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一話
しおりを挟む「セラ、貴様との婚約は破棄させてもらう!」
私の婚約者である伯爵令息、ヴィル・レイフォードは貴族が大勢集まるパーティー会場でそう宣言した。
ヴィルの隣には頬を赤く染めた女が腕に抱きついている。
私は決してヴィルのことが好きだったわけじゃない。
親も親戚もいない私は伯爵令息のメイドとして働いていた。ずっとその生活を続けると思っていたけど、14歳の時に婚約者になってくれと言われた。
好きじゃなかったけど、将来を安定させるために婚約を受け入れた。
「婚約破棄ですか……ヴィル様から婚約を申し込んでおいてそれはあんまりではないですか?
それに、何故この場で?」
仮に婚約破棄をするにしても何故このパーティー会場で言う必要があるのか。
こんなのはただの笑いものじゃない。
「確かに俺から婚約を申し込んだが、あれは気の迷いだ。
そもそも親もいない平民ごときが伯爵家の長男であるこの俺と結婚できると思っていたのか?」
嘲笑うような言い方で言ってくる。
それを聞いて周りの貴族もケラケラと笑い始めた。
普通は貴族が平民と結婚するなんてそうそうあるものじゃない。伯爵令息ともなればほぼ間違いなく同じ貴族と結婚するはずだ。そもそも平民である私がヴィルと結婚できると思っていた方が間違いなんだ。
私がもし伯爵令嬢でこんな理不尽な婚約破棄をされたなら周りの貴族が味方をしてくれていたかもしれないが、私は平民だ。この会場に私の味方は一人としていない。
「俺は伯爵令嬢であるリリアナ・フォールドと婚約する。
平民のお前なんかとは比べ物にならないほど美人だろう? 家もない家族もいない金もない。ないない尽くしのお前とは大違いだ」
「ヴィルに美人だなんて言ってもらえて嬉しいわ」
「くっ……」
誰も好き好んでそんな環境に生まれてきたわけじゃない。
私だって、家族がいて、ある程度のお金があって、帰る場所があるような人生を送りたかった。
何もかもを持っている環境で生まれた奴に何で一から頑張ってきた私が貶されないといけないの?
「生まれた環境が違うだけでそんなに偉いんですか?」
「当然だ。
平民で生まれた人間など生まれた時から負け犬だ。平民の中でも家族も金もない奴など生きる価値すらないがな。
きっとお前を生んだ母親も貴様のように汚い顔をしていたのだろうなぁ」
最後の一言で周りの貴族が笑い出す。
腹が立った。
見たことも会ったこともないけど、無性に腹がたった。
「私のお母さんを馬鹿にーー」
「おい、貴様。平民は生まれながらにして負け犬? 家族や金を持ってない人間は生きる価値がない? 随分と我が娘を貶してくれているじゃないか。えぇ? 何とかいってみろ」
私の声を遮るようにして陛下の低い声がヴィルの背後から発された。
その声色は隠しきれないほどの怒りを含んでいた。
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