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Lucky×2.
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「沙奈、ストップストップ!何そのイケメン!」
「え?トリさんのこと?」
「トリさんって言うの?分かんないけど今新着動画に上がってた人」
「これね。トリさんって今すごく人気の配信者だよ。でも苺って3次元に興味ないんでしょ?」
「興味なかった……けど!たった今から興味持った」
親友の紗奈が持つスマホ画面に映った彼に──苺はたった1秒で恋に落ちてしまった。
深夜0時を過ぎても紗奈と苺はダラダラとお菓子を食べつつ動画を見ていた。
今日は紗奈が苺の部屋に泊まりに来ている。
毎月恒例のそのイベントは「パーッと遊ぶ日」と決まっていて、現実でどんなに悩んでいてもそんなことは忘れて騒ぐと互いに決めていた。
高校の時に出会った2人はすぐに意気投合し、親友になった。
いつも一緒にいるのが当たり前で、付き合っているのではないかと学校で噂になったぐらいだ。
20歳を超えても当然付き合いは続いていて、こうして今日もパジャマパーティを開催していた。
紗奈はショートヘアにキリッとした瞳の持ち主で身長も高いため、女の子にモテることが多かった。
運動神経も良く高校にいた頃は密かにファンクラブが出来ていたぐらいだ。
バスケ部で活躍をした紗奈はその後スポーツジムに勤め、未だにトレーニングを欠かさない。会社のバスケ部に所属し、何度も日本代表に選出されている。
無駄のないスラッとした体型は高校の頃からずっと変わらない。
対する苺は大きな瞳にピンクブラウンの髪をツインテールに結んでいて、可愛い印象を持たれることが多い。
高校時代から運動神経が全く良くなかった苺だが、その代わりに勉強は誰よりも得意で常に学年の首位に立っていた。
卒業後は大学を経て研究員になった。
毎日研究室で化学物質の研究をしているのだが、見た目に合わなくて面白いと周りに評されていた。
ふわふわと可愛らしい見た目で真剣に研究する姿は研究室でもよく話題にされる。
多大な成績を修めることが多く、よく尊敬される立場にあるのだが、苺本人は全く気にしていなかった。
それよりも苺はとにかく2次元が好きで、暇さえあればずっとアニメを見ている。
「推しは画面越しだからこそ輝く」という持論を持っている彼女は推しと付き合いたいと思ったことはなく、ひたすら貢ぐことに幸せを感じていた。
今は乙女ゲームのツバサというキャラに夢中で、ツバサのグッズ購入は勿論、惜しみなくゲームへ課金していた。
紗奈はいつもそんな苺に呆れつつも馬鹿にすることはなく、むしろ応援してくれていた。
「苺らしくていいよ」と笑ってくれる紗奈が好きだった。
紗奈は紗奈でサッカー選手に夢中なのだから、人のことは言えないのかもしれない。
ただ、苺と比べればライトなファンだ。
基本はテレビ越しに試合を応援して、たまに現地へ赴く程度だった。
その分紗奈は色んなことに興味を持っていた。
サッカーだけでなくあらゆるスポーツ観戦を好むし、人並みにアニメを見たり動画配信を見たりと視野は広い。
現に今、紗奈は動画配信サイトを開き「今日はどれを見ようかな」と考えている時に苺が騒ぎ出したのだ。
アニメにしか興味がない苺が配信者という3次元の人間に興味を持つのは珍しい──というか紗奈が知っている限り初めてだった。
「で、トリさんってどんな人なの?」
改めてミニテーブルを挟んで向き合う2人。
テーブルの上にはジュースとお菓子が沢山置かれていて見るからにパーティ感が満載だった。
紗奈はスナック菓子を食べながら言った。
「何回か見たことあるけど簡単に言えば超緩い配信する人かな。日常であったこととか喋ってるだけ」
「へぇ。そんな何もしない配信者もいるんだ」
「いるいる。今は多様だもん。苺、全く見たことないの?」
