そこにある春

ほっぺ

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口に含んだ水分が、一瞬で身体中から噴き出る。
兎に角
「暑い…」
今しがた潤したはずの喉から渇ききった言葉が出る。
雲ひとつない晴天というのは、時に残酷に俺たちの身体を蝕んでいく。
ひとつくらい…
いや、このほくそ笑んでいるお天道様の顔を拝まなくてもいいくらい、雲が広がってほしい。
だとしても暑いのだろうが。

「暑い…」

8月。
目覚まし時計でもないのに毎朝的確に起こしてくれる蝉の鳴き声に、多少の憤りを覚えながら、頗る悪い目覚めを迎える。
毎朝。
もう慣れてもいい頃なのだが…。
なにせ、もう十数年。
毎年この季節にはこの拷問を受けている訳で。
俺にとっては蝉も害虫のひとつだ。
ゴキ○リや百足、蜘蛛と一緒の類い。
蜘蛛…

本当に、雲ひとつない晴天だ。
蒼く広がる空を見上げ、重い足を引きずり歩きながら少し長めのため息を吐く。
「はぁ~~~~~~…」
長すぎた。
思っていた以上に長すぎた。

「わっかりやすい脱力アピールは良いから。少しは急がないと遅刻するよ。」

面倒な奴にロングブレスを聞かれてしまった…
中性的な声のする後ろへと顔をやる。
そこに立っていたのは同級生。春香。
女子にモテるタイプの女子。
そう言えば性格など諸々分かってもらえるだろう。
平たく言えば、良い奴だ。

「俺より後ろに居るってことはお前も遅刻だろ。少しは急がないと遅刻…」

全力で、距離を詰められていた事に気付かなかった。
はやい。はやすぎる。
そっくりそのまま言葉を返す頃には既に春香は俺よりも前にいた。

「しません!」

コーナーを鮮やかに曲がりとげ姿が見えなくなった春香の、声だけはしっかり耳に届いた。
暫く呆然と立ち尽くす俺を我に返したのは、先程からほくそ笑んでる太陽。

「暑い…」

あれだけ全力で身体を動かして、暑くないのかあいつは…
この暑さを、なんとも思っていないのか?
バケモノだな…

靴が地面を擦り付ける音を立てながら、渋々歩き始めた。
遅刻は…免れそうにない。
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