【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ

文字の大きさ
22 / 88

22ルーの察し

しおりを挟む
 城から帰った翌日、エマはルーの家のダイニングテーブルにぐでっと脱力し突っ伏していた。

 結局、ルーと会えたのは一週間ぶりくらいだ。
 舞踏会へ行く前はルーに「楽しんでおいで」と言ってもらったのに。

 ルーは天秤で薬草を計っている最中で、目盛りから目を離さない。
 だが仕事に集中しながらも、さっきからテーブルに突っ伏しながらダラダラと話すエマの相手をしてくれていた。

「厄介事に巻き込まれないようにって、言っていたのに。
舞踏会で令嬢を助けて世継ぎの王子の目に留まり城に呼び出されたなんて、厄介事ど真ん中大当たりじゃないか」

 やれやれとルーは呆れる。

 舞踏会での騒ぎの顛末から城での昼食会強制参加まで、怒涛のごとくエマを襲った出来事は厄介事以外何者でもなかった。

 ちなみに、エマはジークヴァルトについて余計なことは言わなかった。
 ひどい誤解をされ冷たく突き放されたことは言ったが、自分が抱いた想いは言っていない。
 例えば、もしも軽~いノリで言ったとしても、ルーなら「は?エマは自虐趣味なのか?」とバッサリ斬って捨てられそうだから。間違っても共感する答えは返ってこないだろう。

 誤解され嫌われているからじゃあ私も嫌いになってやる、とは思えないこの複雑な気持ちを上手く説明できないし、いくらルーにでも、男の人に一目惚れしたなんて言うのは恥ずかしすぎる。

 それに次に会う機会があるならまだしも、もう終わったことだ。

「その宰相補佐、見る目のない了見の狭い男だ。そんな男が次代の宰相とはな」

 ルーは小馬鹿にしたようにふんと鼻をならす。
 エマは押し込めたこの想いはますます言わないでおこうと思った。

「それに王子は『ザ・王子様』?金髪に真っ青の綺麗な瞳。気さくで大らかな雰囲気。すでに側室候補が三人。しかも彼女たちの高尚な趣味に無知とは。
その王子は私の一番嫌いなタイプだ」

 エマからの情報をルーが一気に言ってしまうと、随分出来の悪い王子のように聞こえるのは何故だろうおかしいなと思ったが、嘘は言っていない。
 仮にも住んでいる国の王子をバッサリと嫌いだと言い切ってしまうのはどうかと思ったが、ルーの身分は隣国の公爵家令嬢だ。許されなくもないだろう。

 ところで、

「タイプって、ルーにも好みのタイプの男の人っているの?」

 エマはルーほどの美人がどんなタイプの男性が好みなのかすごく興味を引かれた。

 一方、目盛りに集中していたルーは力なく脱力していたエマが、パッと顔を上げ心なしか目も生き生きとしているのを見てとると、うーんと宙を見ながら考えだした。

「私の兄のような男性だな。賢く、腕もたつ。一見物腰は優しげだが決断力があり行動力もある」

「へぇールーの理想はお兄さんかあ。お兄さんって素敵な人なんだね」

「ああ、私の三つ上だが早くから精神的に大人びた人だ。完璧であろうと努力を惜しまない人でもあるな」

(そっか生まれながらに完璧な人なんていないよね。
上級貴族ともなるとどこの国でもハイスペックになるよう教育されているのかも。
将来重役に就いた時いろんなことが秀でてないと下の人たちが付いてこないもんね)

 あの完璧そうなジークヴァルトも公爵家の人間として地道に努力を重ねてきた結果なのかも知れないと想像する。
 万が一会う機会があれば憧れて見上げるだけじゃなく、人としての内面を知りたいなと思う。

(だからそんな機会もうないってっ!)

 嫌われて哀しいくせに、でもまた会いたいと思っている自分は何なんだと分からなくてなって、足をバタバタとさせがばりとまたテーブルに突っ伏す。


 ルーはエマが宰相補佐ジークヴァルトのことを話したとき、哀しげな顔をしたのに気づいていた。
 いつもの彼女なら酷い誤解をされたと怒っているはずだ。なのに哀しげな顔をしていた。
 何となく察しはつくが、彼女が言わないのにルーから詮索するつもりはない。
 さっきまで脱力していた彼女が少し元気が出たようなので今は良しとしておく。

 ルーはふっと微笑むとまた天秤に集中した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

処理中です...