「ないよ。だってツバサに夢中だったし。今からトリさんの動画見てもいい?」
「そう言うと思ってタブレットに開いておいたよ。今ちょうど生配信中みたい」
紗奈はテーブルにタブレットを置き、苺にも見えるように動画を開いた。
「え、ありがとう!紗奈、超分かってる!」
チョコ菓子を一度に3個頬張った後、苺は乗り出し気味に動画を見つめた。
画面にはトリが映っていて、近況報告をしている。
トリは鋭い瞳に眼鏡を掛け、整った外見をしている。
3次元より2次元の住人に見える所も苺の好みにピッタリだったのかもしれない。
「……ねぇ、物凄くカッコイイんだけど。トークも面白いし普通にハマりそう」
「まぁ確かにカッコイイよね。ダラダラトークでこれだけ人集められるんだから配信者としての腕もあるし。ファンもすごく多いみたい」
紗奈はジュースを飲んだ後に続けた。
「でも苺はファンが多ければ多いほど燃えるタイプでしょ?」
「2次元キャラにはそうだったけど……3次元の人好きになるのが初めてだから結構不安」
「そう言いながら1週間後にはトリさんのグッズとか知識とかすごいんだろうな」
「そんなことないって!……多分」
パクッと遠慮がちにチョコレートを食べる苺。
苺以上に苺に詳しい紗奈の言葉は当然当たったのだった。
1週間後、紗奈が苺の家に遊びに行くと部屋がガラッと変わっていた。
1週間前まではツバサのグッズで埋まっていたが、今はトリのグッズが数点飾ってあるだけだった。
「随分思い切ったことするね。苺のその極端な性格、私は好きだよ」
「ありがとう。昔からそうなんだけど1個にしか集中したくないんだよね。だから今回もそうしちゃった。ツバサと比べたらトリさんのグッズ全然少ないし、部屋がスカスカになっちゃったけどね」
苦笑しつつ苺は紗奈の前に飲み物を置いた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。それで?ヤバいことって何?」
今日紗奈が苺の家に来たのは昨夜「ヤバいことがあったから家に来て!」というメッセージを受け取ったからだ。
ちょうど休みだったこともあり、紗奈は泊まりの準備をして駆け付けた。
2週連続で泊まることなど珍しく、お互いに少し浮き足立っていた。
「それがね……トリさんに会ったの」
「夢の話?」
「違う違う!現実なの!昨夜仕事帰りに偶然会ったんだって!」
机を叩いて乗り出す苺を見てやっと紗奈は真剣に捉えた。
「見間違えじゃなく?本気で?」
「うん。だって声掛けたもん」
「……苺らしくて言葉がないわ」
好きになったら一直線な苺だ。即座に声を掛けたというのも頷ける。
「トリさんですか?って聞いたらはいって言われたし何なら私のこと知ってたんだけど」
「え!?何で?」
「学会の発表で見たって。化学物質に興味があって私のことも知っててくれたみたい」
「そうだった……苺はこう見えて有名人なんだった」
「それは紗奈もでしょ」
苺も紗奈も「その界隈」ではかなり有名だった。
何度も女子バスケ日本代表に選出されている紗奈と、新たな化学物質を次々と発見し、生み出している苺。
有名にならないわけがない。
「まぁね。それならそろそろカケルさんに覚えて貰えてもいいと思うんだけど」
カケルは紗奈の好きなサッカー選手の名前だ。
苺は意味ありげにニイッと笑う。
「案外カケルさんも知ってたりして」
「そんなわけないよ。てか私の話はいいから。それでどうしたの?」
「連絡先交換して貰ったよ」
「本当、苺って見た目ほわほわなのに行動力ありすぎ」
配信者を好きになってたった1週間で連絡先交換まで行けるなど苺ぐらいしかいないだろう。
とにかく苺は運がいいのだ。
本人もそれは自覚しているらしく「だから新しい物質とか見つけられるんだろうね」とのほほんと言っている。
今回の件も奇跡的に遭遇し、奇跡的に相手が知っていたからこそ成り立った奇跡だ。
