Dusty Eyes

葉月零

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愛のカタチ

愛のカタチ(6)

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 写真はジップロックに入っていて、聡子の部屋にあったものより、ずっと傷んでいるようだ。
「これね、私と雅子。高校生の時よ、バカだった、ほんとに」
 でも、写真の2人は、今よりずっと楽しそうで、幸せそうに見える。やんちゃながらも、彼女たちなりに、必死で生きてたんだろう。
「今とは別人だな」
「そうね、ひどいメイク」
「そうじゃない、2人とも、幸せそうだ。キミの部屋にもあっただろう。一緒に、オトナになったキミたちの写真もあった。綺麗にはなってるけど、心から笑えてないように見えた」
 俺の言葉に、聡子はため息をついた。
「この写真ね、雅子が持っててくれたの。事件の夜に、2人で同じ写真をね……ほら、昔は焼き増しとかあったでしょ? まさか、こんなものまだ持ってるなんて思わなかった。遺品整理の時に、社長が……もう雅子の過去のことは、消してくれって……この写真は処分しろって」
「宮川が社長をゆすってたネタはなんだったんだ」
「雅子の過去のことと、クスリよ。でも、あの火事からはネタが変わったみたい。保険金詐欺がどうとかって。私はよくわかんなかったけど、定期的にお金を渡してたわ」
「キミのことじゃなかったのか」
「違うわ、私のことなんて、クビにすれば済む話でしょ。たぶん……」
「真犯人は雅子さんだってことか」
 聡子はそれきり、黙ってしまった。
「友達を守りたいか」
「償いたいの、どうにかして……どうしたらいいの?」
「そうだなあ、どうしたらいいんだろうな。俺も教えてほしいよ、どうやったら……償えるのか、俺もずっとわからないままだ」
 窓から西陽が差し込んできて、聡子は眩しそうに目を細めた。
「社長、罪になる?」
「話を聞いてみないとなんとも言えないな。キミが帰った後、何があったのか、今の段階じゃわからない」
 ブラインドを閉めると、聡子は俺の顔をじっと見て、左の掌を広げた。ひどい火傷だったんだろう、ぼこぼこと、ケロイドが広がっている。
「火事の時ね、雅子、言ってくれたの、友達だって。友達って思ってるって。私、雅子のこと、これ以上傷つけたくないの、もし社長が捕まったりしたら、雅子のことを悪く言う人がいると思うの。雅子ね、体が昔から弱かったの、きっと、辛かったんだと思う。私もこんな体になってよくわかるの、思うように体が動かないのってね、こんなに辛いんだって。雅子はわがままだとか言う人もいたけど、仕方ないの、辛いんだもん、だからね……」
「だから?」
 聡子はその写真に握りしめて、ごめんなさい、と震える声で呟いた。
「ずっと謝ってるのか、友達に」
 俺もそうだ。俺も、ずっと謝ってる。
「過ちは、消えない。でも、誰でも間違えることはある、キミだけじゃない。俺もそうだ」
「辰巳さんも? 辰巳さんも、間違えたの? その、先輩のこと?」
「そうだな、いつまでも消えない十字架を背負ってる。おろしてもいいって言われるけど、ダメなんだよ。もしおろしたら、自分がいなくなるんじゃないかって、なんのために生きてるのかって、怖いんだ」
「……だから、悲しい顔なのね」
「そうかもしれないな、心から笑ったのは、ずっと昔のような気がするよ」
 聡子はティッシュで目を拭って、化粧の落ちた顔で、悲しそうに微笑んだ。
「もう帰っていい?」
「ああ、送らせようか、暇なやつがいる。新人だけど、運転くらいはできるから」
「辰巳さんじゃないの?」
「ごめん……まだ、仕事が残ってて……じゃあ、御堂に送らせるよ、もう帰ってる頃だ、それなら安心だろ?」
 でも聡子は、首を横に振った。
「いい、ひとりで帰れるから」
 外に出ると、すっかり雲が厚くなっていて、小雨が降っている。強く風が吹いて、聡子の髪がなびく。
「雨だな、風間先生に来てもらう?」
「あの人、キライなの」
 聡子は、振り返って、頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました」
 なんだよ、そんな……そうだよな、俺たちは、警察官と参考人、それだけの関係だった。
「ご協力、ありがとうございました」
 俺も敬礼をして、ケジメだよな、これが。
 ふらふらと小雨の中を歩く聡子の後ろ姿を見送る。あ、危ない! 後ろから来た車に、ぶつかりそうになってるじゃないか。やっぱり送って行こう。
「野江さん!」
 大声で呼び止めたけど、聡子は、軽く会釈をして、そのまま門を出て行った。
 しばらく見えなくなった聡子に耽っていると、雨がどんどん強くなっていく。傘くらい貸してやればよかったかな……濡れてまた、熱が出たら……可哀想なことしたな。
「あれ、一真、何してんの?」
 ちょうど御堂が帰ってきたらしい。
「雨降ってきてさ、最悪だよ、スーツ濡れた」
「野江聡子が来てた」
「えっ、聡子ちゃんが? なんだよ、待っててくれてもいいじゃん!」
「事件のことを話にきた。裏どりして、梅木をひっぱる」
「それそれ、目撃者、やっと見つけたよ。あの夜、男同士で口論してたらしい。夜中の1時すぎだ、時間的にはおかしくない」
「やったな、よし、これで解決だ。あとは御堂、頼んだ」

