ナチス最終兵器 サメ人間

名無しの東北県人

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第四章

◆チャプター40

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「暇ですん……」
 アイアンランドに対するキーボルク大隊の総攻撃が開始されたにも関わらず、一応その構成員であるイルザは今も九月一日と同じ前線基地にいた。
「井戸の底でライオンと戦っていなさい」
 ヒトラーからの離反以降も今日のように武装親衛隊の軍服を纏っているため、ドイツ軍上層部から『黒い人』と呼ばれている人物は先日こう命じられていた。
アイアンランド式に訳すと「後方で油を売っていろ」という意味である。
 イルザは確かに天才的な頭脳を持ってはいたが、純粋な地上戦になると出番は何一つなかった。何せ拳銃の撃ち方すら危ういのだ。
「こいつらは俺達を地獄に投げ込みやがったんだ!」
 有刺鉄線で覆われている野ざらしの狭い区画横に差し掛かった時、散歩途中の女性将校は突然非ドイツ語の響きで鼓膜を叩かれた。
「んー……?」
 長いポニーテールを揺らして右を向くと、そこでは監視役としてソフィア側に転向した、やけに顔色のいいエルフが窪み落ちた頬のドイツ人を棍棒で虐待する地獄絵図が展開されていた。
「なるほどん!」
 どうやらここは捕虜を収容する場所らしく、同じ空間にはまるで老人のように痩せ細った骸に群がる鼠達や、寝ている間に右手の指を彼らのせいで全て失った青白い顔の捕虜が座りながら排尿している光景が広がっている。
立ち込める凄まじき糞尿の悪臭源は、片隅にある穴便所からだ。
「イルザ!」
 今度シャークフレンドプロトサメ人間と深夜汗まみれで熱く激しく交わる時は尻叩きを前面に押し出すのも悪くないん……区画内の光景に感銘を受けたイルザが形の良い顎に手を当てた瞬間、彼女は突然自分の名を呼ばれた。
「はいん?」
 再び右方向を見ると、そこには有刺鉄線の棘なき箇所に指を乗せて立っている『人間』のドイツ軍将校の姿があった。
「イルザ、私だ。エルンスト……エルンスト・ガッツォウだ」
「誰ですん……?」
 地獄と地獄を分かつ鉄条網に近付いたイルザは、骨折した左腕を薄汚い包帯で吊っている少佐の全身を目で舐め回す。
「あー!」
 二秒後、イルザは一気に表情を明るくして手を叩いた。
「昔、硫酸を浴びせたパルチザンを一緒にブルドーザーで轢き殺しましたん!」
「良かった……頼む、ここから出してくれないか?」
 数年前の蛮行を大声で叫ばれたガッツォウは一瞬だけ表情を引き攣らせたが、すぐに何週間も洗っていない顔に作り笑いを浮かべる。
「モチのロンですん!」
 それに対し、イルザは心底嬉しそうに親指を立て返す。
 彼女の『最新作』の『素材』はこうして確保された。
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