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05 尋問、拷問
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「……なっ、がはっ、あっ…………」
意識が飛びかけた瞬間、痛みが僅かに和らいだ。腹部を見下ろすと、斬られた痕が見受けられない。……治された?
「な、なんで……?」
俺のその問いに、答えにならない答えが返ってくる。
「さっきみたいに痛くされたくないなら、魔王の場所を吐くです」
少女は俺の喉仏にナイフの先端を突きつけた。
ピリッとした感覚が脳を蝕むが、血はまだ出てないようだ。
「そういうことか、だから俺を治した……。でも、残念ながら俺は本当になにも知らないよ。だから止めてく━━」
すると、言わせないと脅すように、少女は突きつけていたナイフを僅かに押し込み、首を浅く斬った。
腹部とはまた違った痛み。先ほどより傷は浅い筈なのに、今回のほうが苦痛だ。
声帯を斬られたためか声も出せず、俺はただ両目から滴を溢すことしか出来なかった。
「あー、泣いちゃったのです。ごめん、ごめんね。ごめんなさい。あ、でも、涙美味しいのれす。んっ、もっとくらさぁい」
少女が血塗れのナイフを持ったまま、俺の頬に流れる涙を舌で舐めとる。
至近距離で見ると、少女はまるで人形のように美しく、儚く、幼かったが、今の状況では恐怖しか感情が沸いてこない。
「あっ、そだ。治さなきゃです。じゃなきゃ死んじゃうのです。リル・ヒール・アルタ。……うん。これでおっけーなのです」
塞がった傷を見て、少女は満足げに頷いた。
「……俺、出血多量で死なない?」
「そうなのです。いつもその加減が出来なくて殺しちゃうのです。死にたくないならさっさと吐くのです悪魔ヤロー」
「……言ったら言ったで、もう用済みだからってどうせ殺すでしょ」
俺のその言葉に、少女は顔をしかめた。
「察しがいいのです。嫌いです。察しがいい人は。でもだからなんなのです。舌でも噛みきって何か言っちゃう前に死ぬです? 別にいいです。噛んだ瞬間から回復させるです。試してみるです?」
「……遠慮しとく」
俺は不思議だった。ついさっきあんなに痛い目を見た筈なのに、何故こんなにも冷静に喋れているのか。もっとも、膝と声は未だ震えたままだが。
何気なく少女を見ていると、あることに気がつく。
「あれ、どうしたのその右手、指が……」
出会った頃は暗くて分からなかったが、少女の右手には指が四本しかなかった。小指が欠けていたのだ。
「これは……ママに取られたのです。でもミルシャが悪いからしょうがないのです」
「ミルシャって……君の名前?」
「……悪魔ヤローには関係無いのです」
ミルシャはうつむき、自身の身体を抱いた。
「そっか。俺はアッシュ。ミルシャは、なんでこんなことしてるの?」
謎だ。何故俺はこんなにも冷静なのか。相手はあんなにも俺を傷つけた人間だというのに。まるで自分という意識はありつつ、身体は別の誰かが操作しているような。不思議な感覚だ。
「なんでって……楽しーからなのです!」
楽しいから、か。さっきもそんなことを言っていたな。だけど……
「嘘つけ」
俺の言葉に、ミルシャは身震いした。
「嘘じゃないです。アッシュに何がわかるのです!」
「わかるよ」
ミルシャはまたも震えた。
俺自身も、自分の言葉に驚いていた。
まさか俺は、ミルシャを説得しようと目論んでいるのか。
「ミルシャ、本当はこんなことやりたくないんだろ。無理やりやらされて、自分の心を守る為に、狂ったふりをして。それで━━」
これ以上は言わさんと、ミルシャはナイフを投げ捨て、俺の首を両手で絞めてくる。
「何が……何がわかるのです……なにも知らないくせに…………」
数秒間、黙ってミルシャの言葉を聴いていた。
苦しい。そんな感覚よりも勝っている感覚がある。それがなにかは分からないが。
「わか……るよ……」
俺の囁きに、少女は手を緩める。
「苦しいもんな。辛いもんな。自分で誰かを傷つけるのは。意図的じゃなくても、仕組まれたものでも、人を傷つける度に、自分も傷つく」
俺は、昔のことを思い出していた。
人が憎くて、でもそれ以上に、自分が憎い。
今となっては、何てことのない話だったが。
「ミルシャは、私は……どうすれば……」
ミルシャが顔を抑え、踞る。
すると、その問いに答えるように、左の壁に深淵のような穴が空いた。
……なんだ、あれ。
なんの脈絡もなく、それは現れたのだった。
ミルシャも気づいたようで、二人で凝視していると、ミルシャより一回り大きい少女が穴から出現した。
紫のドレスのような服を着た少女は、冷たい眼差しで俺を見た。
すると、俺に付けられていた枷が粉々になる。
「なっ……?」
俺とミルシャは仰天した。
「気配があって来てみれば、こんなところに野良悪魔……ま、無事で何よりね」
俺達は口をぽかんと開けたままで、なにも言えずにいた。
「来なさい。助けてあげたお礼に、私の部下になって働いて」
俺は直立したまま動けないでいた。
「何をぼさっとしているの? 早く来なさい。まぁ、その子は放っておいて良さそうだけれど」
少女はミルシャを一瞥した。
もしかしたら、俺がうだうだしているうちに、ミルシャが何かの拍子に殺されるかもしれない。そう悟った俺は、たどたどしい足取りで少女に近づいた。
「アッシュ……」
ミルシャが俺の名を呼んだ。
そういえば、何か俺に訊いていたな。答えなければ。
「ミルシャ」
俺の言葉に、ミルシャが顔をあげる。視線が交錯する。
「自分が生きたいように、生きればいいよ」
きっかけは与えた。
あとはミルシャ次第だ。
アッシュは少女と共に、深淵に消えた。
「アッシュ……」
少女はもう一度、その名を呼んだ。
意識が飛びかけた瞬間、痛みが僅かに和らいだ。腹部を見下ろすと、斬られた痕が見受けられない。……治された?
「な、なんで……?」
俺のその問いに、答えにならない答えが返ってくる。
「さっきみたいに痛くされたくないなら、魔王の場所を吐くです」
少女は俺の喉仏にナイフの先端を突きつけた。
ピリッとした感覚が脳を蝕むが、血はまだ出てないようだ。
「そういうことか、だから俺を治した……。でも、残念ながら俺は本当になにも知らないよ。だから止めてく━━」
すると、言わせないと脅すように、少女は突きつけていたナイフを僅かに押し込み、首を浅く斬った。
腹部とはまた違った痛み。先ほどより傷は浅い筈なのに、今回のほうが苦痛だ。
声帯を斬られたためか声も出せず、俺はただ両目から滴を溢すことしか出来なかった。
「あー、泣いちゃったのです。ごめん、ごめんね。ごめんなさい。あ、でも、涙美味しいのれす。んっ、もっとくらさぁい」
少女が血塗れのナイフを持ったまま、俺の頬に流れる涙を舌で舐めとる。
至近距離で見ると、少女はまるで人形のように美しく、儚く、幼かったが、今の状況では恐怖しか感情が沸いてこない。
「あっ、そだ。治さなきゃです。じゃなきゃ死んじゃうのです。リル・ヒール・アルタ。……うん。これでおっけーなのです」
塞がった傷を見て、少女は満足げに頷いた。
「……俺、出血多量で死なない?」
「そうなのです。いつもその加減が出来なくて殺しちゃうのです。死にたくないならさっさと吐くのです悪魔ヤロー」
「……言ったら言ったで、もう用済みだからってどうせ殺すでしょ」
俺のその言葉に、少女は顔をしかめた。
「察しがいいのです。嫌いです。察しがいい人は。でもだからなんなのです。舌でも噛みきって何か言っちゃう前に死ぬです? 別にいいです。噛んだ瞬間から回復させるです。試してみるです?」
