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勇崎シュー

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二章ー止まない街ー

53 大事件

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「……あ、そういえば、フウマは? また離れる前に、話くらいしたいんだけど」

 何故か彼の名を出すと、彼女はその手を止め何やら良くない雰囲気を醸し出すのだった。

「あれ、どうしたの?」

 率直に聞くと、ユズリは何でもないように微笑を浮かべ振り向く。

「フウマはね。昨日街を出て行っちゃったの。タクマによろしくって言ってたよ」
「え、何だよ。俺が寝てる間に行っちゃったのかぁ」

 後ろ手に組み、天井を見つめながら呟くと、彼女は僅かに脱力する様子を見せる。

「……で、ホントは?」

 俺の一言に、ユズリはびくりと身体を震わせた。

「え、何が?」

 彼女の返答に、俺はジト目で見つめる。

「なんか隠してるだろー」

 お互い探り合うように見つめ合っていると、観念したのかユズリが目を瞑り長く息を吐く事で静寂は潰えた。

「うん。ごめん。隠してる事がある。けど……」

 彼女が小さく俯いてから、顔をこちらに向け近づいてくる。
 そして、ベッドの真横に来た所でずいっと顔を寄せてきた。

「お願い、約束して。傷がちゃんと治るまで、この街に居るって」

 女性の顔がすぐ目の前にあるという未曾有……では無く確か王城でもこんな事があったが、兎も角予期せぬ大事件により頭が半ばショートした為、ろくに考えもせず目を逸らしながらうんと頷く。
 ユズリは安心したように体勢を戻すと、一度虚空を流し見てから話し始めた。

「……実はね、フウマがこの街から出て行ったのは、あるものを見たからなの」

 あるもの? と俺が頭にハテナマークを浮かべていると、彼女はいそいそとバッグから何かの紙切れを取り出す。
 無言で俺の前に持ってくるので、反射的に受け取り見てみると、どうやら新聞の一部であることが分かった。

「えっと……っ!?」

 それとなく異界の文を追っていくと、とある記事に目が止まる。

 その記事の見出しは……“勇者ショーゴ。何者かの襲撃により意識不明”というものだった。

「う、うそだろ……?」

 ショーゴ。勇者であり、王城が襲撃された時俺達を助けてくれた命の恩人でもある。
 どこか抜けている所もあるが、少し会話しただけで悪い奴では無いと思えたし、何よりその強さは俺やフウマに決して劣らない筈だ。

 そんな奴が、何故、誰に……?
 何より、勇者を倒したという事は、次の標的はフウマか……俺?
 唇と両手が震えた後、強い使命感に駆られ新聞を叩きつけるように置いてからベッドから出ようとする。

「だ、だめ!」

 ユズリに肩を抑えられると、情けない事に傷の痛みも相まって動けなくなった。
 何より無理に彼女を退けて駆け出すのは愚行だと悟ったので、一旦抵抗せずに腰を下ろす。
 が、その瞬間シーツが滑ってしまった。

「おわっ!」
「あっ……!」

 それにより、ベッドの上でユズリが俺に乗っかる形となってしまう。
 彼女の息遣い、重み、体温が感じられて、二次元女子を愛でるのとは全く違う感覚が脳内を支配していく。
 年頃の男子たる俺がこの状況に無反応でいられる訳もないが、今はそんな時じゃない! と必死に自分に言い聞かせて、いつしか握ってしまっていた彼女の手を離した。
 これでユズリはいつでも起き上がれるワケだが、不思議な事にそうせずにいる。

「タクマ……」

 彼女に名を呼ばれ、何とも言えない感情が湧き上がってくる。
 それこそ、ゲームでキャラクター達が架空の俺の名を呼んでくれるのとは別次元の喜び、とでも言えばいいのか。
 このまま使命と我を忘れて彼女に抱きついてしまおうか、という雑念が脳を過ぎるが、左手で確りシーツを握り抑制する。
 高鳴る心音、荒くなる呼吸、そして恐らく紅くなっているだろう顔を出来る限り抑えて、何とか一言絞り出す。

「あ、あの……恥ずかしい、んだけど…………」

 俺の言葉に、ユズリはぴくっと身体を揺らしてから慌てて起き上がる。

「ご、ごめんなさい!」

 謝る彼女に対し、俺は一旦身体をベッドに戻し、下半身にしわくちゃにした毛布をかけた。
 暫く無音の時間が続いた所で、ユズリが唐突に口を開く。

「私だって、ショーゴの事は心配だよ。でも、タクマが無理して取り返しのつかない事になるのは、もっと嫌だから」

 彼女が俺の身を案じてくれているのは、素直に嬉しかった。だが、俺の胸の中に、小さな危惧が生まれ消えないのもまた事実なのだ。

「……あいつ、仇討ちとか考えてなきゃいいけど」

 呟いた後に、ユズリに顔を合わせる。

「ねぇ、俺の傷が癒えるまで、後何日かかる?」

 この問いに対し、彼女は直ぐに答えてくれた。

「明後日までは安静にしてほしい、かな」

 それを聞いた俺は、直ぐに決心する。

「分かった。じゃあ傷が治り次第、ショーゴの所へ向かおう」
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