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04 別れ、決別
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「大丈夫か? そこのふたり!」
その声とほぼ同時に、二人の男が草むらから出現する。
ひとりは何かの毛皮を羽織り、矢をつがえこちらにそれをむけている。もうひとりは、全身革製の身軽そうな装備をしており、腰に短剣を携えている。
そんなおじさん二人組が、リゲルとワサラハの前に、俺から立ちはだかるように出た。
「くそっ、こんなところに悪魔がでるなんて。やっぱあの噂は本当だったのか!」
「落ち着け。確実な対処を取れば大丈夫な筈だ。相手があの悪魔でもな」
噂……?
「うおっ?」
俺が噂の正体に思惟を向けようとした瞬間、再び矢が放たれ、俺の寄り掛かっている木に突き刺さる。
このままじゃまずい……殺される。
そう悟った俺は、一先ずここから去る決意をした。━━二人と離ればなれになってしまうが、しょうがない。後でフレンドチャットをすればまた会える筈だ。
俺は木を背盾にその場から離れる。
「くそっ、待て!」
「いや、深追いはまずい。仲間がいるかもしれんからな」
俺の仲間はそこにいる二人しかいないが、今回はその間違った推理に助けられた。
「アッシュ!」
俺の名を呼んだのは、リゲルか、ワサラハか、或いはふたりか。
ここで返事をしてしまえば、ふたりは悪魔の仲間として何をされるか分からない。その事を懸念した俺は、返事をせずに先に進んだ。
それでも何かを伝えたくて、身を屈ませなが進むなか、俺は親指の立てた左手をぎりぎり見える位置に出した。
「死ぬなよ。頼むから……」
リゲルのその声は、当然の如くアッシュには届かなかった。
身体が重い。
重くて重くて堪らない。
矢も刺さったままで、忘れていた痛みもぶり返し、死ぬかもしれないと思うほどに苦痛が自身を支配していた。
どれ程歩いたかは分からないが……もう、いいよな。
疲れた。もうどうなっても知るか。いい加減、楽になりたい。
死を覚悟したわけでは無いが、もうどうにでもなれという挫折感があったことは否定できない。
生に対して意気消沈してしまったのか、俺は身体を地面に横たわせ、寝転がった。
そして静かに、目を閉じるのだった。
「死にたくねぇな……」
細々と呟いたその一言に、俺は自嘲の笑みを浮かべた。
「うっ…………」
目が覚めた。しかし、それは強烈な不快感を伴ってのことだった。
地面が硬く冷たい。空気は淀み、匂いも埃っぽい。正しく、最悪の環境だ。
「アハッ、やぁっと起きたぁ」
耳を突く甲高い声の正体を知るべく、俺は瞬きを繰り返し、視界を鮮明にさせていく。
腰をあげ声の発生元を見てみると、黒っぽい服を着た少女(ということしか部屋が暗く理解できない)が目に写った。
「……君は? ……てかここ、牢屋?」
上下左右と後方は石の壁で塞がれ、目の前は頑丈そうな鉄格子が設けられている。
牢屋……というよりは留置場みたいだが、いつの間にかに手足に付けられている枷を見れば、そのどちらかかそれに近い場所と考えるに難くない。
……魔族だから、か? でも、いつの間にこんなところに。
「アハッ、悪魔ヤローなんかに教えることはねーのです。あぁあぁ、それより、早く楽しみたいのですぅ。でも、お仕事しなきゃです」
ゆらゆらと身体を揺らしながら、少女は自身の隣に置かれている器械台(のような台)から、メスのような、しかしメスより確実に一回りは大きいナイフを手に取った。
「たんとーちょくにゅーに聞くです。魔王はどこにいるです?」
少し拙い印象の言葉で、そう少女に問われる。
「……知らない。本当に知らない」
少女は「そうですか……」と呟くと、壁際に移動し、何かのスイッチを押した。
すると大袈裟な駆動音が響き、俺の手の枷がぎりぎりと天井に引っ張られる。
強制的に起立させられ、足が地面に着くくらいまで上げられたところで静止した。
なんだこの態勢。正直キツい。
「魔王がこの辺りにいることは分かっているです。アナタという悪魔が居るのが何よりもの証拠……」
少女が石畳を足裏で鳴らしながら近づいてくる。
━━手にはナイフが握られたまま。
「言う気が無いなら、言う気にするまでです」
「がぁッ!」
少女はなんの躊躇いもなく、俺の腹部にナイフを刺してきた。
「痛い、痛いですか? ねぇ、痛い? ……アハハハハハッ! その顔サイコーなのです! 悪魔が痛がってる顔……かわいーのです」
うっとりした表情で、少女は俺の顔に指を這わせる。
俺はあまりの痛みに意識が飛びかけ、足は異常な程震えている。
「おっと、このままだと殺しちゃうのです」
すると少女は、乱暴にナイフを抜き取った。
「あがっ……!」
俺が痛みに喘ぐと、少女は詠唱を唱え始めた。
しかし、俺がそんなことに気が回せる筈もなく……。
あぁ、死ぬのかな、俺。
虚ろな瞳で、虚空を見つめた。
その声とほぼ同時に、二人の男が草むらから出現する。
ひとりは何かの毛皮を羽織り、矢をつがえこちらにそれをむけている。もうひとりは、全身革製の身軽そうな装備をしており、腰に短剣を携えている。
そんなおじさん二人組が、リゲルとワサラハの前に、俺から立ちはだかるように出た。
「くそっ、こんなところに悪魔がでるなんて。やっぱあの噂は本当だったのか!」
「落ち着け。確実な対処を取れば大丈夫な筈だ。相手があの悪魔でもな」
噂……?
