32 / 81
二章ー止まない街ー
32 四面楚歌
しおりを挟む
「なっ……!」
思わず声を上げてしまうのも無理はない。
俺は親方に頼まれた手紙を届けるべく、彼の従兄弟のヴェルギさん宅に来ていた。
ノックしても返事がないにも関わらず扉は空いており、中で就寝しているのかと不法侵入してみたら……。
乾いて変色した血が部屋を黒く染め上げ、その中央に中肉中背の男が倒れていたのだ。
「どうしたの?」
眉を下げ近づいてくるユズリに、押し殺した声で小さく叫ぶ。
「来るな……っ!」
小さく震えながらもその場で止まる彼女から視線を外し、室内を見回す。
男は白のタンクトップに深緑の作業服風のズボンを履いている。左手を上、右手を下向きに仰向けの状態だ。
床は勿論、壁にまでびっしり血が飛び散っており、翌々見てみると、鳥のような三又の足跡が何ヶ所かに残されている。
これは重要な手がかりになるかも……と脳内に残すようじっと見つめていると、突如ドアが勢いよく開かれた。
「ディッセル騎士団だ! 犯人め、大人しく投降しろ!」
思わず、思考が止まりそうになる。
大人しく出ていって、洗いざらい本当の事を言えば疑いは晴れ、俺達は何事も無かったかのようにこの街を出る。
そんな未来を想像するが、事態はそう簡単なものでは無い。
この惨劇はまず間違いなく、例の殺人鬼の仕業だ。それだけじゃない。調べれば何かしら分かりそうな現場にも関わらず、なんの手がかりも掴めていないというのは明らかに不自然だ。
つまり……騎士だから大丈夫という意識は排除せねばならない。
刹那にここまで思い至った俺は、自身のフードを深く被りつつ、ユズリに近づいて同じくフードを無理やり被らさせた。
そうしたところで、部屋の突き当たりから数名の騎士が顔を見せる。
「あそこだ!」
俺はユズリの手を引きながら、突き当たりの窓からーー。
「逃げたぞ、追えーっ!」
二階の窓から飛び降り、何とか上手く着地した俺達は、遮二無二走りその場から逃げ出した。
喘鳴を吐きつつも何とか撒くことに成功し、深い路地裏で一旦安堵する。
「ど、どうして逃げたの……?」
「……あの部屋に、死体があった。多分ヴェルギさんの。でも……色々おかしい所があってさ、多分だけど、犯人と騎士達は裏で繋がってる」
すると、ユズリは目を見開いて肩あたりをぐっと掴む。
「そんなわけ……!」
怒鳴りそうになるが、彼女は持ち前の自制心を持って呑み込んだ。
俺に怒る気持ちも多少は分かる。ユズリは騎士である事に誇りを感じているし、また騎士達を誇りにも思っているだろう。
ごめん。と一言だけ謝り、状況を整理する。
「でも……やっぱり変だ。部屋の中は事件後かなり時間が立っていたのに、俺達が入った瞬間騎士達が駆けつけてくるなんて」
「そうね……不法侵入するのを見かけたからだとしても、あの人数をあの短時間で集めて突入してくるのは不自然だわ」
彼女の発言に頷いたところで、俺はある事が頭に付く。
「そうだ……咄嗟に顔は隠したけど、捜査すればあそこにいたのが俺達だって直ぐにバレるぞ。変装しないと」
俺は急いで近くの古着屋に直撃し、変装用の衣服を購入した。
直ぐにこの街から脱出する事も考えたが、俺はともかくユズリは名前も身分も割れてしまっている。指名手配されればどの道どんな街にも入れなくなってしまうだろう。
つまり、俺達は国の上層部に身の潔白を示すしか無いと言う事だ。
しかしそれには幾つかの証拠が必要。その為には今後どうするか路地裏で話し合うが、ピンと来るやり方はイマイチ思いつかないでいた。
「どうしよう……手がかりも何もないよ」
僅かに焦りを見せるユズリ。それに対し俺は、腕を組んで唸り続ける。
「そうだな。あの部屋にあった重要そうなものと言えば、モンスターみたいな足跡くらいであとは何も気づけなかったし……あっ!」
とある事を思い出し、思わず声を上げる。
突然の大声に彼女のが身を震わせるが、俺は瞑っていた目を見開いてユズリの両肩を掴んだ。