「駄目元で聞いたんだけど、トリさんはトリさんで私の研究が気になってたみたい。勿論今やってる研究内容は話せないけど、過去の研究ならもう論文出てるしそれで良ければって話したらとても喜んでくれたから」
「成程。それも苺の才能であり努力の賜物ってわけだね」
例えば苺が優秀な研究者でなければ、新しい物質を発見出来ていなければ──確実に埋もれていただろう。
けれど苺は多大な努力と少しの運で上がっていったのだ。
好きになったら一直線な苺に研究者はピッタリだったのかもしれない。
「これからどうするの?」
「明日会うの。紗奈が帰った後に」
「マジで急展開なんだけど。苺のことだからこの1週間でトリさんの動画のアーカイブ、全部見たんでしょ?」
「勿論。だから知識は豊富だよ。トリさんにどの配信の話されても分かる」
ニコニコと笑う苺だが、ただでさえ研究室にこもりきりでなかなか時間が取れないというのに動画を全て見切ったというのだ。
好きな人に対しての努力は生半可なものではない。
「はぁ……なんかもう凄すぎて苺に尊敬の念しかないわ」
「それは私だって同じだよ。昔も今も私が尊敬してるのは紗奈だけだもん」
苺にとって紗奈は眩しかった。見た目も中身もカッコ良く、颯爽と全てをこなす姿に惚れたのが最初だった。
けれど紗奈はとにかく人気があった。近付くのも難しく、当時まだシャイだった苺には声を掛けるなど不可能だった。
先に声を掛けて来たのは紗奈の方。
苺が高校に入って初めてのテストで学年1位を取った時だ。貼り出されたランキングを見ているとポンと肩を叩かれた。
「1位の子でしょ?苺ちゃん、だっけ?」
「え……あ、うん。知ってて貰えて嬉しいな。ありがとう」
「知ってるよ。可愛い顔してえぐい程頭がいいって噂聞いたから」
「そんな噂があるの?恥ずかしい……」
困ったように笑う苺に紗奈は大きな笑顔を見せた。
「それだけすごいってことだよ。堂々としてればいいと思うな。少なくとも私はこの結果見て苺ちゃんのことすごいと思ったし。だって全教科満点なんて有り得ないよ」
「ありがとう。勉強は大好きなんだ。紗奈ちゃんに憧れてたからこうやって声掛けて貰えて嬉しい」
「私に?何それ。すごく嬉しいんだけど。じゃあさ、これから沢山話そうよ。苺ちゃんと仲良くなりたい」
2人が出会った切っ掛けはそんな些細なことだった。
その後2人は今に至るまでずっと仲が良い。
たまにすれ違う時があっても翌日には謝罪するし、暇さえあればスマホで連絡を取っている。
互いにいなくてはならない存在になっていて、関係性に名前を付けるなら「親友以上」といったところだ。
例えるなら恋人や家族に近いような。
「紗奈のこと、大好きなの。何度恋に落ちてもやっぱり紗奈が1番好きって思うんだよね」
照れたように言う苺に紗奈は微笑み返す。
「そんなの私だってそうだよ。苺のおかげで今の私がいるんだから。毎日のように苺に出会えて良かったと思ってる」
「紗奈……ありがとう」
本当にグッズを並べるべきなのはトリじゃなくて紗奈なのかもしれない。
苺は密かにそんな思いを抱いて──バレないように笑った。
翌日、紗奈は夕方まで居続けた。帰り際、苺も一緒に外へ行く。ちょうどトリとの待ち合わせ時間に近かったからだ。
「進展あったら教えてよ。楽しみにしてる」
「あんまり期待しないでね。やっぱり2次元がいいとか言い出しそうだもん、私」
「苺のことだから有り得そう」
話しているうちに駅前に到着し、別れようとした時。
「あの……紗奈さんですよね?」
突然声を掛けられて振り向いた紗奈の目に映ったのは。
「え!?カケルさん?」
「あ、はい。俺のこと知ってくれてるって聞いて……兄に着いてきたんです」
「え?え?」
混乱する紗奈に対し、隣に並ぶ苺はニコニコと笑っている。
「どういうこと?」と紗奈は苺に尋ねた。
「トリさんの弟だったの。カケルさんって。カケルさんも紗奈のこと知ってるってトリさんが言ってたから、それなら連れてきてくれませんか?って言っておいたんだ。ね?案外カケルさんも紗奈のこと知ってたでしょ?」
