神と穢れの紙一重

白湯の氷漬け

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ぐちゃ

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「五時間も何をしていた」

 腰が抜けたまま呆然とする。見上げた先には鬼の形相があった。

「大事な儀式の前日だというのにふらふらと。後継ぎとしての自覚が足りない」

 五時間も経っていない、祠まで走って椿を辿って石板をどかすのも時間はかからなかったはずだ。あとは……。その後だってまた走ってきた。

「夜は神が時を刻む場、神聖さはときに毒となる。執り行うその身が穢れることなど、ゆめゆめあるまじきこと」

 教えてくれなかった。私は儀式を執り行う立場なのに。穢された彼は長い冬とともに忘れ去られる。だから私が、彼の存在を葬り去ることになるというのに。
 いや、叔父はそうさせたかったに違いない、だってあんな場所に、隠して。

 叔父は大きくため息をつきながら横を通り過ぎていき、私は何も言えずにただうなだれていた。
 柱に縋りついて立ち、居間へゆっくりと歩き出す。友人が来てから儀式の供物に困ることはなくなった。外からきたのに参拝の方法だってよく心得ていた。叔父だって昔はよく家に上げていた。

 足元が軋んで音を立てる。私は、私が、儀式を任されたのだ。冬を終わらせなければならない。初めて神社の袴を着た日の誇らしさがよぎった。昼に声をかけてくれた人達の笑顔が浮かび、もし失敗したらと考えて、それらが次々と失望や怒り、軽蔑に変わっていくことを想像した。
 なぜ分家は村のはずれに家を建てるのか。母は私が跡継ぎだと笑いかけてきても、叔父の話をすることは無かった。

 ぐらりと襖に倒れかかる。窓際の花瓶が目に入る。

 ──きっと儀式に役立つ。厭になったら割ってくれ

 その艶やかなくびれを、右手でおもむろに包み込む。とぷんと揺らしながら月明りにかざし、透けた椿の花脈を見上げて。

 花瓶を投げ落とした。



 空を切る音、沈黙、砕け散る轟音が響いて、陶器も水も一緒くたにぶちまけられた。息を吸って、吐いたら、焼けるような痛みが喉に目頭に迫り上がってくる。膝についた手の爪が食い込む。

 滲む視界でろくに見えないなか、無惨に散らばった有様を見下ろし、やってしまったと血の気が引いた。
 両膝をついて破片をかき集めようとする。どこかを切って水溜まりに血が滲んだ。粉々になったそれが愛おしくて憎らしくて、ぐしゃと顔を歪ませると左手の甲に涙が落ちた。声にならない声が喉に詰まった。

 袖でぶっきらぼうに顔を拭い、手のひらほどの大きく残った破片を掴もうとして、ふと、そこから紙切れが覗いていることに気づく。濡れたそれを引っ張り出してみると、手帳から千切られたような跡のある数枚が小さく折られていた。

 もう一度手首で目元をこすり、ぼやけていた焦点を合わせて凝視する。破けないように外側の一枚をそっとめくって、床に広げてみて、息を呑んだ。

 友人の字だった。
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