思わず声を上げてしまうのも無理はない。
俺は親方に頼まれた手紙を届けるべく、彼の従兄弟のヴェルギさん宅に来ていた。
ノックしても返事がないにも関わらず扉は空いており、中で就寝しているのかと不法侵入してみたら……。
乾いて変色した血が部屋を黒く染め上げ、その中央に中肉中背の男が倒れていたのだ。
「どうしたの?」
眉を下げ近づいてくるユズリに、押し殺した声で小さく叫ぶ。
「来るな……っ!」
小さく震えながらもその場で止まる彼女から視線を外し、室内を見回す。
男は白のタンクトップに深緑の作業服風のズボンを履いている。左手を上、右手を下向きに仰向けの状態だ。
床は勿論、壁にまでびっしり血が飛び散っており、翌々見てみると、鳥のような三又の足跡が何ヶ所かに残されている。
これは重要な手がかりになるかも……と脳内に残すようじっと見つめていると、突如ドアが勢いよく開かれた。
「ディッセル騎士団だ! 犯人め、大人しく投降しろ!」
思わず、思考が止まりそうになる。
大人しく出ていって、洗いざらい本当の事を言えば疑いは晴れ、俺達は何事も無かったかのようにこの街を出る。
そんな未来を想像するが、事態はそう簡単なものでは無い。
この惨劇はまず間違いなく、例の殺人鬼の仕業だ。それだけじゃない。調べれば何かしら分かりそうな現場にも関わらず、なんの手がかりも掴めていないというのは明らかに不自然だ。
つまり……騎士だから大丈夫という意識は排除せねばならない。
刹那にここまで思い至った俺は、自身のフードを深く被りつつ、ユズリに近づいて同じくフードを無理やり被らさせた。
そうしたところで、部屋の突き当たりから数名の騎士が顔を見せる。
「あそこだ!」
俺はユズリの手を引きながら、突き当たりの窓からーー。
「逃げたぞ、追えーっ!」
二階の窓から飛び降り、何とか上手く着地した俺達は、遮二無二走りその場から逃げ出した。
喘鳴を吐きつつも何とか撒くことに成功し、深い路地裏で一旦安堵する。
「ど、どうして逃げたの……?」
「……あの部屋に、死体があった。多分ヴェルギさんの。でも……色々おかしい所があってさ、多分だけど、犯人と騎士達は裏で繋がってる」
すると、ユズリは目を見開いて肩あたりをぐっと掴む。
「そんなわけ……!」
怒鳴りそうになるが、彼女は持ち前の自制心を持って呑み込んだ。
俺に怒る気持ちも多少は分かる。ユズリは騎士である事に誇りを感じているし、また騎士達を誇りにも思っているだろう。
ごめん。と一言だけ謝り、状況を整理する。
「でも……やっぱり変だ。部屋の中は事件後かなり時間が立っていたのに、俺達が入った瞬間騎士達が駆けつけてくるなんて」
「そうね……不法侵入するのを見かけたからだとしても、あの人数をあの短時間で集めて突入してくるのは不自然だわ」
彼女の発言に頷いたところで、俺はある事が頭に付く。
「そうだ……咄嗟に顔は隠したけど、捜査すればあそこにいたのが俺達だって直ぐにバレるぞ。変装しないと」
俺は急いで近くの古着屋に直撃し、変装用の衣服を購入した。
直ぐにこの街から脱出する事も考えたが、俺はともかくユズリは名前も身分も割れてしまっている。指名手配されればどの道どんな街にも入れなくなってしまうだろう。
つまり、俺達は国の上層部に身の潔白を示すしか無いと言う事だ。
しかしそれには幾つかの証拠が必要。その為には今後どうするか路地裏で話し合うが、ピンと来るやり方はイマイチ思いつかないでいた。
「どうしよう……手がかりも何もないよ」
僅かに焦りを見せるユズリ。それに対し俺は、腕を組んで唸り続ける。
「そうだな。あの部屋にあった重要そうなものと言えば、モンスターみたいな足跡くらいであとは何も気づけなかったし……あっ!」
とある事を思い出し、思わず声を上げる。
突然の大声に彼女のが身を震わせるが、俺は瞑っていた目を見開いてユズリの両肩を掴んだ。
1
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる