45 / 52
第二章
プロポーズと不吉な予感
しおりを挟む「……随分、ひどい事を仰るんですね、殿下」
だって、そうではないか。
確かに、求婚は先延ばしにしてきた。
さっきだって、クロードの口づけが怖く感じて抵抗したし、涙だって流したけれど。
(だからって、婚約解消?)
エルシアはクロードを睨みつける。
自分の思い通りにいかなければ、エルシアの気持ちさえも疑い、切り捨てるなんてあんまりだと思う。
「え? いや、俺はエルシアの為を思って……」
どこが、エルシアの為だと言うのだ。
(……こんなに、好きにさせておいて)
あんなに毎日、愛を囁いておいて。
クロードにとって、愛しいとか好きだとか言う気持ちは、そんなに軽いものなのか。
なんて勝手なんだろう。
怒りが湧き上がる。
けれど、それ以上に。
もうーー。
エルシアは、情けないくらいにクロードの事が好きなのだ。
「……好きなの、大好きなの……。殿下が、殿下が好きーー。離れるなんて、考えられない」
イヤイヤと子供の様に首を振りながら、エルシアの目からは、泣き止んだ筈なのに再び涙が零れる。
その言葉がスイッチだったかのように。
「……俺の方が、もっと好きだ」
ゆっくりとクロードが近付いて来たかと思うと、長椅子に座るエルシアに覆いかぶさって来た。
「……あっ」
二人はそのまま、長椅子に倒れ込む。
雨と混じった、クロードの匂い。
背中にまわされた、逞しい腕。
嬉しい気持ちはあるものの、先程のキスが思い起こされて、怖いとも思ってしまう。
エルシアが動くことも出来ず目をつむり、固まったままでいると。
優しく頭を撫でられた。
「で、でんか?」
「……もう、エルシアが怖がる事はしないと誓う」
恐る恐る目を開けた先には。
涙で霞む視界に、優しく微笑むクロードがいた。
「わたくし、怖かったの」
拗ねたような声が出る。
そうだ、エルシアは全部全部。
ーー怖かったのだ。
王太子妃として国を背負う重責も。
サンマリア国との輸入問題も。
そして、クロードの大人のキスも。
けれど、彼の隣を他の誰かに譲りたくなければ。
いつか、全て乗り越えていかなければいけない事なのだろう。
「うん、ごめんね。だけど、さっきのがラストチャンスだったかもしれないよ」
ーーもう、離してあげられない
そう言って、クロードは抱き締めてくる。
「……離さないで下さい」
手を伸ばして、クロードの頬に触れると。
彼は心底嬉しそうに、エルシアの手に口づけた。
「何があっても守るから。嫌なら公務なんかしなくてもいいから。俺と結婚して下さい」
クスッ。
現実はそんな訳にはいかないだろう。
クロードと四六時中、側にいる訳にはいかないし、公務をしない王太子妃なんて聞いたことがない。
けれど、その言葉だけでも、エルシアは嬉しかった。
「ええ。ふつつか者ですが。よろしくお願い致しますわ。殿下」
こうして降りしきる雨の中、エルシアはクロードからのプロポーズを受け入れたのであった。
ザァザァザァ
「中々、降り止まないな」
クロードは出入り口付近に立ち、雨風がこれ以上エルシアにかからないようにしてくれる。
「……わたくしが泣いてばかりいたからかも、しれませんわ」
申し訳ない気持ちでそう呟くが、クロードは笑うだけだ。
「雨と涙は関係ないと思うが。せっかく連れて来たのに花が見れなくて、すまなかったな」
「いいえ。雨の庭園も風情がありますものーー」
そう言って、花畑に目を向けたエルシアは気が付く。
「……殿下、あれは」
この雨の中、わざわざ離宮にまで馬をかけてくる者がいた。
そして、その者が走らせている馬には王家の紋章が入っている。
「あれはケインだ、何かあったのかもしれない」
クロードもそれを見て表情を強張らせた。
それは雨の降り止むのを待てないほどの何かが、城で起こった証であった。
(……来ないで)
不吉な予感に囚われたエルシアは、近付いて来る知らせが怖い。
「大丈夫だ」
けれど、いつの間にか。
その震える手を守るように、クロードが手を握ってくれていたのだった。
「お休みのところ、申し訳ございません!」
ずぶ濡れになったケインは、クロードの前に跪く。
「……何があった」
「はっ。サンマリア国王女、ゾフィア様が我が国に乗り込んで参りました」
0
あなたにおすすめの小説
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
2月11日 第一章完結
2月15日 第二章スタート予定
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした
鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました
幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。
心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。
しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。
そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた!
周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――?
「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」
これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる