてください……本当に……恥ずかしいです……」

彼女は翼の隙間から、蚊の鳴くような声で抗議する。

だが、クスマが聞き入れるはずもなかった。彼はすっかり夢中で、それどころか投影画面に向かって「実に実に」と感嘆の声を漏らしている。

抗議が効果などあるはずもなかった。

ふゆこが再び指の隙間から、あの恥ずかしい画面を盗み見ると、ちょうど数羽、あまりに見入って興奮した(?)のか、やけに低く、地面に触れそうなくらいまで飛んできた「不運な観客」が目に入った。彼女の羞恥心は、瞬時に怒りへと着火した。

「死ね――!」

ふゆこはカッと目を見開き、目に涙(半分は羞恥、半分は怒り)を浮かべ、可憐な叫び声を上げると、手の中のヤナギマツタケを力任せに前へと振るった。

「はあっ!」

意外にも、この「鬱憤晴らし」の斬撃は命中率がかなり高く、難なく一、二羽を仕留めることができた。

こうして、ジェフのあの「女、お前には拒否権はない!」という俺様セリフの無限ループ再生の中、世にも奇妙な虐殺……いや、「狩り」は、こうして続いた。

彼らは難なく秘境任務に必要な10個の月塵と、トントン導師から要求された追加の10個を集め終えただけでなく、ついにはメンバー全員が、あのクソみたいな芝居のセリフを暗記してしまうほどだった。

投影:「女、お前には……」
クレイ:(無表情で弓を引き絞り)「……拒否権はない!」

クレイに至っては、もはや無表情で後半のセリフを復唱し、まるで奇妙な二重奏でも奏でるかのように、再び「ブォン」と弦を鳴らし、また一羽、うっとりと見惚れていた月涙蛾を射抜くのだった。

(……クレイさんまで覚えちゃった……)

クレイまでがセリフを口にし始めたのを聞いて、ふゆこは恥ずかしさのあまり顔をさらに深く埋め、小さな体を丸く縮こまらせた。

クスマだけが唯一、この状況を楽しんでいた。彼は翼で頬杖をつき、時折うんうんと頷き、いかにも「芸術鑑賞中」といった風の、実にムカつく表情を浮かべていた。

(うん、なかなか。ジェフのあの表情は迫力があるし、ふゆこの怯え方も実にいい……俺はなんて天才監督なんだ)

ついに、最後の一羽が、ジェフのあの例(れい)のセリフを背景に、満足げ(?)にキラキラとした金色の粉末へと変わったのを見届け、クスマはようやく満足そうに指を鳴らし、スイッチを押し、彼の「投影」をオフにした。 

カチッ。

世界は、ようやく静けさを取り戻した。

洞窟は再び、あの息詰まるような静寂に包まれた。湿った冷たい空気が再び主導権を握り、水滴が「ポツ、ポツ」と岩壁に反響する。キノコの胞子と泥の混じったあの匂いも、誇張されたセリフの引き立てがなくなったことで、より濃く、よりリアルに感じられ、少しむせ返るほどだった。

「終わったわ」

みぞれは(明らかにあのセリフのせいで)ズキズキと痛むこめかみを揉みながら言った。彼女のその冷ややかな声が、ようやくこの静寂を破った。

「任務完了よ。月塵も十分。いつでも転送で離脱できるわ」

彼女はそう言うと、あたりを見回した。

しかし、その一言で――雰囲気は逆におかしくなった。

三羽のひよこの反応が、奇妙なほど一致していたのだ。

クスマはぱちくりと瞬きをし、翼をわずかに広げ、まるでポップコーンを突然奪われた観客のような表情を浮かべた。

「これ、全然戦闘じゃなかったぞ!」

クレイは不満げに文句を言った。

「俺、まだ数射しかしてないんだが?準備運動にもなりゃしねえ!全然スッキリしねえ!」

(……終わり、ですか?)

ふゆこは、どこか茫然とした様子で顔を上げた。彼女は地面に残った最後の月塵をつつき、それから手の中のヤナギマツタケを見た。

「私、なんだか……恥ずかしがって、悲鳴を上げて、最後に八つ当たりで何回か斬りつけた以外、全然役に立ってないような……」

三者三様の「不満足」が、空気中で奇妙な合意に達した。

このまま帰って、本当にいいのだろうか?

