13 / 16
臨死の舞踏
しおりを挟む
職員は短い礼の言葉でマッチを受け取り、煙草に火をつけた。
深く紫煙を吸い込む。疲れきった眼差しはもの思わし気になり、やがて恍惚とした光が灯る。
娘のその作品群に思いを馳せているらしい。
それを眺める俺は、なんとなく昔見た死の舞踏を思い出し、いたく不安定な気分になった。
「彼女の絵も、文も、心からのものと断言できますわ。そうでなければ私どもの胸をああもうつものには成りえません」
「それほど、感動的だったと?」
「ええ。お見せできないのが残念です。用途が用途ですからね。もっとも彼女が無事ならこれからその機会はあるでしょう」
「そう仰いますと?」
「ある時、これほどの物が書けるなら文章書きなり、絵描きなりになってはどうか、という意味のことを話したことがあります。彼女、満更でもなさそうに、いいかもしれない、と言ってくれましたわ。ほんの少し微笑んでね」
依頼人から感受性の強い娘とは聞いていたが、そのような才能については初耳だった。
「私と彼女の間に心温まるような情景があるとすればそのくらいですわ。あとは全然空振りでした」
職員はシニカルに言った。俺は苦笑いを返すしかなかった。
ふと思いついて質問を挟む。
「見せていただく訳には?」
「出来ると思って?」
「言ってみただけです。なら、その絵のテーマというか、モチーフと言えばいいのか……その、傾向などは教えていただけませんか?」
職員は、俺の聞きたいことを察して、やはりシニカルに笑った。
「こちらが設定したテーマではありますけれど。メタファーを含めて言っても、貴方が想像なさってるような物は登場しませんでしたわ」
「そうですか」
「信じないのなら、あの娘を無事に見つけて、何か描かせてみることです」
「尽力します」
どうにも、俺はこの女に嫌われているらしい。話を切り上げる方向に持っていく。
「他にも彼女に接点のある方がいらっしゃれば、お話をうかがいたいのですが」
「何せあの性格ですからね……カウンセラーと話してみますか? 今は居りませんが」
「お願いします。都合のつく時間は?」
「また連絡しますわ。何か思い出したときにもね」
女の方でも、話を切り上げたかったらしい。追い討ちとばかりに言葉を継いだ。
「カウンセラーと話してもあまり発見はないかと思いますよ。あの娘と話すのはどうにも息が詰まる、と常々そう申しておりましたから」
深く紫煙を吸い込む。疲れきった眼差しはもの思わし気になり、やがて恍惚とした光が灯る。
娘のその作品群に思いを馳せているらしい。
それを眺める俺は、なんとなく昔見た死の舞踏を思い出し、いたく不安定な気分になった。
「彼女の絵も、文も、心からのものと断言できますわ。そうでなければ私どもの胸をああもうつものには成りえません」
「それほど、感動的だったと?」
「ええ。お見せできないのが残念です。用途が用途ですからね。もっとも彼女が無事ならこれからその機会はあるでしょう」
「そう仰いますと?」
「ある時、これほどの物が書けるなら文章書きなり、絵描きなりになってはどうか、という意味のことを話したことがあります。彼女、満更でもなさそうに、いいかもしれない、と言ってくれましたわ。ほんの少し微笑んでね」
依頼人から感受性の強い娘とは聞いていたが、そのような才能については初耳だった。
「私と彼女の間に心温まるような情景があるとすればそのくらいですわ。あとは全然空振りでした」
職員はシニカルに言った。俺は苦笑いを返すしかなかった。
ふと思いついて質問を挟む。
「見せていただく訳には?」
「出来ると思って?」
「言ってみただけです。なら、その絵のテーマというか、モチーフと言えばいいのか……その、傾向などは教えていただけませんか?」
職員は、俺の聞きたいことを察して、やはりシニカルに笑った。
「こちらが設定したテーマではありますけれど。メタファーを含めて言っても、貴方が想像なさってるような物は登場しませんでしたわ」
「そうですか」
「信じないのなら、あの娘を無事に見つけて、何か描かせてみることです」
「尽力します」
どうにも、俺はこの女に嫌われているらしい。話を切り上げる方向に持っていく。
「他にも彼女に接点のある方がいらっしゃれば、お話をうかがいたいのですが」
「何せあの性格ですからね……カウンセラーと話してみますか? 今は居りませんが」
「お願いします。都合のつく時間は?」
「また連絡しますわ。何か思い出したときにもね」
女の方でも、話を切り上げたかったらしい。追い討ちとばかりに言葉を継いだ。
「カウンセラーと話してもあまり発見はないかと思いますよ。あの娘と話すのはどうにも息が詰まる、と常々そう申しておりましたから」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる