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第四章
◆チャプター39
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一九四九年九月六日。
降伏勧告拒絶後に砲声が鳴り響いた時、孤立地帯各地で虱に苦しむエルフ達は長耳種特有の勘で『最終戦』が始まったことを悟った。
徹底的な準備砲撃が終わってキーボルク大隊の戦車隊が一斉に前進し始めると、同組織のIL‐2シュトルモビク攻撃機は編隊を組んでその頭上を通過した。
空飛ぶコンクリート・トーチカ群の目的はただ一つ。ありったけの鉄と炸薬を廃墟に叩き付けるため。
「もう後がないぞ。死力を尽くせ」
市街の南部に陣取ったケーニヒスティーガー〇〇三号車の車長は戦意喪失したエルフ達が武器を捨てて前線から雪崩れ込んでくる醜態と、その後方の炎の中を敵戦車数十台が進んでくる様子を視認してからハッチを閉めた。
「ヤコブとタムラが殺られた!」
「構うな。前進して距離を詰めろ!」
今日までの大激戦でアイアンランド侵攻部隊のケーニヒスティーガー重戦車は残り数台にまで減少していたが、それでも凶悪なる移動砲台として突撃してくるJS‐2重戦車を次々に破壊した。
しかし――如何せんその数が違い過ぎた。
味方十両と敵一両を交換した末に〇〇三号車を含む市街南部のドイツ軍戦車を全て撃破したキーボルク大隊の戦車隊は、パンツァーシュレックや収束手榴弾を捨てて敗走する兵士達を尽く討ち取った。
「殺せ! 殺せ!」
そして酷く泥まみれになったT‐34/85中戦車やJSU‐152自走砲は遂にドイツ軍絶対防衛線内部への侵入を果たす。
「無実なるエルフはいない! 今生きている者にも! 既に死んだ者にも!」
硝煙を目の下に溜めたエルフ達はアノニマの声がスピーカー越しに響き渡る中、重砲の直接照準射撃や鹵獲したパンツァーファウストによる怒涛の如き攻撃で次々に叩き潰された。
「戦え! 総統のために死ね!」
ドイツ軍側の損害は凄まじい勢いで跳ね上がった。だが貧弱な装備しか持たぬ飢えた者達は、それでもなお激しく抵抗する。
今や出血多量で肉の盾にもならぬ歩兵連隊は大海の島のように孤立しながらも航空機の骸から無理矢理引き剥がした二十ミリ機関砲を使って多数の敵を殺害し、掩蔽壕代わりの建物が次々に殲滅される中で空軍の八十八ミリ高射砲は砲手ごとキャタピラで踏み潰されるまでISU‐122自走砲を道連れにし続けた。
「水を……水をください……」
一方、放棄された野戦救護所には瀕死の負傷兵達がそのまま寝かされていた。
「殺してくれ……殺し……」
「大丈夫だ。もうすぐ終わる」
ドイツ人軍医はマリーナというエルフの最期を看取ると、全てを諦めた表情でまだ生きている重傷者達にモルヒネの最終在庫を与えていく。
放置された彼らの運命はキーボルク大隊の慈悲に任されていた。
「戦争を長引かせるのはやめろ!」
時間が経過すると人間ばかりか長耳種にまで顎で使われてきた東方労務者達はとうとう限界に達してエルフから銃をもぎ取り始め、降伏のサインである白布を廃墟のあちこちから垂らし始めた。
この耐え難き地獄から一秒でも早く解放され、今よりは幾分ましな別の地獄に逃れたいがために……。
注1 ドイツ製の対戦車ロケット擲弾発射機。
降伏勧告拒絶後に砲声が鳴り響いた時、孤立地帯各地で虱に苦しむエルフ達は長耳種特有の勘で『最終戦』が始まったことを悟った。
徹底的な準備砲撃が終わってキーボルク大隊の戦車隊が一斉に前進し始めると、同組織のIL‐2シュトルモビク攻撃機は編隊を組んでその頭上を通過した。
空飛ぶコンクリート・トーチカ群の目的はただ一つ。ありったけの鉄と炸薬を廃墟に叩き付けるため。
「もう後がないぞ。死力を尽くせ」
市街の南部に陣取ったケーニヒスティーガー〇〇三号車の車長は戦意喪失したエルフ達が武器を捨てて前線から雪崩れ込んでくる醜態と、その後方の炎の中を敵戦車数十台が進んでくる様子を視認してからハッチを閉めた。
「ヤコブとタムラが殺られた!」
「構うな。前進して距離を詰めろ!」
今日までの大激戦でアイアンランド侵攻部隊のケーニヒスティーガー重戦車は残り数台にまで減少していたが、それでも凶悪なる移動砲台として突撃してくるJS‐2重戦車を次々に破壊した。
しかし――如何せんその数が違い過ぎた。
味方十両と敵一両を交換した末に〇〇三号車を含む市街南部のドイツ軍戦車を全て撃破したキーボルク大隊の戦車隊は、パンツァーシュレックや収束手榴弾を捨てて敗走する兵士達を尽く討ち取った。
「殺せ! 殺せ!」
そして酷く泥まみれになったT‐34/85中戦車やJSU‐152自走砲は遂にドイツ軍絶対防衛線内部への侵入を果たす。
「無実なるエルフはいない! 今生きている者にも! 既に死んだ者にも!」
硝煙を目の下に溜めたエルフ達はアノニマの声がスピーカー越しに響き渡る中、重砲の直接照準射撃や鹵獲したパンツァーファウストによる怒涛の如き攻撃で次々に叩き潰された。
「戦え! 総統のために死ね!」
ドイツ軍側の損害は凄まじい勢いで跳ね上がった。だが貧弱な装備しか持たぬ飢えた者達は、それでもなお激しく抵抗する。
今や出血多量で肉の盾にもならぬ歩兵連隊は大海の島のように孤立しながらも航空機の骸から無理矢理引き剥がした二十ミリ機関砲を使って多数の敵を殺害し、掩蔽壕代わりの建物が次々に殲滅される中で空軍の八十八ミリ高射砲は砲手ごとキャタピラで踏み潰されるまでISU‐122自走砲を道連れにし続けた。
「水を……水をください……」
一方、放棄された野戦救護所には瀕死の負傷兵達がそのまま寝かされていた。
「殺してくれ……殺し……」
「大丈夫だ。もうすぐ終わる」
ドイツ人軍医はマリーナというエルフの最期を看取ると、全てを諦めた表情でまだ生きている重傷者達にモルヒネの最終在庫を与えていく。
放置された彼らの運命はキーボルク大隊の慈悲に任されていた。
「戦争を長引かせるのはやめろ!」
時間が経過すると人間ばかりか長耳種にまで顎で使われてきた東方労務者達はとうとう限界に達してエルフから銃をもぎ取り始め、降伏のサインである白布を廃墟のあちこちから垂らし始めた。
この耐え難き地獄から一秒でも早く解放され、今よりは幾分ましな別の地獄に逃れたいがために……。
注1 ドイツ製の対戦車ロケット擲弾発射機。
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