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消えない罪
消えない罪(2)
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次の日、眠たいけど朝から、雅子と学校へ。ほらほら、来たわ、風紀のおっさん、雅子のこと見て、とんできたで。
「吉野! おまえ、なんやその格好は! 職員室来い!」
おっさんは雅子の腕を引っ張ったけど、雅子は黙って睨みつけてる。
「なんやその目は!」
「先生、私、思うんですけど」
「な、なんや」
「なんで隣にいてる野江さんにはなんも言わへんのですか。噂で聞きましたけど、先生、野江さんにどつかれたことがあるってほんまですか? それからなんも言わへんようになったって、それって、野江さんのこと、怖いってことですか?」
なんや、意外にキモすわってるやん。おもろいなー、おっさん、今にも脳みそ爆発しそうや。
「ちゃんと答えてください」
「やかましいわ!」
おっさんの平手が、雅子の顔に飛んで、ものすごい音がした。女の顔どつくなんか、許されへんなあ、ほんま最悪や。
「ちょっと、先生。こないせえゆうたんは私や。殴るんやったら、私を殴りいや」
隣の雅子は、やっぱり平気な顔。この子、なんか変わってる。
「なんや、やらんねやったら、こっちがいこか? 女の顔殴るなんか、最低や、許さんで!」
みんなざわざわ集まってきて、私は、おっさんの股ぐらを蹴り上げて、その汚い顔面に、2発、ケリ入れたった。ケンカやったら負けへん。こんな抵抗できへん中学生にしか手出せへんようなおっさん、屁でもないわ。
「の、野江……おまえ、覚えとけよ!」
「何をやねん。先生、私が本気だしたら、おまえ、死ぬで」
最後に顎に頭突きして、さいならや。
「雅子、いこか」
「さとちゃん、ほんまに強いねんなあ! めっちゃかっこええわ」
「何ゆうてんの、ほら、これで冷やし。腫れとるわ」
自販機で買った缶ジュースを、殴られたほっぺたにあててやった。
「そやけど、意外に根性あるやん」
「思ってたことゆうただけや。それに、殴られんのは慣れてんねん」
「慣れてる? どういうこと」
雅子はセーラー服をたくし上げた。
「こ、これなんやの! どないしたん!」
白い背中には、細長い痣がいっぱいあった。
「お父さん、私のこと、たたくねん。これ、ベルトでたたくから、こないなんねん」
「あんた、親に殴られてんの?」
「うん。でもな、しゃあないねん。私のお父さん、政治家やから、勉強とか厳しくて。私、体弱くて、しょっちゅう休むから、勉強もついていかれへんくて、私立の学校な、退学なってん。友達もできへんし、どこにいっても虐められてばっかりで。そやけど、ここに転校してきて、さとちゃんの話聞いてん。もしかしたら、私も、さとちゃんみたいな不良になったら、もう虐められへんのちゃうかなって。勉強もやりたないし、家もおもんないし、お父さんにもたたかへんようになるんちゃうかなって」
そうなんや……そんなええとこの家の子でも、親にたたかれるんや。うちは貧乏やし、おかんアホやからしゃあないおもてたけど……
「雅子、不良ゆうのは、金髪にするだけちゃうねんで。ケンカもせなあかん。殴られたりするし、ケガすることもあんで、それでもいいん?」
「殴られんのは平気や。私も強なりたい」
「わかった、今度ケンカのやり方教えたるわ」
それから、私らはずっと一緒におるようになった。雅子はどんどんかわいなって、男にようモテた。私は相変わらず、ケンカばっかりしてるから、全然モテへんけど。
中学を卒業して、雅子は私立の女子校へ、私は定時制に入ったけど、もちろん、勉強なんかするわけない。昼間は工場でバイトして、夜は雅子とクラブ巡り。だんだん、遊び方が派手になって、2人とも、バイト代と小遣いでは足りんようになった。かつあげでは小銭しか稼がれへん。
「さとちゃん、ええ金儲け聞いてん」
「エンコウはあかんで、絶対やらん」
「ちゃうって。エンコウのふりして、オヤジ誘って、シャワーしてる間に金抜くんやって。みんなやってるらしいわ」
「それで逃げるってことか。なるほど、ええなあ。女子高生相手にエンコウなんかしてたら犯罪やからな、相手もうかうか警察にも言わんってことか」
「なあ、やろうや。今度イベントあるやん、絶対キメキメで行きたいし。シャネルのピアス欲しいねん」
「そやなあ、ええな、やろか」
