6 / 9
06 魔王軍、入隊
しおりを挟む
深淵をくぐると、その先は暗い部屋だった。
部屋角には燭台が置かれ、篝火が仄かにその場を照らす。それは場に限らず、人も例外ではない。
薄暗く分かりづらいが、パッと見七人の人間(?)が座していて、俺と少女を含めると、この部屋には九人の人間が居ることになる。それでも窮屈に感じないあたり、この部屋の広さが窺える。
「おや、魔王様、そいつは」
魔王?
そいつというのは間違いなく俺である筈だが、魔王様は……まさかこの少女? しかし、見た目は俺より三つか四つは下だ。にわかに信じられない。
「この子は私が拾った。経緯はよく分からないけど、人間に拷問を受けされられてたから、助けたの。それから、今日からこの子はウチの軍に入ることになったから、宜しく」
その言葉によって、少し場がざわつく。
というかこの人達、よく見るとモンスター?
「ほら、自己紹介とかしなさい」
俺は魔王様に肘でつつかれ、かくかく頷きながら口を開いた。
「名前はアッシュです。えっと……宜しくお願いします」
名前以外にも何か喋ろうとしたが、何も浮かばなかったので軽く頭を下げ終了させた。
すると、目の前に横長の半透明なウィンドウが出現する。上部には『魔王軍に参加しますか』と表示されており、その下には『はい』と『いいえ』を選択するボタンが付けられている。
確か、これはギルドに入隊するときに出現するものの筈だ。今までギルドに入ることのなかった俺は、少しの躊躇いと共に『はい』のボタンを押した。
「では、今日からあなたは『魔王軍初等兵アッシュ』よ。任務は明日から任せることにするわ。今日はもう休みなさい」
魔王様はそう言うと、自身のウィンドウを動かした。すると左下に表示されていた俺のマップに、目的地ピンが現れる。ここで休めと言うことだろう。
そして、マップを見て気がつく。左上の地名表示欄に、魔界と書かれていた。
魔界? そんな場所、ロスアスにあったか?
「私達はこれから会議をするからここに残るけど……」
魔王様のその言葉に、俺は色々察した。
「なるほど。じゃあ、お疲れ様でした。あっ、そういえばまだお礼言えて無かったな。助けてくれて、ありがとうございました」
「うん。野良悪魔でここまで行儀が良い子はなかなかいない。感心ね。それじゃあ、お疲れ様」
俺は会釈し、部屋を出ようとするが……
「ん? どうしたのアッシュ」
「…………えっと、出口どこですか?」
俺の疑問に、一人の魔族が軽く吹き出した。
……しょうがないだろ。暗くて扉もよく見えないんだから。
目が覚めた。不快感は伴っていない。当たり前か。
ウィンドウを開く。確認したが、ログアウトボタンは無い。
昨夜、熟睡するまでに色々と今の状況について考察してみた。だが、どう考えても行き着く先は同じなのだ。
……ここ、異世界じゃね?
それが答えだった。
理由としては、まずこのゲームのNPCは、重要なキャラ以外は喋ることはない。話しかけると視界に文字が現れるだけなのだ。
しかし、目眩のあったあの瞬間から、その現象はきっぱり無くなっていた。
怒濤の数日を生きてきたので、考える時間がなく疑問に思う暇さえ無かったのがイマイチ不思議だが、それは一時的に脳の隅に置いておく。
とにかく、この世界はゲームでは説明がつかないことが多すぎるのだ。
「異世界転移したけど、悪魔だからパーティからハブられました……ってか」
まぁ、実際には経緯的に離ればなれになってしまっただけなのだが。
俺は朝から苦い笑みを浮かべた。
気を取り直して、ベッドから起き上がり、ウィンドウを操作して寝間着から防具に着替えると、唐突にドアがノックされた。
「誰だろ……管理人さんかな」
独り言を溢しながら、部屋奥にある扉に向かう。
木製の取手を回し開くと、そこにはアッシュと同年代位の少年が居た。
「どうも。アッシュさんですよね? 僕はサクト。あなたの教育係に任命されたものです」
気弱そうな少年が、そう言いながらぎこちない笑みを送ってきた。
「……あ、そうですか。まぁ、立ち話もアレですし、部屋、入ります?」
「そうですね。お言葉に甘えさせてもらいましょうか。お邪魔します」
サクトと言う名の少年が、軽い一礼と共に入室する。
第一印象としては、真面目な少年といったところか。
耳は魔族特有の形をしているが、それ以外は特に人間と変わらない容姿だ。いや、よく見ると小さな角が二本生えている。因みに、俺には生えていない。
魔族は同じ種族でもこのような外見的特徴が大きく異なる事があるから面白い。
「まぁ、教育係と言っても魔王軍の掟だの昇格する方法だのを説明するだけなんですけどね」
サクトは申し訳なさそうに笑った。
「では、早速ですがクエストを受けてみましょう。一度クエストをこなせば、魔王軍について大体理解出来ます」
真剣な顔つきのサクトに、俺は気圧される形で頷いた。
部屋角には燭台が置かれ、篝火が仄かにその場を照らす。それは場に限らず、人も例外ではない。
薄暗く分かりづらいが、パッと見七人の人間(?)が座していて、俺と少女を含めると、この部屋には九人の人間が居ることになる。それでも窮屈に感じないあたり、この部屋の広さが窺える。
「おや、魔王様、そいつは」
魔王?
そいつというのは間違いなく俺である筈だが、魔王様は……まさかこの少女? しかし、見た目は俺より三つか四つは下だ。にわかに信じられない。
「この子は私が拾った。経緯はよく分からないけど、人間に拷問を受けされられてたから、助けたの。それから、今日からこの子はウチの軍に入ることになったから、宜しく」
その言葉によって、少し場がざわつく。
というかこの人達、よく見るとモンスター?
「ほら、自己紹介とかしなさい」
俺は魔王様に肘でつつかれ、かくかく頷きながら口を開いた。
「名前はアッシュです。えっと……宜しくお願いします」
名前以外にも何か喋ろうとしたが、何も浮かばなかったので軽く頭を下げ終了させた。
すると、目の前に横長の半透明なウィンドウが出現する。上部には『魔王軍に参加しますか』と表示されており、その下には『はい』と『いいえ』を選択するボタンが付けられている。
確か、これはギルドに入隊するときに出現するものの筈だ。今までギルドに入ることのなかった俺は、少しの躊躇いと共に『はい』のボタンを押した。
「では、今日からあなたは『魔王軍初等兵アッシュ』よ。任務は明日から任せることにするわ。今日はもう休みなさい」
魔王様はそう言うと、自身のウィンドウを動かした。すると左下に表示されていた俺のマップに、目的地ピンが現れる。ここで休めと言うことだろう。
そして、マップを見て気がつく。左上の地名表示欄に、魔界と書かれていた。
魔界? そんな場所、ロスアスにあったか?
「私達はこれから会議をするからここに残るけど……」
魔王様のその言葉に、俺は色々察した。
「なるほど。じゃあ、お疲れ様でした。あっ、そういえばまだお礼言えて無かったな。助けてくれて、ありがとうございました」
「うん。野良悪魔でここまで行儀が良い子はなかなかいない。感心ね。それじゃあ、お疲れ様」
俺は会釈し、部屋を出ようとするが……
「ん? どうしたのアッシュ」
「…………えっと、出口どこですか?」
俺の疑問に、一人の魔族が軽く吹き出した。
……しょうがないだろ。暗くて扉もよく見えないんだから。
目が覚めた。不快感は伴っていない。当たり前か。
ウィンドウを開く。確認したが、ログアウトボタンは無い。
昨夜、熟睡するまでに色々と今の状況について考察してみた。だが、どう考えても行き着く先は同じなのだ。
……ここ、異世界じゃね?
それが答えだった。
理由としては、まずこのゲームのNPCは、重要なキャラ以外は喋ることはない。話しかけると視界に文字が現れるだけなのだ。
しかし、目眩のあったあの瞬間から、その現象はきっぱり無くなっていた。
怒濤の数日を生きてきたので、考える時間がなく疑問に思う暇さえ無かったのがイマイチ不思議だが、それは一時的に脳の隅に置いておく。
とにかく、この世界はゲームでは説明がつかないことが多すぎるのだ。
「異世界転移したけど、悪魔だからパーティからハブられました……ってか」
まぁ、実際には経緯的に離ればなれになってしまっただけなのだが。
俺は朝から苦い笑みを浮かべた。
気を取り直して、ベッドから起き上がり、ウィンドウを操作して寝間着から防具に着替えると、唐突にドアがノックされた。
「誰だろ……管理人さんかな」
独り言を溢しながら、部屋奥にある扉に向かう。
木製の取手を回し開くと、そこにはアッシュと同年代位の少年が居た。
「どうも。アッシュさんですよね? 僕はサクト。あなたの教育係に任命されたものです」
気弱そうな少年が、そう言いながらぎこちない笑みを送ってきた。
「……あ、そうですか。まぁ、立ち話もアレですし、部屋、入ります?」
「そうですね。お言葉に甘えさせてもらいましょうか。お邪魔します」
サクトと言う名の少年が、軽い一礼と共に入室する。
第一印象としては、真面目な少年といったところか。
耳は魔族特有の形をしているが、それ以外は特に人間と変わらない容姿だ。いや、よく見ると小さな角が二本生えている。因みに、俺には生えていない。
魔族は同じ種族でもこのような外見的特徴が大きく異なる事があるから面白い。
「まぁ、教育係と言っても魔王軍の掟だの昇格する方法だのを説明するだけなんですけどね」
サクトは申し訳なさそうに笑った。
「では、早速ですがクエストを受けてみましょう。一度クエストをこなせば、魔王軍について大体理解出来ます」
真剣な顔つきのサクトに、俺は気圧される形で頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる