ナチス最終兵器 サメ人間

名無しの東北県人

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第一章

◆チャプター6

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 一九四六年八月十三日。
「ハローワールド! お待ちしておりましたん!」
 地下に降りたエレベーターから出るなり、黒い武装親衛隊の軍服に身を包んだイルザ・ヴァレンシュタインがソフィアを出迎えた。
「どぞどぞ、こちらへどーぞ!」
 ナチスドイツの先端技術研究部隊を率いる身でありながら、さも当然のようにアイアンランドにも協力するマッドサイエンティストは、資金を提供してくれるクライアントを地下施設の奥へ案内した。
「幼少期の過酷な経験は素晴らしいクリエーターを生み出します」
 茶色の長髪をポニーテールで纏めているイルザは一方的な自分語りを始める。
「私は祖母が大好きでした。何でも知っていて、優しくて……」
 これ、何回目よ……と辟易しつつも、ドイツ国内某所の地中に作られた通路を進むソフィアは黙って耳を傾けた。
「でも祖母はアルツハイマーを患いました。私は、私のことがわからなくなった祖母に罵声を浴びせられる度、自分の心が死んでいくのを感じました」
 二人が進む薄暗い通路の左右には、大きな試験管の中にホルマリン漬けされた試行錯誤が柱のように並んでいる。それは悪夢の光景だった。
「祖母が亡くなった時、私は強く感じました。もう誰にも、こんな悲しい思いをさせてはならないと」
 人魚のように下半身がサメになっている、両手がヒレの赤ん坊。
 頭がなく、首の途中に二本、右肘にサメの頭がそれぞれ付いている成人男性。
 どういう訳か、上半身がウバザメの頭部に変わっている老婆。
「元々、私は総統のために働く気はありませんでしたん。私の目的はアオザメの脳細胞を利用して、アルツハイマーの特効薬を作り出すことだけなのですから」
 最後に「祖母なんて最初からいないんですけどね」と要点を纏めたイルザは、最深部にある巨大水槽の前で立ち止まると部屋の照明を点ける。
「自分でも試しましたが、セックスの相手としても最高ですん」
 ソフィアは「素晴らしいわ」と満面の笑みを褐色肌の女性将校に送る。
 ガラスの向こう側で泳ぐ異形は、彼女が要求した通りの怪物だった。
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