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担当職員
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応接室に通され、しばらく待つとノックが聞こえた。
どうぞ、と返事をすると女が入ってきた。よく言えば線の細い、遠慮抜きに言えば骨と皮でできたような女だった。
挨拶もそこそこに俺は本題を切り出した。
「突然すみません。急を要する仕事でして」
「聞きました。あの娘を探しておいでだとか」
俺は頷く。女が対面に座った。間近でみるとますますその細さが気になった。ボールでもぶつかればばらばらに砕けそうだ。ここでの仕事がそうさせるのだろうか。
俺は一言断って、情報端末を取り出した。女は特に表情も変えず、録音の許可をくれた。
「担当の貴女からみてどのような娘でしたか?」
「どうともいえません。ほとんど口をきいてももらえないような有様ですから」
もっとも、ここに来る娘はみんなそうです。そう自嘲した。
この人は参っている。俺でなくてもそう思う筈だ。
「それでも彼女の拒絶は他の娘よりもいっそう頑固だったように思います。長い期間、それも起きてる間は殆ど一緒に居るもんですから、どんな娘でも、多少は通じ合うものも生まれます。
しかし彼女の場合は……。全くそれがなかったとは思いたくありませんけれど」
当人が話したくない所をストレートに掘り下げるのは難しい。俺は女の態度を見て、少し話題をずらした。
「生活態度はいかがでした?」
「人と全く接しようとしないこと以外は問題ありませんでした。作業も課題も。休憩中は一人で本を読んだり、勉強したり……」
失敗だ。あまり得られるものの少ない質問だった。
「何を考えているか分からない娘だった? たとえば、ここでは、課題の絵や作文でどんな子なのか分析する、と聞いていますが」
「ある意味では、そうです」
気になる言い方に、俺は眉をひそめる。
「ある意味では?」
「普段全く話さないにも関わらず、彼女は絵も文章も饒舌でした。もちろん、ここでの生活を短くする為に、良い子の振りをする例はいくらでもありますし、そういうものは数をこなせばすぐ見抜けるようになります」
女は煙草を取り出した。
「吸っても、よろしいですか?」
「お体に障らなければ」
俺は気を使ったつもりだったが、かえって機嫌を損ねてしまった。
「私は病気ではありません」
ぴしゃりと言うと、ライターで火をつけようとした。が、ガスが切れかけているのか、なかなか思うようにいかない。
焦れる女に、俺は自分のマッチを一本差し出した。
どうぞ、と返事をすると女が入ってきた。よく言えば線の細い、遠慮抜きに言えば骨と皮でできたような女だった。
挨拶もそこそこに俺は本題を切り出した。
「突然すみません。急を要する仕事でして」
「聞きました。あの娘を探しておいでだとか」
俺は頷く。女が対面に座った。間近でみるとますますその細さが気になった。ボールでもぶつかればばらばらに砕けそうだ。ここでの仕事がそうさせるのだろうか。
俺は一言断って、情報端末を取り出した。女は特に表情も変えず、録音の許可をくれた。
「担当の貴女からみてどのような娘でしたか?」
「どうともいえません。ほとんど口をきいてももらえないような有様ですから」
もっとも、ここに来る娘はみんなそうです。そう自嘲した。
この人は参っている。俺でなくてもそう思う筈だ。
「それでも彼女の拒絶は他の娘よりもいっそう頑固だったように思います。長い期間、それも起きてる間は殆ど一緒に居るもんですから、どんな娘でも、多少は通じ合うものも生まれます。
しかし彼女の場合は……。全くそれがなかったとは思いたくありませんけれど」
当人が話したくない所をストレートに掘り下げるのは難しい。俺は女の態度を見て、少し話題をずらした。
「生活態度はいかがでした?」
「人と全く接しようとしないこと以外は問題ありませんでした。作業も課題も。休憩中は一人で本を読んだり、勉強したり……」
失敗だ。あまり得られるものの少ない質問だった。
「何を考えているか分からない娘だった? たとえば、ここでは、課題の絵や作文でどんな子なのか分析する、と聞いていますが」
「ある意味では、そうです」
気になる言い方に、俺は眉をひそめる。
「ある意味では?」
「普段全く話さないにも関わらず、彼女は絵も文章も饒舌でした。もちろん、ここでの生活を短くする為に、良い子の振りをする例はいくらでもありますし、そういうものは数をこなせばすぐ見抜けるようになります」
女は煙草を取り出した。
「吸っても、よろしいですか?」
「お体に障らなければ」
俺は気を使ったつもりだったが、かえって機嫌を損ねてしまった。
「私は病気ではありません」
ぴしゃりと言うと、ライターで火をつけようとした。が、ガスが切れかけているのか、なかなか思うようにいかない。
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