神と穢れの紙一重

白湯の氷漬け

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好奇心と猫

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 さあっと頭から血の気が引いた。よみがえるいつもの光景を、振り切れないまま一歩後ずさる。
 ずれた懐中電灯の照らす先にもまた一枚。それは青白い月の光に包まれて、点々、点々と、社の奥の方へ続いていた。昼間掃除したはずだ、誰がこんなことを、とふらふら足が辿る。

 ぎちぎちと歯の奥が軋む。雪が滲んで足先が痛い。
 社の裏の石畳にまぎれ、大きな石板一枚が不自然に盛り上がっているのが見えた。凍える背中を冷汗が伝う。その上に横たわっていた椿一輪を、両手で掬ってどかす。花びらはそこで途切れていた。石畳を照らしてみると下に大きな空洞があり、何か入っているがよく見えない。

 私は叔父の話を思い出した。そういえば先々代の曾祖父の日記が見つかっていないのだ。懐中電灯を置いて石を持ち上げようとしてみるが、指に力が入らない。足で蹴ってもびくともしない。
 友人が何を見たのかを知れば、行方の手がかりも得られるかもしれない。縁に両手をつき、押し上げようと足で踏ん張る。ざり、と石板が動き始めた。もう少し。喉からうめき声が漏れた。もう少し。

 手が滑って石板の上に倒れ込んだ。せきを切ったように膨らんだ肺が、冷気に驚いて思わずむせる。しゃがんで懐中電灯を拾い上げ、石板の下を照らした。

 目に入ったのは黒い布だった。そこから肌色の棒が突き出している。
 いや、これは……腕だ。痩せ細り、骨が浮き出て角ばっている。息がうまく吸えなくなる。皮の干からびた指が広がったまま固まっている。手首に何かある。くたびれた合皮の腕時計だ。それも、ずいぶん、見覚えが。

 鼓動の音が耳元で響いている。ゆっくりと上げる懐中電灯の光が震えている。それは腕を照らし、服を照らし、皮の張った首元を照らして。

 友人の顔がそこにあった。

 恐怖で歪んだその顔は土気色で、まさに穢れてしまったように痩せ枯れて、それでもよく見知った顔で。
 懐中電灯を放り投げて、腹の底から声が絞り出された。足に力が入らないまま這いずって逃れる。がっ、がっ、と息を無理やり吸い込み、視界が点滅する。半ば狂ったように手で地を引っ搔き足を踏み出し、ぐちゃぐちゃに逃げ出した。

 家の戸を開け放って転がり込む。膝から崩れて胎児のように寝転がり、両腕で頭を包みこんだ。奥から足音が近づいてくる。震える指の隙間から見ると叔父が仁王立ちしていた。
 助かった、飛び起きて友人の事を言おうと口を開き、ふと昼の叔父の言葉が脳裏をよぎった。

 ──あの時、一匹の獣が穢されたことが原因で、冬が長引いてしまったらしい。儀式も元凶であるその獣の事も、誰一人覚えなんだから眉唾物と思っていたが。その獣の様子を聞いていたからこそ、今回因子を突き止められたというもの

 ──因子を突き止められたというもの

 唾を飲み込む。叔父はあの姿の友人を見つけたのだ。
 そうして隠した?師匠が。儀式のために。

 耳をつんざいたのは怒号だった。
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