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四話 真の実は甘美な味
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「ねぇ」
時刻は7時を少し過ぎたくらい。
外はすっかり暗くなっているが、俺達の夜が終わるには早すぎだ。
「なんだ?庭理」
庭理は頬を赤らめながら、恥ずかしそうにあることを提案した。
「お風呂、一緒に入りに行かない?」
唐突に言ったそれは、あり得ないものだった。
いや、他人から見れば普通の光景なのだろうが、俺達には事情というやつがある。
俺達の出会いのきっかけであったプールしかり、肌を露出させることは、俺達は避けてきた。
それなのに、何故、今。
「なんで今、しかも今日なんだ」
俺は思っていた疑問をそのままぶつけた。
「......今は言えない。でも、一緒に温泉に入ってくれるなら、その時に言うよ」
庭理は、険しいような寂しいような顔をしながら、前髪を弄くった。
「......分かった」
庭理は、何かしらの覚悟をした上で、俺にその事を持ちかけたのだろう。
ならば、男たるものそれに答えなければいけない。
「あのさ、ちょっと自分勝手なこというけど、先に入っててくれる?」
「あぁ」
俺はそう言い残し、着替えを持って脱衣場へ向かった。
「はぁ~」
温泉でのあまりの快楽に、俺は思わず締まりのない声を出してしまった。
すると、からんと音が鳴る。きっと庭理が来たのだろう。
俺は出入口に背を向けて入浴しているので、誰がそこにいるのかわからない。いや、あえてそうしているのだが、おそらく庭理が掛け湯をし、こっちへ向かってきてるのだろう。そういう音が聞こえた。
「庭理か?」
その問いかけをされた人物が、「うん」と答えた。
「そっち向いていいか?」
「......まだ、駄目」
まるでか弱い少女のような声で庭理が断る。
「ねぇ、目を瞑って、こっち向いて。絶対に目を開けちゃだめだよ」
俺は言われた通り、ぎゅっと目を瞑り、振り向いた。
すると、ぽちゃんと庭理がお湯に浸かった音がした。
「なぁ、今どこにいるんだ?お湯入ったんだろ?こっち向いたままでいいのか?」
その問いかけには、言葉でなく行動で返された。
「っ!?」
背中に何か柔らかいものが当たった。いや、当たったというよりは、引っ付いた。
「海斗がプールとかで肌見せなかった理由、これなんだね」
庭理が悲しそうな声で言ってきた。
「いや、それより庭理......お前......」
そこまで言うと、庭理は更に強く俺を抱き締めた。
「庭理お前、女だったのか」
俺に密着している肌が、更に熱くなった気がした。
「かいと......」
とろけるような声が、俺の鼓膜を溶かしにかかる。
「次はかいとの番だよ。ねぇ、教えて、これ」
庭理のいうこれ、というのは、俺の背中にある無数の傷のことだろう。
まぁ、背中だけでなく肩や太ももにもいくつかあるが。
きっと、庭理はこの傷について聞いてはいけないと分かっているのだろう。
正直、この傷の話は楽しいものではないし、あまり言いたくもない。
しかし、庭理も誰にも言えないような秘密を打ち明けてくれたのだ。俺だって、親友として打ち明けなければ。
「楽しい話じゃないぞ」
俺は諦めたようなため息を吐き、話始めた。
「これはクソ親父につけられたもんだ。全部な。毎日毎日ギャンブル尽くし、母さんの稼いできた金や、俺の学費のための貯金とかも全部スってくんだよ。で、ギャンブルとかで大負けしたり、そうじゃなくてもイライラしてたら蹴られたり殴られたり、ひでぇ時はカッターとかで斬られたよ。まぁ、それが一番多かったかな」
庭理が、俺の話を聞きながら、俺の背中を撫でていた。
「そういや食器とかもよく投げられてたっけ、我ながらよく生き残れたもんだよ。頭とか無意識に守ってたからかな?飯とかも雑草とかの日とか普通にあったし、ま、そんなクソみたいな生活しててさ、俺が小三の時に」
俺は一瞬、言葉が詰まった。ここから先は、さらに辛い展開になる。
しかし、俺は声を震えさせながらも語り続けた。
「俺が小三の時に、親父が......親父が包丁で母さんを......母さんを......。それで、その夜。俺も包丁で寝てる親父を......!」
「かいと、もういい」
気づけば、俺は涙の粒を大量に流していた。心臓の鼓動もかなり速い。
「ありがとう」
庭理は、感謝の言葉と共に、更に強く俺に密着した。
「こっち向いて」
そういうと、庭理は俺から離れた。
肌の温もりはまだ残っているが、大切な何かを無くしてしまったような、それに近い気分にさせられた。
そんな感傷に浸りながらも、俺は一応目を閉じたまま、庭理の方を向いた。
「目、もう開けていいよ」
胸は見ない胸は見ない胸は見ない胸は見ない胸は見ない!
そう念じながら俺は目をゆっくりと開いた。
庭理は、泣いていた。
女と分かったからか、その表情はとても儚いようなもので、可愛らしかった。美しいとさえ思えた。
俺は色々思うことを全て圧し殺し、庭理を目を見る。
「かいと......」
寂しそうな、けれども暖かい声が、俺の名を呼ぶ。
「キスしよ......」
そんな庭理に俺は......。
俺は............。
時刻は7時を少し過ぎたくらい。
外はすっかり暗くなっているが、俺達の夜が終わるには早すぎだ。
「なんだ?庭理」
庭理は頬を赤らめながら、恥ずかしそうにあることを提案した。
「お風呂、一緒に入りに行かない?」
唐突に言ったそれは、あり得ないものだった。
いや、他人から見れば普通の光景なのだろうが、俺達には事情というやつがある。
俺達の出会いのきっかけであったプールしかり、肌を露出させることは、俺達は避けてきた。
それなのに、何故、今。
「なんで今、しかも今日なんだ」
俺は思っていた疑問をそのままぶつけた。
「......今は言えない。でも、一緒に温泉に入ってくれるなら、その時に言うよ」
庭理は、険しいような寂しいような顔をしながら、前髪を弄くった。
「......分かった」
庭理は、何かしらの覚悟をした上で、俺にその事を持ちかけたのだろう。
ならば、男たるものそれに答えなければいけない。
「あのさ、ちょっと自分勝手なこというけど、先に入っててくれる?」
「あぁ」
俺はそう言い残し、着替えを持って脱衣場へ向かった。
「はぁ~」
温泉でのあまりの快楽に、俺は思わず締まりのない声を出してしまった。
すると、からんと音が鳴る。きっと庭理が来たのだろう。
俺は出入口に背を向けて入浴しているので、誰がそこにいるのかわからない。いや、あえてそうしているのだが、おそらく庭理が掛け湯をし、こっちへ向かってきてるのだろう。そういう音が聞こえた。
「庭理か?」
その問いかけをされた人物が、「うん」と答えた。
「そっち向いていいか?」
「......まだ、駄目」
まるでか弱い少女のような声で庭理が断る。
「ねぇ、目を瞑って、こっち向いて。絶対に目を開けちゃだめだよ」
俺は言われた通り、ぎゅっと目を瞑り、振り向いた。
すると、ぽちゃんと庭理がお湯に浸かった音がした。
「なぁ、今どこにいるんだ?お湯入ったんだろ?こっち向いたままでいいのか?」
その問いかけには、言葉でなく行動で返された。
「っ!?」
背中に何か柔らかいものが当たった。いや、当たったというよりは、引っ付いた。
「海斗がプールとかで肌見せなかった理由、これなんだね」
庭理が悲しそうな声で言ってきた。
「いや、それより庭理......お前......」
そこまで言うと、庭理は更に強く俺を抱き締めた。
「庭理お前、女だったのか」
俺に密着している肌が、更に熱くなった気がした。
「かいと......」
とろけるような声が、俺の鼓膜を溶かしにかかる。
「次はかいとの番だよ。ねぇ、教えて、これ」
庭理のいうこれ、というのは、俺の背中にある無数の傷のことだろう。
まぁ、背中だけでなく肩や太ももにもいくつかあるが。
きっと、庭理はこの傷について聞いてはいけないと分かっているのだろう。
正直、この傷の話は楽しいものではないし、あまり言いたくもない。
しかし、庭理も誰にも言えないような秘密を打ち明けてくれたのだ。俺だって、親友として打ち明けなければ。
「楽しい話じゃないぞ」
俺は諦めたようなため息を吐き、話始めた。
「これはクソ親父につけられたもんだ。全部な。毎日毎日ギャンブル尽くし、母さんの稼いできた金や、俺の学費のための貯金とかも全部スってくんだよ。で、ギャンブルとかで大負けしたり、そうじゃなくてもイライラしてたら蹴られたり殴られたり、ひでぇ時はカッターとかで斬られたよ。まぁ、それが一番多かったかな」
庭理が、俺の話を聞きながら、俺の背中を撫でていた。
「そういや食器とかもよく投げられてたっけ、我ながらよく生き残れたもんだよ。頭とか無意識に守ってたからかな?飯とかも雑草とかの日とか普通にあったし、ま、そんなクソみたいな生活しててさ、俺が小三の時に」
俺は一瞬、言葉が詰まった。ここから先は、さらに辛い展開になる。
しかし、俺は声を震えさせながらも語り続けた。
「俺が小三の時に、親父が......親父が包丁で母さんを......母さんを......。それで、その夜。俺も包丁で寝てる親父を......!」
「かいと、もういい」
気づけば、俺は涙の粒を大量に流していた。心臓の鼓動もかなり速い。
「ありがとう」
庭理は、感謝の言葉と共に、更に強く俺に密着した。
「こっち向いて」
そういうと、庭理は俺から離れた。
肌の温もりはまだ残っているが、大切な何かを無くしてしまったような、それに近い気分にさせられた。
そんな感傷に浸りながらも、俺は一応目を閉じたまま、庭理の方を向いた。
「目、もう開けていいよ」
胸は見ない胸は見ない胸は見ない胸は見ない胸は見ない!
そう念じながら俺は目をゆっくりと開いた。
庭理は、泣いていた。
女と分かったからか、その表情はとても儚いようなもので、可愛らしかった。美しいとさえ思えた。
俺は色々思うことを全て圧し殺し、庭理を目を見る。
「かいと......」
寂しそうな、けれども暖かい声が、俺の名を呼ぶ。
「キスしよ......」
そんな庭理に俺は......。
俺は............。
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