遊び半分、軽い気持ちやった。最初は気の弱そうな男を選んでたけど、そのうち、金持ってそうな男を選ぶようになって、危ない目にもあった。それでも、手に入る額が大きくて、私らは、盗んでは遊んで、そんな繰り返しやった。
その日はケンカで補導されて、城田のおっさんの長い説教を聞かされてる。
「おい、聡子、聞いてんのか」
「聞いてるて。なあ、城田さん、ちょっと約束あるねん。めっちゃ反省してるから、もうええやろ?」
「アホか! 聡子、おまえな、これからどないすんねや。もう18やろ」
そんなんわかってる。そろそろこんな生活ともお別れせなあかんことも……雅子とも、お別れせなあかんことも。
「真面目に働く気があるんやったら、知り合いの社長紹介したる。どうや?」
「あー、めんどくさ。ヤクザの嫁さんにでもなろかなー」
「聡子!」
「冗談やん。今バイトしてるとこで、正社員になれるかもしれん」
「あの工場か。まあ、おまえがそれでええんやったら」
巡回行ってきます、と、もう1人のオマワリが出て行ったところで、城田さんが、声を低めた。
「ところで、おまえ、ミナミのホテルで、金抜いてるらしいな」
うわ、誰かちくったんかな。
「しらんな、なんのことや」
「被害届が出とる。おまえも雅子も、捜査リストに入っとるからな、ええか、もうやめるんや」
やばい、マジでやばい。もう潮時やな。雅子とふたり、今晩が最後って決めた。
私の相手は、金持ってそうな、ちょっと若い男。
「おにいさん、先シャワーしてきてよ」
キスくらいはしゃあない。ちょっと抱きついて、キスしたら、男は酒が入ってるんか、上機嫌でシャワーに行った。
さてと。財布はヴィトン、中身は……うわ! めっちゃ入ってるやん! ピン札で1束、さすがにそんなにはヤバいから、30枚ほど抜いて、さっさと部屋を出た。ちょろいもんや。
にせもんの制服はゴミ箱に捨てて、私らはおもいっきり派手なドレスとメイクでクラブへ。雅子は、はずれやったらしく、不機嫌やった。
「こっちはアタリや、豪遊やで!」
思いっきり遊んで、30万なんかあっという間になくなった。キメキメの写真を撮って、あー、楽しかった。私らは、最高にご機嫌やった。
「写真、できたで」
最後の写真は焼き増しして、ふたりでおんなじ写真。
「めっちゃイケてるやん。最高やな」
溜まり場の工場の跡地。珍しく、今夜は誰もおらん。静まりかえった跡地で、私らは、缶チューハイをあけた。
季節は秋。昼間は暑かったけど、夜は冷える。私たちは、体を寄せて、星空を見上げた。
「さとちゃん、高校出たらどないすんの?」
「うーん、あんまり学校行ってへんから、卒業できそうにないねん。もうやめよかなおもてる。雅子は? 大学いくねやろ?」
雅子は寂しそうに、ため息をついた。
「東京やて」
「へえ、ええやん、東京かあ、行ってみたいなあ」
「さとちゃんも行かへん? 仕事やったら、東京で探したらええやん」
「あかんあかん。あんたのお父さん、私から雅子を離したいんやから。もうこんな生活終わりや、雅子、東京行って、幸せにならなあかんで。あんたは、私とは違うんや」
「さとちゃん、そんなん言わんといて。私、ほんまに友達やおもてる。違うとか、そんなん……」
「嫌味でゆうてるんと違う。雅子、私にはない人生、あんたはできるねん。私には行かれへん世界に、あんたは行くことができる。ええ大学行って、ええダンナさん見つけて、ええ生活して。な、私にはできへんこと、かわりにやってほしいねん」
「さとちゃん……」
「雅子、離れてても、友達や」
「うん……なあ、さとちゃんはあの工場で働くん?」
「城田さんにはそないゆうたけどなあ。水商売しょうかなっておもてるねん。がんばったらお店も持てるし、金持ちになれそうやん」
「ええなあ、新地で店出してよ、絶対行くから」
私らは、未来のこといっぱい話して、いつのまにか、もう2時になっていた。ちょっと酔うてるかな、ふわふわする。道路に出て、ふたりで手つないで、歌うたいながら歩いてたら、目の前にデカい車が停まった。
「やっと見つけたわ」
中から降りてきたのは、いかつい服着た、いかつい男。
「ねえちゃん、金、返してもらおか」
ヘッドライトにうつった顔は、あの最後の男やった。
「なんのことや。人違いちゃう?」
やばい、逃げな。
「残念やな、こっちはちゃんと覚えとる」
男はどこで手に入れたんか、ラブホテルの防犯カメラの写真を見せた。
たくった袖口からは、うわ、スミや。あんときはスーツやったからわからんかったけど、こいつ、ヤクザやったんか!
「あー! お、思い出した! あんときの男前のおにいさんやんか。ごめんなさい、あの日な、急に生理なってもて……」
「生理か。ほんなら今日はもう終わっとるやろ? 続きしょうかなあ」
「えー、こ、ここで? 青天はやばいわ、ホテル行こうや」
「なんや、やる気あるやないか。乗れや」
男が車に向いた隙に、私は、雅子の手を引いた。
「逃げるで!」
もと来た道を必死で走る。途中でパンプスが脱げて、どっか行った。
「待てこら!」
男が怒鳴りながら追いかけて来る。この辺りは夜中の人通りはない。どうしよう、このままやったら捕まってまう!
「あっ、雅子!」
何かに躓いたのか、雅子が転んで、男に捕まってしまった。
「や、やめて!」
男は雅子に襲いかかってる。私は近くにあった角材で後ろからおもいっきり男を殴った。
「なんや?」
「お、おっさん、相手は私や。その子は関係ない」
「ええ度胸しとるやないか」
おもいっきり殴ったのに、ピンピンしてる。やっぱりヤクザは違う、やばい、敵わへん。
「雅子、逃げて!」
もう一発、男の顔めがけて角材をふりきった。雅子が泣きながら逃げていく。
「このガキ、殺したろか!」
男の拳がお腹につきささって、デカい手が首を掴む。
「ガキにこけにされて黙ってられるか」
男の手に力が入って、息が……ヤクザはやっぱり強い、全然ちゃう……
「お、おにい、さん……お、おかね、返します……から……ゆるして……」
にやりと笑って、男は手を離した。し、死ぬかと思った……
「ねえちゃん、とりあえず、楽しませてもらおか」
かちゃかちゃとベルトを外す音が聞こえる。ブラウスが破れる音がして、スカートの中におっさんが手を突っ込んでくる。あーあ、このブラウス、お気に入りやったのになあ。だんだん意識が戻ってきて、イヌみたいにはあはあゆうてるおっさんが気持ち悪くて、おもいっきり、頭突きを入れた。
「おとなしせえや!」
男の拳が目の前に迫ってきて、あれ? どっか切れたかな? 左目が真っ赤に染まって、何も見えなくなった。そのまま、何発か殴られて、完全にフクロにされてる。
ああ、もうどうでもええなあ。雅子、ちゃんと逃げたかな? ぼんやり、星空が見える。おっさん、めっちゃ喜んでるやん。こんな傷だらけの女抱いて何がおもろいんやろ。きもいなあ、家帰ったら、すぐ、風呂はいらな……
「吉野! おまえ、なんやその格好は! 職員室来い!」
おっさんは雅子の腕を引っ張ったけど、雅子は黙って睨みつけてる。
「なんやその目は!」
「先生、私、思うんですけど」
「な、なんや」
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なんや、意外にキモすわってるやん。おもろいなー、おっさん、今にも脳みそ爆発しそうや。
「ちゃんと答えてください」
「やかましいわ!」
おっさんの平手が、雅子の顔に飛んで、ものすごい音がした。女の顔どつくなんか、許されへんなあ、ほんま最悪や。
「ちょっと、先生。こないせえゆうたんは私や。殴るんやったら、私を殴りいや」
隣の雅子は、やっぱり平気な顔。この子、なんか変わってる。
「なんや、やらんねやったら、こっちがいこか? 女の顔殴るなんか、最低や、許さんで!」
みんなざわざわ集まってきて、私は、おっさんの股ぐらを蹴り上げて、その汚い顔面に、2発、ケリ入れたった。ケンカやったら負けへん。こんな抵抗できへん中学生にしか手出せへんようなおっさん、屁でもないわ。
「の、野江……おまえ、覚えとけよ!」
「何をやねん。先生、私が本気だしたら、おまえ、死ぬで」
最後に顎に頭突きして、さいならや。
「雅子、いこか」
「さとちゃん、ほんまに強いねんなあ! めっちゃかっこええわ」
「何ゆうてんの、ほら、これで冷やし。腫れとるわ」
自販機で買った缶ジュースを、殴られたほっぺたにあててやった。
「そやけど、意外に根性あるやん」
「思ってたことゆうただけや。それに、殴られんのは慣れてんねん」
「慣れてる? どういうこと」
雅子はセーラー服をたくし上げた。
「こ、これなんやの! どないしたん!」
白い背中には、細長い痣がいっぱいあった。
「お父さん、私のこと、たたくねん。これ、ベルトでたたくから、こないなんねん」
「あんた、親に殴られてんの?」
「うん。でもな、しゃあないねん。私のお父さん、政治家やから、勉強とか厳しくて。私、体弱くて、しょっちゅう休むから、勉強もついていかれへんくて、私立の学校な、退学なってん。友達もできへんし、どこにいっても虐められてばっかりで。そやけど、ここに転校してきて、さとちゃんの話聞いてん。もしかしたら、私も、さとちゃんみたいな不良になったら、もう虐められへんのちゃうかなって。勉強もやりたないし、家もおもんないし、お父さんにもたたかへんようになるんちゃうかなって」
そうなんや……そんなええとこの家の子でも、親にたたかれるんや。うちは貧乏やし、おかんアホやからしゃあないおもてたけど……
「雅子、不良ゆうのは、金髪にするだけちゃうねんで。ケンカもせなあかん。殴られたりするし、ケガすることもあんで、それでもいいん?」
「殴られんのは平気や。私も強なりたい」
「わかった、今度ケンカのやり方教えたるわ」
それから、私らはずっと一緒におるようになった。雅子はどんどんかわいなって、男にようモテた。私は相変わらず、ケンカばっかりしてるから、全然モテへんけど。
中学を卒業して、雅子は私立の女子校へ、私は定時制に入ったけど、もちろん、勉強なんかするわけない。昼間は工場でバイトして、夜は雅子とクラブ巡り。だんだん、遊び方が派手になって、2人とも、バイト代と小遣いでは足りんようになった。かつあげでは小銭しか稼がれへん。
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「エンコウはあかんで、絶対やらん」
「ちゃうって。エンコウのふりして、オヤジ誘って、シャワーしてる間に金抜くんやって。みんなやってるらしいわ」
「それで逃げるってことか。なるほど、ええなあ。女子高生相手にエンコウなんかしてたら犯罪やからな、相手もうかうか警察にも言わんってことか」
「なあ、やろうや。今度イベントあるやん、絶対キメキメで行きたいし。シャネルのピアス欲しいねん」
「そやなあ、ええな、やろか」
遊び半分、軽い気持ちやった。最初は気の弱そうな男を選んでたけど、そのうち、金持ってそうな男を選ぶようになって、危ない目にもあった。それでも、手に入る額が大きくて、私らは、盗んでは遊んで、そんな繰り返しやった。
その日はケンカで補導されて、城田のおっさんの長い説教を聞かされてる。
「おい、聡子、聞いてんのか」
「聞いてるて。なあ、城田さん、ちょっと約束あるねん。めっちゃ反省してるから、もうええやろ?」
「アホか! 聡子、おまえな、これからどないすんねや。もう18やろ」
そんなんわかってる。そろそろこんな生活ともお別れせなあかんことも……雅子とも、お別れせなあかんことも。
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「あー、めんどくさ。ヤクザの嫁さんにでもなろかなー」
「聡子!」
「冗談やん。今バイトしてるとこで、正社員になれるかもしれん」
「あの工場か。まあ、おまえがそれでええんやったら」
巡回行ってきます、と、もう1人のオマワリが出て行ったところで、城田さんが、声を低めた。
「ところで、おまえ、ミナミのホテルで、金抜いてるらしいな」
うわ、誰かちくったんかな。
「しらんな、なんのことや」
「被害届が出とる。おまえも雅子も、捜査リストに入っとるからな、ええか、もうやめるんや」
やばい、マジでやばい。もう潮時やな。雅子とふたり、今晩が最後って決めた。
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「おにいさん、先シャワーしてきてよ」
キスくらいはしゃあない。ちょっと抱きついて、キスしたら、男は酒が入ってるんか、上機嫌でシャワーに行った。
さてと。財布はヴィトン、中身は……うわ! めっちゃ入ってるやん! ピン札で1束、さすがにそんなにはヤバいから、30枚ほど抜いて、さっさと部屋を出た。ちょろいもんや。
にせもんの制服はゴミ箱に捨てて、私らはおもいっきり派手なドレスとメイクでクラブへ。雅子は、はずれやったらしく、不機嫌やった。
「こっちはアタリや、豪遊やで!」
思いっきり遊んで、30万なんかあっという間になくなった。キメキメの写真を撮って、あー、楽しかった。私らは、最高にご機嫌やった。
「写真、できたで」
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「めっちゃイケてるやん。最高やな」
溜まり場の工場の跡地。珍しく、今夜は誰もおらん。静まりかえった跡地で、私らは、缶チューハイをあけた。
季節は秋。昼間は暑かったけど、夜は冷える。私たちは、体を寄せて、星空を見上げた。
「さとちゃん、高校出たらどないすんの?」
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「へえ、ええやん、東京かあ、行ってみたいなあ」
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「あかんあかん。あんたのお父さん、私から雅子を離したいんやから。もうこんな生活終わりや、雅子、東京行って、幸せにならなあかんで。あんたは、私とは違うんや」
「さとちゃん、そんなん言わんといて。私、ほんまに友達やおもてる。違うとか、そんなん……」
「嫌味でゆうてるんと違う。雅子、私にはない人生、あんたはできるねん。私には行かれへん世界に、あんたは行くことができる。ええ大学行って、ええダンナさん見つけて、ええ生活して。な、私にはできへんこと、かわりにやってほしいねん」
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「雅子、離れてても、友達や」
「うん……なあ、さとちゃんはあの工場で働くん?」
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