切ないって、どんな?

空々ロク。

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切ないって、どんな?

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「なぁ、千紘。切ないってどんな感情?」
幼馴染の海星に聞かれしばし考える。
悩んだ結果「スマホで調べたら?」という逃げに等しい言葉を返した。
けれど海星は「あ!確かに!」と早速調べ始めた。
「寂しさ、恋しさで胸が締め付けられること、心が苦しいこと、だって」
「言語化するの難しかったから調べてくれて良かった」
「千紘でも難しいって思うことなんてあるんだな。天才秀才優等生なのに」
「それは言い過ぎだけど」
頭が良い方だという自覚はある。
けれどこういうモヤッとした物は苦手だ。
切ない、なんて滅多に思わないから。
「万年1位がよく言うぜ。けどよく分かった」
「そう?それは良かった」
「少なくとも俺とお前には無関係じゃね?」
ニッと笑った海星は僕に抱き着いて眼鏡を奪った。
「ちょっと」
「だって俺、眼鏡ない千紘の方が好きなんだもん」
大して度が入っていないそれは少しでも感情を隠す為の物だ。
海星以外の人間に全く興味のない僕はそうやって周りとの関係を遮断してきた。
「それは嬉しいけど」
「だろ?」
そう言って海星はキスをする。躊躇いもなく、唇に。
僕たちの関係は「幼馴染」であるはずなのにまるで恋人のように振る舞う海星。
その気持ちが何処にあるかどれだけ覗いても見えないままだ。
「で、何で急にそんなこと言い出したの?」
「昨日ドラマ見てたら切ないってすげぇ繰り返してたからさ。どんな感情だよって思って」
「ドラマで見てたなら演じてた通りじゃない?」
「んー、何か嘘っぽいっつーか。結局どれがそれか分からなかったんだよな」
不服そうに言ってから海星は笑った。
「でも調べたら分かった。切ないって俺には関係ねぇや。千紘と一緒にいれば切なくねぇし」
「多分好きになり過ぎると少し隣にいないだけで切なくなるだろうけどね」
「じゃあそうなったら一緒に暮らそうぜ」
楽観的な海星に軽く溜息をついた。
「僕たちまだ中学生だけど」
「いいじゃん。もうすぐ高校生だし。いつか絶対千紘と同居するって決めた!」
僕の気持ちも考えず海星は話を進めていく。
けれど小さい頃からそういう所に惹かれていたのだ。
内気な僕と違っていつでも前へ進んでいくのがカッコ良くて。
「分かった。その時は付き合うよ」
「やった!よろしくなっ!」
バシバシと僕の背中を叩き、海星は豪快に笑った。
──昔からその笑顔に勝てないのだ、絶対。
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