Dusty Eyes

葉月零

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消えない罪

消えない罪(1)

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 ひっさひぶりに学校来たけど、全然おもんない。同級生も、先生も、見て見ぬふり。もしかして、私、見えてへん?
 つまらん、帰ろかな。2時間目の英語の授業、席を立って、教室を出る。
「あー、の、野江さん? と、トイレかなあ?」
 メガネのおばはん先生が、にやにやしながら声をかけた。
「そうや、トイレ。明日くらいに戻ってくるわ」
「そう、ゆっくりしてね」
 なんやねん、嬉しそうな顔しよって。そんなにジャマか。
 廊下で何人か先生にすれ違ったけど、みんな無視や。ほんまに見えてへんのかもしれんなあ、私。
 きったないトイレに寄ったら、中から声が聞こえてくる。ああ、つまらんなあ、イジメか。
「ちょっとジャマやねんけど、どいて」
 何人かの女が振り返って、私の顔を見て愛想笑いをした。
「そこ、使いたいんやけど」
「えー、でも、他空いてるけどなあ」
「さっさとどけや」
 中には、びしょびしょの女がひとり、蹲ってた。
 しょうもないことするなあ、こういうの、あんまりすきちゃう。
「ああ、それから、外で風紀の先生ウロウロしてんで、はよ戻ったほうがええんちゃう」
 女らは顔を見合わせて、いそいそと出て行った。
「あんたもジャマや、どけ」
 びしょびしょの女は、なんもなかった顔して立ち上がった。泣いてるんかとおもたら、平気な顔して。しかしまあ、なんちゅうカッコや、ガリガリやし、顔色悪いし。
「えらい濡れてもたわ」
「そうみたいやな」
 私はそう言って、トイレを出ようとした。
「トイレ、せえへんの?」
「もうええわ、あんたもはよ戻りや」
 面倒なことには関わらん主義やからな。さっさと学校の門を出て、歩く。後ろに、あの子がずっとついてきてるけど。
「ちょっと、なんなん、なんの用?」
「あー、歩くん早いわー。さっきはありがとう、助けてくれて」
「助けたわけちゃう。あそこを使いたかっただけや」
「野江さんやんな? 野江聡子さん。わあ、ホンモノや、かっこええなあ。私、吉野雅子、先週、転校してきてん」
 興味ないなー。どうでもええわ。
「そう、じゃ。私、行くとこあるから」
「なあ、待って、野江さん。私も行きたい」
「はあ? そんなにカッコで? やめて、私が恥ずかしいわ。そもそも、あんたなんかと連む気はないで」
 背中を向けて、しばらく歩いて、後ろを見たら、まだあの子はポツンと立っていた。後ろにはオマワリがふたりおって、あかん、声かけられてる。面倒くさいなあもう!
「オマワリさん、ちゃうねん、この子、私のツレや。見て、イジメにあって、制服濡れてもたから、家に連れて帰ってるとこやねん」
「なんや、聡子やないか。この子、友達か」
 オマワリのひとりは、口うるさい城田のおっさんやった。
「そうや、そしたら、さいなら」
「おい、聡子待て。おまえ、今度なんかやったら鑑別やからな、わかってるな?」
「わかっとるて。ほら、行くで」
 私は彼女の手を引いた。ああ、めんどくさい、こんなことなら無視するんやった。

「わあ、喫茶店やん! 子供だけで初めてきた!」
 雅子はキョロキョロ、カッコ悪い。ここのマスターはなんも言わん、うちらみたいなヤツのたまり場になってる。
「聡子、友達かいな、どないしたんや、えらい濡れて」
「知らん、この子んとこだけ雨でもふっとったんやろ」
 タバコに火つけて、あー、なんか知らんけどめっちゃ疲れた。
「タバコやん! わあ、すごい、私も吸うてみたい!」
 ほんまうるさい。マスターがタオル持ってきて、タバコなんか吸うたらあかんって、優しくゆうてる。なんなん、私にはそんな優しいことゆうたことないやん。
 昼前になって、いつもの仲間がだらだら入ってきた。
「うわ! 聡子、誰やねん! めっちゃかわいいやん!」
 どこがやねん。こんな青白い、ガリガリの女。制服も標準やし、髪の毛も真っ黒やし、全然イケてへん。来る男はみんな雅子のことチヤホヤして、雅子もビビる様子もなくて、楽しそうにして……全然おもんない!
「帰るわ」
「あっ、さとちゃん、私も帰る!」
 さ、さとちゃん! 誰に向かって口きいてんねん!
「さとちゃん、待ってよー」
「あんた、ええ加減にしいや。誰がさとちゃんやねん。私のこと知っとるんやろ? 慣れ慣れしいすんな、しばくで」
「ごめん、ほんなら、なんて呼んだらええん」
「呼ばんでええ、今後一切、あんたと喋ることはない」
 あ……ちょっとキツかったかな……トイレでいびられても泣かへんのに、うそやん、こんな道の真ん中で泣かんといてよ。どうみても私が悪いやん!
「わ、わかった、わかったから泣きな」
「さとちゃんって呼んでええ?」
「好きにせえや。そやけど、つきまとうのはやめて。あんな店、あんたみたいな子が行くとこ違う。ええか、私らみたいなんと連んでたら、周りから変な目で見られるで」
「変な目って、どんな目? 私な、転校して、さとちゃんの噂聞いて、めっちゃファンなってん。だから、今日会えて、めっちゃ嬉しいねん。なあ、男の子とケンカしても負けへんねやろ? 先生どついたってほんま?」
 まあ、ほんまやけど……
「さとちゃん、私も仲間に入れて。私もな、さとちゃんみたいにカッコようなりたいねん」
「やめとき」
 くだらん。私がどんだけどつかれてここまできたおもてんねん。
「さとちゃん、お願いやて」
「わかった、ほんならな、吉野さん」
「雅子でええよ」
「雅子、そのだっさい髪の毛、金髪にしといで。で、その制服もいけてへん。あの店におった女見たやろ? あれくらい、気合い入れといで、そしたら仲間にしたるわ」
「金髪にしたらええねんな? わかった、してくる! 約束やで、さとちゃん!」
 はいはい、できるわけないやろ。あー、疲れた。憂さ晴らしに、ケンカでもしにいくかなあ。

 それから一週間経って、雅子のことは、すっかり忘れてた。学校もあれから行ってなくて、今日もゲーセンでいきったヤツからかつあげして、いつもの店でハンバーグ食べてた。
「景気ええなあ」
「久しぶりに金持ってるヤツおったんや」
 みんなでアホみたいにだべってたら、金髪できめた女が入ってきた。
「おい、聡子、あれなんや、見ん顔やな」
「ちょっとしめとこかな」
 そう言って立ち上がったら、金髪がこっちみて嬉しそうに手を振った。
「え! あ……あれ……」
「さとちゃん! よかったー、おったおった! ほら見て、金髪にしてんで、口紅もつけたし、この制服もやっと買ってんで!」
 信じられへん。金髪は紛れもなくあの雅子で、悔しいけど、ピンクの口紅はよう似おてて、ミニスカートから伸びる足は、真っ白で細くてキレイ。
「あんた、なんでそんなことしたん!」
「仲間に入れてくれるゆうたやん。どう、似おてる?」
 ツレの男らは鼻の下伸ばして、にやにや笑ってる。ああ、えらいことに……まさか本気でやってくるやなんて……
「なあ、あんた、学校は?」
「風邪ひいて休んどった。治ったから、髪の毛染めに行ってん」
 そうか、ほんなら、学校行って、先生に一発殴られたら目覚めるやろ。
「雅子、よう似おてるわ。そしたら明日学校行こ。学校行って、一発かましたろ」

 

 
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