「……苺、知ってたわけね。どうりで自信満々だと思った」
「たまにはサプライズもいいかなって。だから今日は紗奈も一緒に行こうね」
「やられたって気分」
はあ、と大きな溜息をつく紗奈だったが当然顔は嬉しそうだ。何せいつも応援している人が目の前にいるのだから。
「兄が先にお店に行ってるので行きましょう」
爽やかに笑うカケルに紗奈はコクコク頷いた。
あまりにも突然のことで夢なのかもしれないと思ってしまう。
同時に行動力が高くて運のいい苺といるとこんな非現実のようなことも起きてしまうのだと再確認する。
「苺、ありがとう」
「ううん。2人が兄弟ってこと知ったのもたまたまだったんだけどさ、私たちってやっぱりツイてるよね」
「たち?ツイてるのは苺の方じゃ……」
「あれ?紗奈ってツイてる自覚なかったんだ。私と同じぐらい紗奈もツイてると思うよ。あとで色んなこと思い出してみて」
そう言って苺は紗奈の手を握った。カケルの後を嬉しそうに追っていく。
「でも今は恋に集中してね?折角だから」
「……そうだね」
まさかトリとカケルが兄弟だったなんて、苺がトリに紗奈のことを話してくれていたなんて、カケルも紗奈のことを知っていたなんて──全てが奇跡に思える。
苺がトリと運良く出会ったように、確かに紗奈も運が良いのかもしれない。
(でも私の場合、苺が傍にいてくれるからだと思うけど)
昔よりずっとシャンとした苺を横目で見つめる。
可愛かった親友は今も可愛いけれど、カッコ良くもなった。そんな苺の隣にいられることが紗奈の誇りだ。
負けじと自分もカッコ良くあり続けなければ。
「ありがとう、苺」
もう一度小声で礼を言う。
ちょうど店に入った苺には届かないだろうと思ったのだが。
「こちらこそ。いつもありがとう、紗奈」
店内の喧騒も雑音も苺の耳には入らず、紗奈の声だけを拾うのは集中力が高い苺らしい。
「本当、苺って凄いわ」
「紗奈もね」
惚気のように言い合って席につく。
きっと今日の会合も上手くいくのだろう。
だって2人はこんなにも──ツイているから。
「え?トリさんのこと?」
「トリさんって言うの?分かんないけど今新着動画に上がってた人」
「これね。トリさんって今すごく人気の配信者だよ。でも苺って3次元に興味ないんでしょ?」
「興味なかった……けど!たった今から興味持った」
親友の紗奈が持つスマホ画面に映った彼に──苺はたった1秒で恋に落ちてしまった。
深夜0時を過ぎても紗奈と苺はダラダラとお菓子を食べつつ動画を見ていた。
今日は紗奈が苺の部屋に泊まりに来ている。
毎月恒例のそのイベントは「パーッと遊ぶ日」と決まっていて、現実でどんなに悩んでいてもそんなことは忘れて騒ぐと互いに決めていた。
高校の時に出会った2人はすぐに意気投合し、親友になった。
いつも一緒にいるのが当たり前で、付き合っているのではないかと学校で噂になったぐらいだ。
20歳を超えても当然付き合いは続いていて、こうして今日もパジャマパーティを開催していた。
紗奈はショートヘアにキリッとした瞳の持ち主で身長も高いため、女の子にモテることが多かった。
運動神経も良く高校にいた頃は密かにファンクラブが出来ていたぐらいだ。
バスケ部で活躍をした紗奈はその後スポーツジムに勤め、未だにトレーニングを欠かさない。会社のバスケ部に所属し、何度も日本代表に選出されている。
無駄のないスラッとした体型は高校の頃からずっと変わらない。
対する苺は大きな瞳にピンクブラウンの髪をツインテールに結んでいて、可愛い印象を持たれることが多い。
高校時代から運動神経が全く良くなかった苺だが、その代わりに勉強は誰よりも得意で常に学年の首位に立っていた。
卒業後は大学を経て研究員になった。
毎日研究室で化学物質の研究をしているのだが、見た目に合わなくて面白いと周りに評されていた。
ふわふわと可愛らしい見た目で真剣に研究する姿は研究室でもよく話題にされる。
多大な成績を修めることが多く、よく尊敬される立場にあるのだが、苺本人は全く気にしていなかった。
それよりも苺はとにかく2次元が好きで、暇さえあればずっとアニメを見ている。
「推しは画面越しだからこそ輝く」という持論を持っている彼女は推しと付き合いたいと思ったことはなく、ひたすら貢ぐことに幸せを感じていた。
今は乙女ゲームのツバサというキャラに夢中で、ツバサのグッズ購入は勿論、惜しみなくゲームへ課金していた。
紗奈はいつもそんな苺に呆れつつも馬鹿にすることはなく、むしろ応援してくれていた。
「苺らしくていいよ」と笑ってくれる紗奈が好きだった。
紗奈は紗奈でサッカー選手に夢中なのだから、人のことは言えないのかもしれない。
ただ、苺と比べればライトなファンだ。
基本はテレビ越しに試合を応援して、たまに現地へ赴く程度だった。
その分紗奈は色んなことに興味を持っていた。
サッカーだけでなくあらゆるスポーツ観戦を好むし、人並みにアニメを見たり動画配信を見たりと視野は広い。
現に今、紗奈は動画配信サイトを開き「今日はどれを見ようかな」と考えている時に苺が騒ぎ出したのだ。
アニメにしか興味がない苺が配信者という3次元の人間に興味を持つのは珍しい──というか紗奈が知っている限り初めてだった。
「で、トリさんってどんな人なの?」
改めてミニテーブルを挟んで向き合う2人。
テーブルの上にはジュースとお菓子が沢山置かれていて見るからにパーティ感が満載だった。
紗奈はスナック菓子を食べながら言った。
「何回か見たことあるけど簡単に言えば超緩い配信する人かな。日常であったこととか喋ってるだけ」
「へぇ。そんな何もしない配信者もいるんだ」
「いるいる。今は多様だもん。苺、全く見たことないの?」
「ないよ。だってツバサに夢中だったし。今からトリさんの動画見てもいい?」
「そう言うと思ってタブレットに開いておいたよ。今ちょうど生配信中みたい」
紗奈はテーブルにタブレットを置き、苺にも見えるように動画を開いた。
「え、ありがとう!紗奈、超分かってる!」
チョコ菓子を一度に3個頬張った後、苺は乗り出し気味に動画を見つめた。
画面にはトリが映っていて、近況報告をしている。
トリは鋭い瞳に眼鏡を掛け、整った外見をしている。
3次元より2次元の住人に見える所も苺の好みにピッタリだったのかもしれない。
「……ねぇ、物凄くカッコイイんだけど。トークも面白いし普通にハマりそう」
「まぁ確かにカッコイイよね。ダラダラトークでこれだけ人集められるんだから配信者としての腕もあるし。ファンもすごく多いみたい」
紗奈はジュースを飲んだ後に続けた。
「でも苺はファンが多ければ多いほど燃えるタイプでしょ?」
「2次元キャラにはそうだったけど……3次元の人好きになるのが初めてだから結構不安」
「そう言いながら1週間後にはトリさんのグッズとか知識とかすごいんだろうな」
「そんなことないって!……多分」
パクッと遠慮がちにチョコレートを食べる苺。
苺以上に苺に詳しい紗奈の言葉は当然当たったのだった。
1週間後、紗奈が苺の家に遊びに行くと部屋がガラッと変わっていた。
1週間前まではツバサのグッズで埋まっていたが、今はトリのグッズが数点飾ってあるだけだった。
「随分思い切ったことするね。苺のその極端な性格、私は好きだよ」
「ありがとう。昔からそうなんだけど1個にしか集中したくないんだよね。だから今回もそうしちゃった。ツバサと比べたらトリさんのグッズ全然少ないし、部屋がスカスカになっちゃったけどね」
苦笑しつつ苺は紗奈の前に飲み物を置いた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。それで?ヤバいことって何?」
今日紗奈が苺の家に来たのは昨夜「ヤバいことがあったから家に来て!」というメッセージを受け取ったからだ。
ちょうど休みだったこともあり、紗奈は泊まりの準備をして駆け付けた。
2週連続で泊まることなど珍しく、お互いに少し浮き足立っていた。
「それがね……トリさんに会ったの」
「夢の話?」
「違う違う!現実なの!昨夜仕事帰りに偶然会ったんだって!」
机を叩いて乗り出す苺を見てやっと紗奈は真剣に捉えた。
「見間違えじゃなく?本気で?」
「うん。だって声掛けたもん」
「……苺らしくて言葉がないわ」
好きになったら一直線な苺だ。即座に声を掛けたというのも頷ける。
「トリさんですか?って聞いたらはいって言われたし何なら私のこと知ってたんだけど」
「え!?何で?」
「学会の発表で見たって。化学物質に興味があって私のことも知っててくれたみたい」
「そうだった……苺はこう見えて有名人なんだった」
「それは紗奈もでしょ」
苺も紗奈も「その界隈」ではかなり有名だった。
何度も女子バスケ日本代表に選出されている紗奈と、新たな化学物質を次々と発見し、生み出している苺。
有名にならないわけがない。
「まぁね。それならそろそろカケルさんに覚えて貰えてもいいと思うんだけど」
カケルは紗奈の好きなサッカー選手の名前だ。
苺は意味ありげにニイッと笑う。
「案外カケルさんも知ってたりして」
「そんなわけないよ。てか私の話はいいから。それでどうしたの?」
「連絡先交換して貰ったよ」
「本当、苺って見た目ほわほわなのに行動力ありすぎ」
配信者を好きになってたった1週間で連絡先交換まで行けるなど苺ぐらいしかいないだろう。
とにかく苺は運がいいのだ。
本人もそれは自覚しているらしく「だから新しい物質とか見つけられるんだろうね」とのほほんと言っている。
今回の件も奇跡的に遭遇し、奇跡的に相手が知っていたからこそ成り立った奇跡だ。
「駄目元で聞いたんだけど、トリさんはトリさんで私の研究が気になってたみたい。勿論今やってる研究内容は話せないけど、過去の研究ならもう論文出てるしそれで良ければって話したらとても喜んでくれたから」
「成程。それも苺の才能であり努力の賜物ってわけだね」
例えば苺が優秀な研究者でなければ、新しい物質を発見出来ていなければ──確実に埋もれていただろう。
けれど苺は多大な努力と少しの運で上がっていったのだ。
好きになったら一直線な苺に研究者はピッタリだったのかもしれない。
「これからどうするの?」
「明日会うの。紗奈が帰った後に」
「マジで急展開なんだけど。苺のことだからこの1週間でトリさんの動画のアーカイブ、全部見たんでしょ?」
「勿論。だから知識は豊富だよ。トリさんにどの配信の話されても分かる」
ニコニコと笑う苺だが、ただでさえ研究室にこもりきりでなかなか時間が取れないというのに動画を全て見切ったというのだ。
好きな人に対しての努力は生半可なものではない。
「はぁ……なんかもう凄すぎて苺に尊敬の念しかないわ」
「それは私だって同じだよ。昔も今も私が尊敬してるのは紗奈だけだもん」
苺にとって紗奈は眩しかった。見た目も中身もカッコ良く、颯爽と全てをこなす姿に惚れたのが最初だった。
けれど紗奈はとにかく人気があった。近付くのも難しく、当時まだシャイだった苺には声を掛けるなど不可能だった。
先に声を掛けて来たのは紗奈の方。
苺が高校に入って初めてのテストで学年1位を取った時だ。貼り出されたランキングを見ているとポンと肩を叩かれた。
「1位の子でしょ?苺ちゃん、だっけ?」
「え……あ、うん。知ってて貰えて嬉しいな。ありがとう」
「知ってるよ。可愛い顔してえぐい程頭がいいって噂聞いたから」
「そんな噂があるの?恥ずかしい……」
困ったように笑う苺に紗奈は大きな笑顔を見せた。
「それだけすごいってことだよ。堂々としてればいいと思うな。少なくとも私はこの結果見て苺ちゃんのことすごいと思ったし。だって全教科満点なんて有り得ないよ」
「ありがとう。勉強は大好きなんだ。紗奈ちゃんに憧れてたからこうやって声掛けて貰えて嬉しい」
「私に?何それ。すごく嬉しいんだけど。じゃあさ、これから沢山話そうよ。苺ちゃんと仲良くなりたい」
2人が出会った切っ掛けはそんな些細なことだった。
その後2人は今に至るまでずっと仲が良い。
たまにすれ違う時があっても翌日には謝罪するし、暇さえあればスマホで連絡を取っている。
互いにいなくてはならない存在になっていて、関係性に名前を付けるなら「親友以上」といったところだ。
例えるなら恋人や家族に近いような。
「紗奈のこと、大好きなの。何度恋に落ちてもやっぱり紗奈が1番好きって思うんだよね」
照れたように言う苺に紗奈は微笑み返す。
「そんなの私だってそうだよ。苺のおかげで今の私がいるんだから。毎日のように苺に出会えて良かったと思ってる」
「紗奈……ありがとう」
本当にグッズを並べるべきなのはトリじゃなくて紗奈なのかもしれない。
苺は密かにそんな思いを抱いて──バレないように笑った。
翌日、紗奈は夕方まで居続けた。帰り際、苺も一緒に外へ行く。ちょうどトリとの待ち合わせ時間に近かったからだ。
「進展あったら教えてよ。楽しみにしてる」
「あんまり期待しないでね。やっぱり2次元がいいとか言い出しそうだもん、私」
「苺のことだから有り得そう」
話しているうちに駅前に到着し、別れようとした時。
「あの……紗奈さんですよね?」
突然声を掛けられて振り向いた紗奈の目に映ったのは。
「え!?カケルさん?」
「あ、はい。俺のこと知ってくれてるって聞いて……兄に着いてきたんです」
「え?え?」
混乱する紗奈に対し、隣に並ぶ苺はニコニコと笑っている。
「どういうこと?」と紗奈は苺に尋ねた。
「トリさんの弟だったの。カケルさんって。カケルさんも紗奈のこと知ってるってトリさんが言ってたから、それなら連れてきてくれませんか?って言っておいたんだ。ね?案外カケルさんも紗奈のこと知ってたでしょ?」
「……苺、知ってたわけね。どうりで自信満々だと思った」
「たまにはサプライズもいいかなって。だから今日は紗奈も一緒に行こうね」
「やられたって気分」
はあ、と大きな溜息をつく紗奈だったが当然顔は嬉しそうだ。何せいつも応援している人が目の前にいるのだから。
「兄が先にお店に行ってるので行きましょう」
爽やかに笑うカケルに紗奈はコクコク頷いた。
あまりにも突然のことで夢なのかもしれないと思ってしまう。
同時に行動力が高くて運のいい苺といるとこんな非現実のようなことも起きてしまうのだと再確認する。
「苺、ありがとう」
「ううん。2人が兄弟ってこと知ったのもたまたまだったんだけどさ、私たちってやっぱりツイてるよね」
「たち?ツイてるのは苺の方じゃ……」
「あれ?紗奈ってツイてる自覚なかったんだ。私と同じぐらい紗奈もツイてると思うよ。あとで色んなこと思い出してみて」
そう言って苺は紗奈の手を握った。カケルの後を嬉しそうに追っていく。
「でも今は恋に集中してね?折角だから」
「……そうだね」
まさかトリとカケルが兄弟だったなんて、苺がトリに紗奈のことを話してくれていたなんて、カケルも紗奈のことを知っていたなんて──全てが奇跡に思える。
苺がトリと運良く出会ったように、確かに紗奈も運が良いのかもしれない。
(でも私の場合、苺が傍にいてくれるからだと思うけど)
昔よりずっとシャンとした苺を横目で見つめる。
可愛かった親友は今も可愛いけれど、カッコ良くもなった。そんな苺の隣にいられることが紗奈の誇りだ。
負けじと自分もカッコ良くあり続けなければ。
「ありがとう、苺」
もう一度小声で礼を言う。
ちょうど店に入った苺には届かないだろうと思ったのだが。
「こちらこそ。いつもありがとう、紗奈」
店内の喧騒も雑音も苺の耳には入らず、紗奈の声だけを拾うのは集中力が高い苺らしい。
「本当、苺って凄いわ」
「紗奈もね」
惚気のように言い合って席につく。
きっと今日の会合も上手くいくのだろう。
だって2人はこんなにも──ツイているから。
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