7つの短編集

望月ナナコ

文字の大きさ
上 下
2 / 7

【ぬいぐるみ】うさちゃん

しおりを挟む
「ねぇ、このぬいぐるみはどうする?」

「ん?・・あ、それはダメ!大切なものなの!」

「でももうボロボロだよ?」

箪笥の上に飾ってあったのは小さい頃に泣いて我儘を言って買ってもらったうさぎのぬいぐるみだ。私はうさちゃんと呼びながらいつも大切に抱えていた。

ぬいぐるみには魂が宿るって聞いた事がある。小さい頃お母さんとの買い物の帰りに公園のブランコが目に入り、遊びたくて夢中で横断歩道を飛び出した。横から来たのは大型のトラック。今でも覚えている。お母さんの叫び声と共にゆっくりとトラックがこちらに近づいて来る光景を。まだ小さすぎて死に対する恐怖とかは全然無かったけど、身体が動かずこのまま近づいて来るトラックは避けられない、どうしようと思った。

そして、まさにぶつかる瞬間。持っていたうさちゃんから白いオーラが現れ、包み込むような感覚があり私を守ってくれた。私はトラックとぶつかったのに奇跡的に足を擦りむいただけで済み、うさちゃんは耳が千切れてボロボロになってしまった。小さいながらに私のせいでうさちゃんが怪我をしたと責任を感じわんわん泣いたのを覚えている。その後お母さんにうさちゃんを縫って直してもらい、泥だらけになっていたのを綺麗に洗ってもらっていた。小学校に入るまではいつもうさちゃんを抱き締めて過ごしていた。

あれからもずっと、うさちゃんは私の部屋大事に飾ってある。

「・・・ボロボロだけど、とても大切なぬいぐるみなんだ。」

今日はもうすぐ生まれてくる赤ちゃんの為、旦那と部屋の片付けをしていた。

うさちゃん、あの時命を助けてくれてありがとう。あれから時が経ち、私、もうすぐお母さんになるんだよ。

生まれてくるのは女の子の予定だ。

生まれたらうさちゃんと一緒に娘と遊ぶのが今の私の夢だよ。うさちゃん、どうかこれからも私のそばにいて、そしてどうか娘の事も見守ってくださいね。



しおりを挟む

処理中です...