─ (•ө•) ─

「どうせまだ時間はあるし、いつでも転送で帰れるんだろ?」

クスマがパンッと両手を叩いた。その声には、いたずらっぽい笑いと興奮が満ちている。彼の瞳には落ち着きのない光が宿り、まるで悪戯を終えたばかりなのに、次の一件を企んでいるかのようだ。

「なあ、もうちょっと奥まで行ってみようぜ。ひょっとしたら、とんでもないお宝があるかもしれねえだろ?みぞれ、お前だって少しは気にならねえか?」

彼はそう言いながら、肘でみぞれをつついた。

「そうそう、ここまで来たんだしよ!」

クレイがすぐに乗り気になって同調する。彼は興奮した様子で長弓を背中に担ぎ直し、「ゴン」と鈍い音を立てた。

「万が一、レアな鉱石とか、強力な武器とかが隠されてたらどうすんだよ!行こうぜ行こうぜ!何をビビってんだ!」

クスマの扇動に加え、クレイも「早く早く、待ちきれねえ」と言わんばかりの表情で横から囃し立てた結果、チームは最終的に(二対一、ふゆこ棄権により)「全会一致」に達した――もう少しだけ深部へと進み、この秘境の最奥には、一体どんな秘密が隠されているのかを確かめてみることに。

みぞれが心変わりするのを恐れるかのように、クスマとクレイは即座に踵を返し、興奮した様子で洞窟の奥深くへと走り去った。

みぞれは、そのまるでピクニックにでも行くかのような二人の背中を見つめ、それから隣で、少し怯えながらも、瞳の奥に好奇心を覗かせているふゆこを見た。

「……まあ、いいか。どうせいつでも転送で帰れるんだし」

彼女はため息をついた。が、その直後、口元にはどうしようもなさが半分、隠しきれない笑みが半分の表情が浮かんだ。

この二人を止めるのが、渓流に向かって「下へ流れるな」と叫ぶのと同じくらい無駄なことだと、彼女は知っていた。結局、彼女も軽く装備を整え、呼吸を一つ整えると、ふゆこと一緒にその後を追って歩き出した。

──彼らは洞窟の深部へと進み続ける。

ここは、わざわざ地図を描く者などいない初級秘境だ。

そのため、彼らには何の先人の経験も参考にできず、ただひたすら「宝物は常に最深部にある」という、この単純明快な直感だけを頼りに、蛍光キノコが最も密集し、光が最も明るい方向へと進み続けた。
そして、彼らがいくつもの狭い岩の裂け目を通り抜けた、その時、目の前の光景が突如として開けた――

頭上の穹窿は高く、その境界は見えない。壁と岩柱には、無数の微かな光を放つキノコがびっしりと生い茂っている。それらの光点が交差し、流れ、まるで銀河が岩壁の間をどこまでも伸びていくかのようだ。その一呼吸ごとに、夢幻的な揺らめきが明滅している。

地下全体が、まるで「逆さ映しの星空」と化したかのようだった。

「わぁ……」

ふゆこは、それを見て思わず小さな感嘆の声を漏らした。彼女は夢見心地でその幻想的な微光を見つめ、その超現実的な美しさをかき乱すのを恐れるかのように、呼吸さえも慎重になった。

続いて、彼女の視線がゆっくりと下へと移り、洞窟の開けた地面へと落ちた。そこには、背の高い巨大なキノコが、一株、また一株とまばらに生えていた。

そして、それらの巨大キノコの基部には、数十、いや数百にも及ぶ、透き通った、まるで水晶細工のような繭がびっしりと付着しており、それらはキノコの光に呼応するかのように、一明一滅しながら、微弱な生命の息吹を放っていた。

「『月涙繭(げつるいけん)』……」

みぞれは無意識に声を潜め、その口調には学術的な探求心が宿っていた。

「月涙蛾の卵鞘ね。キノコの基部に巣を作ることで、幼虫が孵化してすぐに食事ができるようにしてるんだわ」

みぞれの視線は、目の前の繭には留まらなかった。
それらの分布する領域に沿って、ゆっくりと洞窟のさらに奥、さらに明るい中心点へと向けられた。

「あそこも見て」

みぞれは続けて、洞窟の最中心部を指差した。

一同が彼女の指差す方向へと視線を向ける――洞窟の最中心、その最も明るい領域に、数十個の、柔らかな光を放つ石が静かに横たわっていた。

それらはまるで心臓のようにゆっくりと拍動し、その柔らかな光は、まるで暖かな温もりを帯びて、周囲の繭を温めているかのようだった。

「あの石……なんですか?」

ふゆこが小声で尋ね、その顔は困惑に満ちていた。

彼女のその一言が、まるで鍵のように、クスマに何かを思い出させ、彼は息を呑んだ。

「あれだ!」

クスマの声は興奮で震えていた。

「秘境任務ボードで高額買い取りされてた……『月光石』だ!」

そう――彼らは知らず知らずのうちに、任務ボードの「大当たり」を引き当てていたのだ。

「儲かった……マジで儲かったぞ……」

クスマの目は瞬時に二つの月光石のように輝き、彼は無意識に翼をこすり合わせ、よだれが口の端からこぼれ落ちそうになっていた。

しかし、クスマの歓喜は、数秒も持たなかった。隣にいたみぞれの、震える声がそれを遮ったのだ。
彼女の顔色は「サッ」と蒼白になり、震える翼で、頭上を指差した。

「……上……」

彼女は、ほとんど息のような声で言った。

「……全部、月涙蛾よ」

クレイとふゆこはそれを聞き、即座に彼女の指差す方向へと顔を向けた――

それを見た瞬間、クレイの顔色は瞬時に鉄青色に変わり、無意識に低い声で悪態をついた。

「……ちくしょう」

ふゆこは「ひぃ」と小さな悲鳴を上げ、小さな体がビクッと震え、本能的にクスマの服の裾を掴んだ。
クスマは服の裾を引かれるその震えに、何かがおかしいと感じ取り、強張った笑顔のまま、ゆっくりと顔を上げた――

百羽を超える月涙蛾によって構成された、隙間一つない空中巡回部隊が、彼らの頭上に浮かんでいた。
彼らは旋回する戦闘機部隊のように、巣の上空を冷徹に巡航している。百を超える影が交差し、その翼にある幽玄な青い涙の紋様が、暗闇の中で幾筋もの致命的な軌跡を描き出し、巣全体を、まるで絶対不可侵の領域であるかのように覆い尽くしていた。

その光景は、流動する銀河のようだった――不気味なほどに美しく、そして、見た者を即座に踵を返して逃げ出させたくなるほどに、美しかった。

─ (•ө•) ─

この恐るべき光景を前に、チームの四人は息を飲むことさえできなかった。

彼らは呼吸の音さえ、大きく立てることを恐れた。

みぞれが、最初にその衝撃から我に返った。彼女は即座に、チームが完全に頭上から丸見えであることに気づき、素早く手振りで、全員に後方にある突き出た巨岩の陰に退避するよう合図した。

その信号が出るや否や、クレイは即座に反応し、身を翻して姿勢を低くした。ふゆこは半拍遅れ、慌てて翼をばたつかせ、足元がもつれて転びそうになったところを、岩陰に退避したみぞれに襟首を掴まれ、強引に引きずり込まれた。

クスマが最後、文字通り転がるようにして隠れた。四人はこうして背中合わせになり、この狭い岩陰にぎゅうぎゅうに身を寄せ合い、お互いの呼吸が入り乱れるほどだった。

この息詰まるような圧迫感の中、みぞれは深呼吸を一つし、無理やり自分を冷静させた。彼女は声を潜め、皆に近づくよう合図した。

「聞いて……」

彼女がその二文字を口にし、続けて分析を始めようとした、まさにその時、クレイが彼女を遮った。

「百羽ちょっとじゃねえか、何をビビってんだ!」

彼は続けて身振りを交え、声はわざとらしく高揚し、本人さえも気づいていない「強がり」が滲み出ていた。

「俺が遠くから『粉砕』能力で、一羽ずつ、ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!って、的当てみてえに撃ち落としてやるよ!お前ら三人は、俺の護衛さえしてくれりゃいい!完璧な作戦だろ?」

「だめね」

みぞれは彼を一瞥もせず、ただ遠くの蛾の群れを凝視したまま、冷静に彼の案を却下した。

「理想論すぎるわ。あなたの魔力が『粉砕』を百回も撃てるかどうかもさておき」

「そもそも、あなたの一射目が放たれた瞬間、その大きな音と魔力の波動で、一瞬にして全ての蛾の注意を引くことになる。そうなったら、私たち、誰も逃げられないわよ」

みぞれのこの分析に、クレイは完全に沈黙し、言葉に詰まった。

「じゃ……じゃあ、あの『覇道総裁』の投影を続けるのは?」

クスマが、どこかバツが悪そうに片翼を上げ、おずおずと口を開いた。

「さっきはすごく効いてたじゃないですか。あいつら、大好きみたいでしたし!」

「……本気で言ってるの?」

みぞれの表情が瞬時に「無」になり、クレイはまるで理解不能なものを見るかのような目で彼を睨みつけた。

「おい、もやし!」

クレイは、我慢しきれず声を潜めて罵った。

「見えねえのか?あそこには少なくとも百羽はいるんだぞ!あいつらも馬鹿じゃねえ、どうして全部が全部、同じ画面に釘付けになるんだよ?万が一、半分しか引き寄せられなくて、残りの半分がこっちに突っ込んできたらどうすんだ?!」

クスマは本来、反論しようとしていた。だが、「百羽」というその言葉に、彼はふと固まった。

(……待てよ、こいつ今なんつった?「百羽」?こいつのさっきの「ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!」プラン、まさかこの「百羽」を計算に入れる前に考えたのか?)

彼の顔からバツの悪そうな表情が瞬時に消え、代わりに「お前、今自分で自分の顔を殴ったぞ」と言わんばかりの、意地の悪い笑みが浮かんだ。

続いて、彼はわざとクレイの口調を真似、最後のキーワードを強調するように、たっぷりとした揶揄を込めて言い放った。

「ほう?じゃあ、遠くから『粉砕』能力で、一羽ずつ、ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!って、的当てみてえに……きっちりあの『ひゃ――っぴき――』を、全部仕留められると?」

「てめ……!」

クレイの顔がカッと赤くなり、完全に言葉に詰まった。

この険悪な空気を見て、ふゆこが突然、おずおずとみぞれの服の裾を引いた。

「あの……私たち……こっそり、這って行けませんか……?」

彼女がそう言う時、その声はほとんど翼に遮られて聞こえないほどだった。視線は泳ぎ、「自分でも馬鹿げたことを言っているのは分かっている」という気まずさに満ちていた。

みぞれは小さくため息をつき、まずふゆこに安心させるような笑みを向けると、静かに首を横に振った。

「不可能よ。開けすぎていて、遮蔽物が一つもない。それに」

彼女は口調を強めた。

「月涙蛾の複眼は、動く光と影に極めて敏感なのよ。私たちが動いた瞬間、即座に見つかるわ」

全ての案が却下され、雰囲気は再び沈黙に包まれた。クレイは苛立たしげに弓の端で地面をコツコツと叩き、クスマも珍しく黙り込んでいる。

みぞれは、深いため息をついた。

「どうやら……私たちが欲張りすぎたようね。ここの防衛は厳重すぎるわ。仕方ない、撤退を準備しましょう」

しかし、みぞれがそう言って、皆を撤退させようとした、まさにその時、クスマが不意に「あれ?」と声を漏らし、何かに気づいたようだった。

彼は今の状況を全く意に介さず、いきなり空間リングに手を突っ込み、ガサゴソと何かを探し始め、カチャカチャと雑多な物がぶつかる音を立てた。

「おい、もやし、また何やってんだ?!」

クレイはギョッとして声を潜めて怒鳴り、慌てて彼の手を掴んで押さえつけた。

「全ての蛾をこっちに呼ぶ気か?!」

「うるさい!」

クスマはクレイの手を振り払った。
続いて、彼は顔を上げ、その目に一筋の狂気が閃いた。

「みぞれ」

「あんたさっき、月涙蛾の複眼は『動く光と影』に極めて敏感だって、そう言ったわよね?」

「……ええ、そうよ。それが何か?」

みぞれはクスマを凝視し、あの不祥事の予感がこみ上げてくるのを感じていた。

続いて、彼はリングから、一つの鍋を取り出した――

その鍋には、五色の、まるで化学廃液のような得体の知れない粘液が、まだ半分ほど残っていた――まさしく、彼らが前回食べ残した、「七色のスライムスープ」だった。

クスマは舌で唇を舐め、例の「やらかす」時の表情を浮かべた。

「だったらさ……」

「もし、あいつらのその『敏感』な限度を、この光と影で『超えさせて』やったら――一体、どうなると思う?」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...