「……遠慮しとく」
俺は不思議だった。ついさっきあんなに痛い目を見た筈なのに、何故こんなにも冷静に喋れているのか。もっとも、膝と声は未だ震えたままだが。
何気なく少女を見ていると、あることに気がつく。
「あれ、どうしたのその右手、指が……」
出会った頃は暗くて分からなかったが、少女の右手には指が四本しかなかった。小指が欠けていたのだ。
「これは……ママに取られたのです。でもミルシャが悪いからしょうがないのです」
「ミルシャって……君の名前?」
「……悪魔ヤローには関係無いのです」
ミルシャはうつむき、自身の身体を抱いた。
「そっか。俺はアッシュ。ミルシャは、なんでこんなことしてるの?」
謎だ。何故俺はこんなにも冷静なのか。相手はあんなにも俺を傷つけた人間だというのに。まるで自分という意識はありつつ、身体は別の誰かが操作しているような。不思議な感覚だ。
「なんでって……楽しーからなのです!」
楽しいから、か。さっきもそんなことを言っていたな。だけど……
「嘘つけ」
俺の言葉に、ミルシャは身震いした。
「嘘じゃないです。アッシュに何がわかるのです!」
「わかるよ」
ミルシャはまたも震えた。
俺自身も、自分の言葉に驚いていた。
まさか俺は、ミルシャを説得しようと目論んでいるのか。
「ミルシャ、本当はこんなことやりたくないんだろ。無理やりやらされて、自分の心を守る為に、狂ったふりをして。それで━━」
これ以上は言わさんと、ミルシャはナイフを投げ捨て、俺の首を両手で絞めてくる。
「何が……何がわかるのです……なにも知らないくせに…………」
数秒間、黙ってミルシャの言葉を聴いていた。
苦しい。そんな感覚よりも勝っている感覚がある。それがなにかは分からないが。
「わか……るよ……」
俺の囁きに、少女は手を緩める。
「苦しいもんな。辛いもんな。自分で誰かを傷つけるのは。意図的じゃなくても、仕組まれたものでも、人を傷つける度に、自分も傷つく」
俺は、昔のことを思い出していた。
人が憎くて、でもそれ以上に、自分が憎い。
今となっては、何てことのない話だったが。
「ミルシャは、私は……どうすれば……」
ミルシャが顔を抑え、踞る。
すると、その問いに答えるように、左の壁に深淵のような穴が空いた。
……なんだ、あれ。
なんの脈絡もなく、それは現れたのだった。
ミルシャも気づいたようで、二人で凝視していると、ミルシャより一回り大きい少女が穴から出現した。
紫のドレスのような服を着た少女は、冷たい眼差しで俺を見た。
すると、俺に付けられていた枷が粉々になる。
「なっ……?」
俺とミルシャは仰天した。
「気配があって来てみれば、こんなところに野良悪魔……ま、無事で何よりね」
俺達は口をぽかんと開けたままで、なにも言えずにいた。
「来なさい。助けてあげたお礼に、私の部下になって働いて」
俺は直立したまま動けないでいた。
「何をぼさっとしているの? 早く来なさい。まぁ、その子は放っておいて良さそうだけれど」
少女はミルシャを一瞥した。
もしかしたら、俺がうだうだしているうちに、ミルシャが何かの拍子に殺されるかもしれない。そう悟った俺は、たどたどしい足取りで少女に近づいた。
「アッシュ……」
ミルシャが俺の名を呼んだ。
そういえば、何か俺に訊いていたな。答えなければ。
「ミルシャ」
俺の言葉に、ミルシャが顔をあげる。視線が交錯する。
「自分が生きたいように、生きればいいよ」
きっかけは与えた。
あとはミルシャ次第だ。
アッシュは少女と共に、深淵に消えた。
「アッシュ……」
少女はもう一度、その名を呼んだ。
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