 デスクに戻ると、中津がパソコンをたたいていた。
「野江聡子、来てたらしいね」
「ああ、証言がとれた。それに、御堂が目撃者見つけたらしい」
「そう、よかった、これで解決だね」
「ああ、おまえにもいろいろやってもらったな、ありがとう」
 うん、と一言言って、またパソコンに向かう。なんだかいつもと様子が違うけど……
「中津、どうかしたか」
「異動願を出した」
「え、なんで、ちょっと待ってくれ、どうしてだよ」
「うちは旦那も刑事だしね、不規則でしょ、子供のことはばあちゃんに任せっきりでさ、もう年だし、子供にも寂しいなんて言われて」
「そんな……や、夜勤が問題なら外すよ、ヤロウ3人でどうにかするさ。だから、頼むよ、いてくれよ」
「そんな迷惑かけらんないよ、今でもかなり融通聞いてもらってる。それにさ、あんただってわかるだろ? 休みでも事件が起こったら呼び出し、帰れない時もある。もう、旦那と話し合って決めたことだから……警察学校の教官の席があるって、前から言われてたんだよ。それなら時間も決まってるし……」
「一言くらい相談してくれてもよかっただろう。勤務体系のことなら俺がどうにかするから。それとも、この仕事が嫌になったか?」
「そんなわけないだろ! 私だって、できるなら現場にいたいよ、だけど、そうはいかない、自分だけじゃないから」
 そうか……そうなんだよな。結婚って、家庭を持つって、自分だけじゃなくなるんだよな。
「納得できねえけど、仕方ないのか……ごめんな、俺、おまえに頼りきりで、それに、全然考えれてなかったな」
 昔、はるか昔、俺はこいつに惚れてた。だけど、他の男にとられて、でもその男は俺が殺した。本当は俺が支えてやらなきゃいけなかったのに、俺は逃げた。こいつから……
「またそんな顔する。辰巳、もういいから。あんたさ、まだあのこと気にしてんだろ? 私に負い目なんか感じることないし、あんたはあんたで、自分の幸せ探しなよ。家庭もいいもんだよ、制限はあるけどね、家族がいるって、それだけで生きる意味が見出せる」
「俺は、家族がいたことねえから……わかんねえけど、きっといいもんなんだろうな。でも、自信ないんだよ。俺なんか、家庭を持てるなんて到底思えない。それに……幸せが何かもわかんねえ」
 中津は、ふと、笑った。なんだよ、そんな女っぽい顔すんなよ。
「あんたは御堂とお似合いだよ」
「やめろ! き、キモい!」
「冗談だよ。あの子、野江聡子、あんたに惚れてるよ」
「頼ってるだけだ、一時的なもんだよ、よくあることだ」
「そう、お似合いだと思うけどね、似たもの同士でさ」
 何がお似合いだ。何が似たもの同士だ。それより、中津がいなくなるのか……また悩みごとが増えたなあ。
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