【完結】縁起モノの私と王様

ちよのまつこ

文字の大きさ
17 / 17

17

しおりを挟む
 二人だけの馬車の中で、寄り添い手を繋ぎながら、私たちはたくさんいろいろな話しをした。

 マリアさんが無事なことから始まって、私の家族のこと、王様の亡くなったご両親のこと、小さい時の思い出、私のいた世界のこと。
 私たちが出会う前のお互いのことをたくさん話した。
 時には笑って、時には悲しんで、驚いて。

 今は王様の初恋が私だという話に驚いているところ。

「嘘!」
「うそではない。」
「だって、出会う前は知らないけど、後宮の姫君たちといろいろと、その…」
「いろいろ……何故それを?」
「だって、後宮の廊下でどこかの姫君が話してるの聞こえてたから、『陛下の腕の中は、素敵だった…』とかなんとか。」
「はあぁぁ、そうか…だが!恋情を持ったのはユーリだけだ。いままで数多くの女性たちと関係をしたが、そんな感情を持ったことはないっ、」
「へぇー数多く…関係…」
「え…それはっ!はぁユーリが絡むと私はかなり愚か者になるようだ……」
「ふふふ…」

凛々しい王様もとても素敵だけど、こんな王様を見れるのは私だけだと思うとやっぱり嬉しい。



 夜明け前。
 そろそろ王宮につくだろうと、閉められていた馬車のカーテンを王様が開けると、大きな尖塔をいくつも持つ石造りの城が薄明かりの中見えてきた。
 馬車は城門を滑るように入り、王宮の玄関前にある広大な石畳の広場に止まった。

 馬車が止まると、待ち構えていたように外からノックがされ、扉が開かれた。王様が先に降りると私の手を取って危なげなく下ろしてくれた。
 私が地面にきちんと足を下ろすと、馬車はゆっくりと動き出して行った。

「ユーリ、後ろを見てごらん。」

「後ろ?」

 王様にそう言われ、振り返ったそこには、黒の護衛服を着た数十人ほどが片膝をつき頭を垂れて整列していた。
 その横には、私たちの馬車に随行していた、護衛たちや近衛兵たちも加わり、全員で百人位はいるだろうか。
 夜が明けはじめた静まり返る空気の中、動いているのは随行の人たちが乗っていた馬が息を荒く吐き、石畳をカポカポと踏み鳴らしているだけだ。

 肌に刺さるような漲《みなぎ》る緊張感を感じる。

「えっ…と、この人たちは……」

 戸惑っていると、見覚えのあるような先頭の一人が進み出て、王様と私の前に再び膝を着く。

「陛下、並びに『瑞兆』様におかれましては、ご帰還まことに恐悦至極に存じます。
ですが、我々護衛隊の未熟さ故に、『瑞兆』様には多大なるご苦労をおかけすることとなってしまい、申し開きの言葉もございません!
どうか、存分にご処分下さいっ!」

あーそういうことか、この緊張感。
本来なら重い罰にあたるんだよね。
彼らもそれを覚悟しているから、こんな早朝からみんな揃って私たちの帰りを待っていたのか。

でも、馬車では二人でほぼ徹夜でじっくり話が出来たし、不謹慎だけど、むしろいい機会だったんだけどね。
処罰してくれと言われても、もういいってと言いたいくらい充実してます。
王様!出来れば罰しないであげて欲しい!
お願いっ!

 そんな気持ちで王様を見つめていると、王様は私をちらりと一瞥《いちべつ》してから目の前に跪く人に声をかけた。

「護衛隊長、」

この人、護衛隊長さんなんだ。
あ、見たことある雰囲気だと思ったら、私を護衛していた三人のうちの一人だ!

「彼《か》の国と事を構えるつもりはないし、処理もすんでいる。ユーリもこのような状態だし、お前たち全員に罰を下していては、多くの耳目《じもく》を集めることになるからな。ことを荒立てたくない。」

 そう言って、私の髪の半分量が肩ほどまで無くなっているのを示した。
 護衛隊長はもちろんのこと整列していた人たちも、ああと嘆くように声をあげ肩を落とす。

「この度は不問にする。」

おおっ!王様!ありがとう!
王様も私と同じ気持ちだったのかも。

「で、ですがっ!」

「だが、二度目はない。再びこのような不始末をせぬよう精進いたせ。」

 跪く全員がさらに低頭する。

 王様は私をさっと抱き上げると、その場を後にした。

「髪、自分で切ったから、みんなに申し訳ないかな。でもよかった、みんなを罰しないで。」

「髪を切らす原因を作ったのは彼らだ。これで、より懸命に任務に取り組むだろう。
彼らは昼夜問わず交代でユーリの護衛をしている。各国の間者がお前を狙っている。
ユーリもその自覚をもっていてくれ。(私はどこまでユーリに弱いのだ…)」

「うん、分かった。」

連れ去られたときの剣尖の音と怒号はあの人たちだったんだ。
私を命懸けで守る人たちがいる。あの人たちの悔やむ姿はもう見たくない。これから気をつけないと。
最後の方が聞き取れなかったけど、王様何て言ったんだろう?


 王宮を抜け、静かな後宮の大廊下を通り、別邸への廊下を進む。

 別邸に入ると、マリアさんが待っていてくれた。
 マリアさんは、王様の腕に抱き上げられ、その首に掴まっている私をみて感激したように涙ぐんだ。

きっとこの人も私が王様への想いに悩んでいたこと知ってたんだ。

 王様の腕から下ろされると、すぐさまマリアさんに駆け寄った。マリアさんはギュッと抱きしめてくれた。

「おかえりなさいませ、ユーリ様。」

「ただいま。心配かけてごめんなさい。マリアさんも体は大丈夫?」

「はい。大丈夫でございます。ユーリ様…お髪《ぐし》が……」

 ざっくりと切れ不恰好《ぶかっこう》に肩まで短くなった髪を、撫ぜて痛ましそうに私を見るマリアさんを慰めるように、「やってしまいました」と苦笑《にがわら》いしてみせた。



 不恰好に切れた私の髪は、暫く体を休めた後の午後になってから、マリアさんに綺麗に切り揃えてもらうことになった。

「こんなに綺麗なお髪ですのに。」

 テラスに椅子を置き、テーブルの上にはハサミやブラシや櫛など必要と思われる物を全て並べ、当の私は白いケープを着けて姿勢正しく座って、準備は万端。

 なのに、切り揃えると言えども、黒髪にハサミを入れることに抵抗があるようだ。
 櫛を丁寧に入れながらなかなか思い切りがつかない。

「またすぐ伸びるから大丈夫よ。」

 この会話を何度目か繰り返している。

切ると言っても、肩の長さなんだけど。
私にとっては全く抵抗ない長さなんだけどなぁ。

 急かすのもどうかと思うので見守っていたら、王様がやってきた。
 マリアさんはなんと、自分には出来ないので王様に切って欲しいとお願いし出したのだ。

「私が、か?」

王様まで尻込みしたら誰も切れないじゃない!
さっさとざっくりやっちゃってよ!

 と、内心発破をかけていると、やっと王様がハサミに手をかけた。

 テラスのため、王様の近衛兵や私の護衛の人たちみんなに見守られてまるで断髪式のような緊張感の中、残りの髪が切られた。

「その髪はどうするの?」

「宝物庫で保管する。」

「あ……そうなの。」

もう、何も聞くまい。

 王様が切った黒髪をマリアさんに渡してヒソヒソと何やら話していたが、よく聞こえなかった。

 でも、
「この髪は、私が持ち帰った髪とともに箱に納めて宝物庫に保管するように。」
「ユーリ様が自ら切り落とされた?あれは王太子に渡したと仰ってましたが…」
「あんな男に渡すわけがないだろう!ユーリの髪をユーリとの縁《よすが》にされてたまるものか!」
「……承知いたしました。」
と言う会話がされていたと知るのは、もっとずっと後のことだ。



 さらに数日後。
 私の体調は万全になった。

「うーん!いい天気!」
「ユーリ様、午後はどのように過ごされますか?」
「そうね…王様と一緒にお茶がしたいな。」
「畏まりました。護衛に案内させます。」
「ありがとう。」
「ユーリ様、間違っても護衛にお手を触れませんように。」
「ふふふ、はぁい。」

 護衛の三人はあらためて正式に紹介してもらった。
 隠されていた顔も見せてもらった。はい、期待を裏切らない美形でした!それに予想通りの精悍な顔立ち。

大丈夫。揺るぎません!

 もう少しすると、私はこの別邸を出て王宮に移る。
 王様と結婚するのだ。ちゃんとプロポーズもしてもらった。
 私がここを出ると後宮は完全に閉じられることとなる。

「いよいよ特別舎から出るのか~これから外はいろんな事があるんだろうなぁ。まあその時はその時で考えよっと!」
「そうだな、共に考えて行こう。」
「王様?!」
「休憩しようと思ってな。迎えにきた。」
「来てくれて嬉しい。ありがとう。」

 女子力のまだまだ足りない私には大袈裟な愛情表現はできそうにない。でも、ゆっくりでも思っていることはちゃんと言葉にして伝えていこうと思う。

「ユーリ、私はお前の夫で、家族だ。一人で考えるな。」
「うん。」
「だから、そろそろ私を名前で呼べ。ほら言ってみろ。」

 気持ちはどんどん言葉にしようとは思ったけど、『王様』呼びが標準仕様だから、名前っていまさらすぎて意外に恥ずかしい。

「…エデュ…アー…ド」
「もう一度。」
「エデュアード」
「もう一度。」
「ちゃんと言いました!」
「もっと大きい声で。」
「恥ずかしいからもっと練習してから。」
「私の名が恥ずかしいと?!」
「そう いうことじゃなくて!」
「あはははは!」
「もう!」

この人私が恥ずかしがっているのを絶対面白がってる!

「ユーリ」

 王様…エデュアードが私の名を呼ぶと、私たちはお互い視線を交わし、どちらからともなく差し出した手を繋いだ。


―――とある世界のとある大陸に、それはそれは大きな王国がありました。
その王国の王様の後宮にはとても珍しい一人の少女が納められておりました。

少女は世にも珍しい『瑞兆』。
王国の王様は少女を深く深く愛しました。少女もまた王様を愛するようになり、王様のただ一人のお妃様になりました。
縁起モノの『瑞兆』を得た王国は益々繁栄し、二人はいつまでも仲睦まじく、末長く幸せに暮しました。―――

【完】













しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

処理中です...