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第三章(過去編)
◆チャプター26
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豪邸の外では凄惨なる暴力の応酬が続いている。
「構わんから俺達ごと殺れ!」
「了解。ベア2‐6、攻撃する」
無線による短いやり取りの後、上空に到着したアイアンランド側の攻撃ヘリはありったけの機関砲弾とロケット弾を乱戦模様の屋上に叩き込む。
「キーリス!」
中庭で戦っていたミュータントのコハルは屋上で長舌を振り回していた仲間が、多数の傭兵諸共爆炎に包まれる光景を見て悲痛な声を上げた。
「鉄の鳥を!」
「わかった!」
全身から伸ばした鋭い棘で敵兵を串刺し刑に処したコハルからヘリを任された別の同種――クロミは唸り上げて長鞭となっている左腕を振るい、それをヘリの胴体部に絡ませるや否や渾身の力を込めて豪邸に叩き付ける。
眩い閃光が二大勢力の視界を一瞬だけ奪った刹那、深夜でもハッキリとわかるキノコ雲が激突点から立ち昇った。
「ここは私が。貴方は中へ!」
コハルから新たな指示を受けて頷いたクロミは飛び交う七・九二ミリ弾の中を全力疾走、突入ポイントとしてJDから事前に教えられていたハッチに取り付く。
「ここさえ開けば……ッ!」
だが積もりに積もった憎悪をエネルギーとして重い金属扉をこじ開けた彼は、ふと前を見た瞬間に徹甲弾で上半身を吹き飛ばされた。
ハッチの奥には、白い冬季迷彩を施された鉄の猛獣達がいたのだ。
「至誠、天に通ず」
その上面に立つソフィアが長砲身の先端から立ち昇る煙を見つめながら静かに告げると、T‐34/85中戦車二台を引き連れた四号駆逐戦車が、排気ガスを噴き上げながらの前進を開始する。
前者はソ連軍が遺棄したもの同士を共食いさせて修復したロジーナ。
ラングこと後者は、アイアンランドに鹵獲されたドイツ軍の対戦車車両だった。
「あぁ……」
キャタピラに巻き込まれたクロミの下半身から立ち昇る悪臭で鼻腔を突かれたソフィアは、まるで高級赤ワインの香りを楽しむかの如し穏やかな表情のまま、四号駆逐戦車の上でゆっくりと頭を動かす。
「やっぱりドブネズミの臭いだわ」
中庭で戦っていた全ミュータントが目標の登場を確認した一方、表情と声色を侮蔑に満ちたものへと変えたソフィアは羽織っていた将校用コートを投げ捨て、赤白の競泳水着・ニーソックス・黒いハイヒールという出で立ちを露にする。
これが彼女の戦装束だった。
「東側――二階の窓にスナイパー」
今はアノニマとお揃いの眼鏡を掛けているソフィアが前方を向いたまま目標を指定するなり、中庭に潜んでいたSU‐76自走砲が仰角付けての射撃を行う。
すぐに爆発跡から身を乗り出して彼女を狙い撃たんとしていたミュータントのレスカがフロアごと木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「西側――木の横にオーフェンローア」
次に四号駆逐戦車の右後方に控えていたソ連製中戦車が砲塔を旋回させて射撃、またもソフィアが口にした通りの場所で重いパンツァーシュレック(対戦車ロケット擲弾発射機)を構えていたミュータントを肉片一つ残さず四散させる。
「イルザ……?」
接近する爆音に気付いてソフィアが空を見上げたのは、ちょうどその時である。
「構わんから俺達ごと殺れ!」
「了解。ベア2‐6、攻撃する」
無線による短いやり取りの後、上空に到着したアイアンランド側の攻撃ヘリはありったけの機関砲弾とロケット弾を乱戦模様の屋上に叩き込む。
「キーリス!」
中庭で戦っていたミュータントのコハルは屋上で長舌を振り回していた仲間が、多数の傭兵諸共爆炎に包まれる光景を見て悲痛な声を上げた。
「鉄の鳥を!」
「わかった!」
全身から伸ばした鋭い棘で敵兵を串刺し刑に処したコハルからヘリを任された別の同種――クロミは唸り上げて長鞭となっている左腕を振るい、それをヘリの胴体部に絡ませるや否や渾身の力を込めて豪邸に叩き付ける。
眩い閃光が二大勢力の視界を一瞬だけ奪った刹那、深夜でもハッキリとわかるキノコ雲が激突点から立ち昇った。
「ここは私が。貴方は中へ!」
コハルから新たな指示を受けて頷いたクロミは飛び交う七・九二ミリ弾の中を全力疾走、突入ポイントとしてJDから事前に教えられていたハッチに取り付く。
「ここさえ開けば……ッ!」
だが積もりに積もった憎悪をエネルギーとして重い金属扉をこじ開けた彼は、ふと前を見た瞬間に徹甲弾で上半身を吹き飛ばされた。
ハッチの奥には、白い冬季迷彩を施された鉄の猛獣達がいたのだ。
「至誠、天に通ず」
その上面に立つソフィアが長砲身の先端から立ち昇る煙を見つめながら静かに告げると、T‐34/85中戦車二台を引き連れた四号駆逐戦車が、排気ガスを噴き上げながらの前進を開始する。
前者はソ連軍が遺棄したもの同士を共食いさせて修復したロジーナ。
ラングこと後者は、アイアンランドに鹵獲されたドイツ軍の対戦車車両だった。
「あぁ……」
キャタピラに巻き込まれたクロミの下半身から立ち昇る悪臭で鼻腔を突かれたソフィアは、まるで高級赤ワインの香りを楽しむかの如し穏やかな表情のまま、四号駆逐戦車の上でゆっくりと頭を動かす。
「やっぱりドブネズミの臭いだわ」
中庭で戦っていた全ミュータントが目標の登場を確認した一方、表情と声色を侮蔑に満ちたものへと変えたソフィアは羽織っていた将校用コートを投げ捨て、赤白の競泳水着・ニーソックス・黒いハイヒールという出で立ちを露にする。
これが彼女の戦装束だった。
「東側――二階の窓にスナイパー」
今はアノニマとお揃いの眼鏡を掛けているソフィアが前方を向いたまま目標を指定するなり、中庭に潜んでいたSU‐76自走砲が仰角付けての射撃を行う。
すぐに爆発跡から身を乗り出して彼女を狙い撃たんとしていたミュータントのレスカがフロアごと木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「西側――木の横にオーフェンローア」
次に四号駆逐戦車の右後方に控えていたソ連製中戦車が砲塔を旋回させて射撃、またもソフィアが口にした通りの場所で重いパンツァーシュレック(対戦車ロケット擲弾発射機)を構えていたミュータントを肉片一つ残さず四散させる。
「イルザ……?」
接近する爆音に気付いてソフィアが空を見上げたのは、ちょうどその時である。
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