7 / 9
07 依頼、以来
しおりを挟む
「ふッ!」
息を刹那に吐きながら、まだ自らのものでない剣を振るう。
「どうですか、その剣は」
サクトに訊かれた俺は、剣の柄や刃に目をやりながら軽く頷く。
「うん。丁度良い軽さだし、手にも馴染む。今までで一番合うかも」
俺達は、武具屋に来ていた。
と、いうのも、俺の愛用していた鎌はどこかに置いてきてしまったので、新しい武器を買いに来ていたのだ。
替えの武器も持っていなかったわけでは無かったが、せっかくなので魔族の武具屋を見てきたが、どこも禍々しいデザインのカッコいい武器ばかり置いてあって、ぶっちゃけ興奮した。
「その剣、買っちゃいますか?」
サクトにそう訊かれ、改めて剣を眺めた。
刀身は赤みを帯びた茶色で、まるで高温で熱した銅のようだ。柄や持ち手は赤のラインの入った黒いデザインで、悪魔っぽくてカッコいい。
買って損はない……かな。
「よし、買っちゃおう! 値段は……高っ!」
俺はその値段に驚愕した。
なんと八万七千φもする。これを購入すれば財布のなかはほぼ空になる。
どうしたものか……。
「あの、ボクも少し出しましょうか?」
それは、予想だにしない提案だった。
俺が硬直していると、何故か発言者のサクトは申し訳なさそうに笑っている。
「いや、それはいくらなんでもわるいよ。それに俺、確か高く売れるアイテムもいくつか持ってたし、それ売ればお金には困らないから」
サクトは「そうですか」と、少し残念そうだ。
「……なんで会ったばかりの俺に、そこまでしてくれんだ?」
俺は胸の内にある疑問をそのままぶつけた。
サクトはきょとんとした後、俯き仄かな笑みを浮かべて淡々と喋り始めた。
「なんというか、困ってる人はなるべく助けたいというか……ボクが困ってるときは、誰にも助けてもらえなかったから、逆に、みたいな」
サクトは頬をぽりぽりと掻いた。
「……普通そういう時って、誰のことも助けたくなくなっちゃわない?」
聞いた後に、聞くんじゃなかったと少し後悔した。
そんなの個人の勝手だし、サクトの考えは間違ったものではないと思えるから、余計な口出しは不要だと思ったのだ。
しかし、出てしまったものを今更なかったことには出来ない。
「ボクは……」
サクトは壁に背を凭れた。
「ボクが誰かを助ければ、その人も誰かを助けるようになるかもしれない。そう考えたら、もう誰かを助けないなんて発想、でなくなっちゃったよ」
サクトは不器用にはにかんだ。
心の奥が、ちくちく痛い。
その痛みを振り払うように、俺は首を振った。
「すごいな。サクトは」
サクトが不意を突かれたように顔を上げた。
「俺、この剣買ってくる」
俺は逃げるように、店のカウンターへ向かった。
魔界の森にて。
「『闇よ、我が力となりて敵を穿て。シュライド』!」
俺は新たな剣で《シュライド》を放ち、目の前にいる植物モンスター《ナデッドウッズ》を斬り伏せる。
俺達の受けたクエストは、このナデッドウッズから稀にドロップするアイテム、《深緑の苦葉》を十枚集めるものだったのだ。
「コォォォアァァァ……」
奇怪な断末魔を上げ、ナデッドウッズは絶命した。
俺が大きく息を吐くと、サクトが駆け寄ってくる。
「すごいねアッシュ! 一撃なんて、レベルいくつなの? あ、勿論言いたくないなら言わなくて大丈夫だけど」
「いや、サクトになら教えてもいいよ。えっと……62、だね」
サクトの気遣いに微笑を浮かべつつ、俺はウィンドウを開いて確認し、正確な情報を伝えた。
するとサクトは、予想外の反応を見せる。
「……やさしいね。アッシュは」
「えっ?」
その呟きの真相を語ることなく、サクトは霧深いこの森の奥へ歩き出した。
数秒呆けていた俺は、我を取り戻した瞬間慌てて追った。
━━なんか、こうしてパーティで動いていると、ふたりのことを思い出しちゃうな。
リーゲルシュタイン、ワサラハ、このふたりには未だ連絡が取れていない。
何故かはわからないが、フレンド機能が消失していたのだ。故に、チャット機能も使えず、連絡手段が無くなってしまった。
「はぁ……」
俺は誰にも訊かれないように、小さくため息を出した。
