雇われ者の小唄

杉田杢

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「その日以外で接点はありましたか?」
 俺は情報端末の録音機能を呼び出した。警備員は露骨にいやそうな顔をしたが答えてはくれた。
「いや。施設内でも、休憩時間も居室に居るのかあんまり見かけなかったね。他の娘と話してるとこなんか一度も見なかったですよ。無口な娘みたいで、教官やカウンセラーともぽつりぽつりしか話さないって話で」
「話題に上がるということは、目立つ娘だったんですか?」
「目立つというか……俺も話をしたのはあの日のことだけで。地味な娘なんだけど。ただ、二人っきりで話してるとなんとなく息苦しくなる、みたいなことはよく言われてたよ。俺もちょっとしか口きかなかったけど、それは感じました」
 ほう。
「どんなお話を?」
「退所の時さ、手続きが済んだら頭下げてさっさと行こうとするもんだから。俺が呼び止めて、ウチの人は来ないのって。ご両親ちょくちょく面会に来てたようだから。そしたらあの娘、よそで待ち合わせしてるって。目合わせたの一瞬だったけど、ちょっとぞくっとしたね。変だと思ったんだけど、さきさき行っちゃうし、恥ずかしいハナシ、俺もちょっとそれでビビッて声掛けらんなかったですよ」
「目つきが怖かったってことですか?」
「目つきもねえ。確かにちょっと……丁度あんたとおんなじような目つきでしたよ」
 俺がどんな目つきに見えてるのか聞いてみたくはなったが、堪えた。
「目つき『も』?」
「なんて言えばいいんでしょうねえ。あの雰囲気は、ちょっと普通じゃないよ。ホントに一瞬息ができなかったような。そんな感じだったから」
 イイことを聞いた。
「他に何か、気づくことはありませんでしたか?」
「そう言われてもねえ」
 警備員は、頭をひねった。考えあぐねて、ポケットから煙草の箱を取り出したが、中身は空だった。舌うちをひとつして、警備員は言った。
「言った通りあんまり接点もないから。俺の仕事も直接関わりあいになるもんでもないしさ。担当のカウンセラーとか職員に聞いたほうがいいね」
「そうですか……。貴重なお話ありがとう。また何か思い出したらこちらまで連絡いただけると」
 俺は情報端末をしまって、入れ替わりに名刺と封筒を取り出した。
 警備員は封筒を避けて名刺だけ受け取った。
「駄目駄目。厳しいんだよ。貰うと怒られるんだ」
 俺はこの遠慮のない警備員に少しばかり好感を持っていた。
 俺の商売のコツの一つに、正直な人間には親切にしておく、というのがある。
「そういや、駐輪所で新品の煙草を拾いましてね。あんたのじゃないですか?」
 俺は鞄から封の切られていない煙草を取り出した・
「え?」
 警備員は一瞬怪訝な顔をしたが、俺の言葉の言葉の意味をすぐに悟った。
「ああ、ありがとう」
 煙草を受け取る時、口端が少しばかり上がっていた。笑顔を堪えている。
「担当職員に会ってくんでしょ? 取り次ぐよ。ちぃと待っててください」
「ありがとう。お願いします」
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