「うおっ?」
俺が噂の正体に思惟を向けようとした瞬間、再び矢が放たれ、俺の寄り掛かっている木に突き刺さる。
このままじゃまずい……殺される。
そう悟った俺は、一先ずここから去る決意をした。━━二人と離ればなれになってしまうが、しょうがない。後でフレンドチャットをすればまた会える筈だ。
俺は木を背盾にその場から離れる。
「くそっ、待て!」
「いや、深追いはまずい。仲間がいるかもしれんからな」
俺の仲間はそこにいる二人しかいないが、今回はその間違った推理に助けられた。
「アッシュ!」
俺の名を呼んだのは、リゲルか、ワサラハか、或いはふたりか。
ここで返事をしてしまえば、ふたりは悪魔の仲間として何をされるか分からない。その事を懸念した俺は、返事をせずに先に進んだ。
それでも何かを伝えたくて、身を屈ませなが進むなか、俺は親指の立てた左手をぎりぎり見える位置に出した。
「死ぬなよ。頼むから……」
リゲルのその声は、当然の如くアッシュには届かなかった。
身体が重い。
重くて重くて堪らない。
矢も刺さったままで、忘れていた痛みもぶり返し、死ぬかもしれないと思うほどに苦痛が自身を支配していた。
どれ程歩いたかは分からないが……もう、いいよな。
疲れた。もうどうなっても知るか。いい加減、楽になりたい。
死を覚悟したわけでは無いが、もうどうにでもなれという挫折感があったことは否定できない。
生に対して意気消沈してしまったのか、俺は身体を地面に横たわせ、寝転がった。
そして静かに、目を閉じるのだった。
「死にたくねぇな……」
細々と呟いたその一言に、俺は自嘲の笑みを浮かべた。
「うっ…………」
目が覚めた。しかし、それは強烈な不快感を伴ってのことだった。
地面が硬く冷たい。空気は淀み、匂いも埃っぽい。正しく、最悪の環境だ。
「アハッ、やぁっと起きたぁ」
耳を突く甲高い声の正体を知るべく、俺は瞬きを繰り返し、視界を鮮明にさせていく。
腰をあげ声の発生元を見てみると、黒っぽい服を着た少女(ということしか部屋が暗く理解できない)が目に写った。
「……君は? ……てかここ、牢屋?」
上下左右と後方は石の壁で塞がれ、目の前は頑丈そうな鉄格子が設けられている。
牢屋……というよりは留置場みたいだが、いつの間にかに手足に付けられている枷を見れば、そのどちらかかそれに近い場所と考えるに難くない。
……魔族だから、か? でも、いつの間にこんなところに。
「アハッ、悪魔ヤローなんかに教えることはねーのです。あぁあぁ、それより、早く楽しみたいのですぅ。でも、お仕事しなきゃです」
ゆらゆらと身体を揺らしながら、少女は自身の隣に置かれている器械台(のような台)から、メスのような、しかしメスより確実に一回りは大きいナイフを手に取った。
「たんとーちょくにゅーに聞くです。魔王はどこにいるです?」
少し拙い印象の言葉で、そう少女に問われる。
「……知らない。本当に知らない」
少女は「そうですか……」と呟くと、壁際に移動し、何かのスイッチを押した。
すると大袈裟な駆動音が響き、俺の手の枷がぎりぎりと天井に引っ張られる。
強制的に起立させられ、足が地面に着くくらいまで上げられたところで静止した。
なんだこの態勢。正直キツい。
「魔王がこの辺りにいることは分かっているです。アナタという悪魔が居るのが何よりもの証拠……」
少女が石畳を足裏で鳴らしながら近づいてくる。
━━手にはナイフが握られたまま。
「言う気が無いなら、言う気にするまでです」
「がぁッ!」
少女はなんの躊躇いもなく、俺の腹部にナイフを刺してきた。
「痛い、痛いですか? ねぇ、痛い? ……アハハハハハッ! その顔サイコーなのです! 悪魔が痛がってる顔……かわいーのです」
うっとりした表情で、少女は俺の顔に指を這わせる。
俺はあまりの痛みに意識が飛びかけ、足は異常な程震えている。
「おっと、このままだと殺しちゃうのです」
すると少女は、乱暴にナイフを抜き取った。
「あがっ……!」
俺が痛みに喘ぐと、少女は詠唱を唱え始めた。
しかし、俺がそんなことに気が回せる筈もなく……。
あぁ、死ぬのかな、俺。
虚ろな瞳で、虚空を見つめた。
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