息を刹那に吐きながら、まだ自らのものでない剣を振るう。
「どうですか、その剣は」
サクトに訊かれた俺は、剣の柄や刃に目をやりながら軽く頷く。
「うん。丁度良い軽さだし、手にも馴染む。今までで一番合うかも」
俺達は、武具屋に来ていた。
と、いうのも、俺の愛用していた鎌はどこかに置いてきてしまったので、新しい武器を買いに来ていたのだ。
替えの武器も持っていなかったわけでは無かったが、せっかくなので魔族の武具屋を見てきたが、どこも禍々しいデザインのカッコいい武器ばかり置いてあって、ぶっちゃけ興奮した。
「その剣、買っちゃいますか?」
サクトにそう訊かれ、改めて剣を眺めた。
刀身は赤みを帯びた茶色で、まるで高温で熱した銅のようだ。柄や持ち手は赤のラインの入った黒いデザインで、悪魔っぽくてカッコいい。
買って損はない……かな。
「よし、買っちゃおう! 値段は……高っ!」
俺はその値段に驚愕した。
なんと八万七千φもする。これを購入すれば財布のなかはほぼ空になる。
どうしたものか……。
「あの、ボクも少し出しましょうか?」
それは、予想だにしない提案だった。
俺が硬直していると、何故か発言者のサクトは申し訳なさそうに笑っている。
「いや、それはいくらなんでもわるいよ。それに俺、確か高く売れるアイテムもいくつか持ってたし、それ売ればお金には困らないから」
サクトは「そうですか」と、少し残念そうだ。
「……なんで会ったばかりの俺に、そこまでしてくれんだ?」
俺は胸の内にある疑問をそのままぶつけた。
サクトはきょとんとした後、俯き仄かな笑みを浮かべて淡々と喋り始めた。
「なんというか、困ってる人はなるべく助けたいというか……ボクが困ってるときは、誰にも助けてもらえなかったから、逆に、みたいな」
サクトは頬をぽりぽりと掻いた。
「……普通そういう時って、誰のことも助けたくなくなっちゃわない?」
聞いた後に、聞くんじゃなかったと少し後悔した。
そんなの個人の勝手だし、サクトの考えは間違ったものではないと思えるから、余計な口出しは不要だと思ったのだ。
しかし、出てしまったものを今更なかったことには出来ない。
「ボクは……」
サクトは壁に背を凭れた。
「ボクが誰かを助ければ、その人も誰かを助けるようになるかもしれない。そう考えたら、もう誰かを助けないなんて発想、でなくなっちゃったよ」
サクトは不器用にはにかんだ。
心の奥が、ちくちく痛い。
その痛みを振り払うように、俺は首を振った。
「すごいな。サクトは」
サクトが不意を突かれたように顔を上げた。
「俺、この剣買ってくる」
俺は逃げるように、店のカウンターへ向かった。
魔界の森にて。
「『闇よ、我が力となりて敵を穿て。シュライド』!」
俺は新たな剣で《シュライド》を放ち、目の前にいる植物モンスター《ナデッドウッズ》を斬り伏せる。
俺達の受けたクエストは、このナデッドウッズから稀にドロップするアイテム、《深緑の苦葉》を十枚集めるものだったのだ。
「コォォォアァァァ……」
奇怪な断末魔を上げ、ナデッドウッズは絶命した。
俺が大きく息を吐くと、サクトが駆け寄ってくる。
「すごいねアッシュ! 一撃なんて、レベルいくつなの? あ、勿論言いたくないなら言わなくて大丈夫だけど」
「いや、サクトになら教えてもいいよ。えっと……62、だね」
サクトの気遣いに微笑を浮かべつつ、俺はウィンドウを開いて確認し、正確な情報を伝えた。
するとサクトは、予想外の反応を見せる。
「……やさしいね。アッシュは」
「えっ?」
その呟きの真相を語ることなく、サクトは霧深いこの森の奥へ歩き出した。
数秒呆けていた俺は、我を取り戻した瞬間慌てて追った。
━━なんか、こうしてパーティで動いていると、ふたりのことを思い出しちゃうな。
リーゲルシュタイン、ワサラハ、このふたりには未だ連絡が取れていない。
何故かはわからないが、フレンド機能が消失していたのだ。故に、チャット機能も使えず、連絡手段が無くなってしまった。
「はぁ……」
俺は誰にも訊かれないように、小さくため息を出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる