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二章ー止まない街ー

54 二日後

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 止まない街レアルでは、相も変わらず雨が振り続けている。
 そんな雨音のメロディを聞きつつ、俺は借りている宿の一室で、鏡の前に立っていた。
 鏡と言っても俺の世界のものほど精巧では無く、映る姿はややグレーだがそれでも無いよりはマシだ。
 俺は目の前の包帯塗れの自身を眺めつつ、生唾を呑み込んで包帯を取る。

 目線を身体から鏡に移すと、そこに居たのは傷だらけの上裸の男だった。
 左肩からへそ近くまで痛々しい傷が残り、脇腹付近にも点状の傷跡が刻まれている。
 そんな自分の身体を見て、意外な事に酷い喪失感に苛まれた。
 特にこの体を気に入っていた訳では無いのに、何故こうも切ない気持ちになるのだろうか。
 やはり、もう二度とこのキズのない身体に戻れないからだろうか。

「タクマぁー。……あ」

 考え事をしていると、ノックも無しにユズリが入室してくる。
 直ぐに謝って出て行くかと思ったが、彼女は予想外の行動に出た。

「そうだよね。傷、残っちゃったよね……」

 ユズリは俺の左前に立つと、縦に刻まれた傷に指を這わせた。
 申し訳なさそうに口を結ぶ彼女に対し、俺は小さく首を振る。

「ユズリのせいじゃないんだからさ、そんな気にしないでよ。それより、そっちだってかなり傷負ってたでしょ。大丈夫だったの?」

 男の俺なんかより、女性であるユズリの方がずっと痕を気にするハズだ。
 そう思っての発言に、彼女は左手で自らの身体を抱いた。

「いや、私は元々傷だらけだからさ、いいんだ」

 声色は確かに明るげだったが、表情が晴れていない辺りやはり気にしているのだろう。
 過去の傷は騎士時代のものだと思われるが、その仕事を選んだのは彼女自身だ。
 そういえば、何故ユズリは傷を負うと分かっていて騎士の道を選んだのだろう。センシティブな話題なので避けてきたが、そろそろ聞いても良いのでは無いだろうか。

「あの、さ。ユズリはどうして騎士になったの? 辛い事だっていっぱいあるだろうに」

 俺の質問に、彼女は目を丸くしつつ答えた。

「実はね、昔モンスターに襲われたことがあって……その時、凄く強い騎士の人に助けてもらったの。アルティっていう有名な人なんだけど、タクマは知らないかな」

 実際全く存じ上げない人だったので、申し訳なさそうに首肯する。

「えっと、それから助けてもらった日の事が忘れられなくて、いつの間にか騎士になりたいって思うようになったの」

 彼女の言葉を聞いて、素直に感嘆した。
 この時代では女性が騎士を目指すのはかなり稀なハズだ。
 そんな中、自らの目標を追い見事エリート騎士として成り上がった。
 きっと並々ならぬ努力の結果なのだろうと、改めて彼女に尊敬の眼差しを贈る。

「やっぱり凄いな。ユズリは」

 それに比べ、俺はまだまだだ。
 こんなチート能力を貰っておいて、彼女に新たな傷を負わせてしまった。
 もっと、もっと精進せねば。

「でも、タクマもさ、嫌だよね。身体中傷だらけの女なんてさ」

 何の話をしているんだろうと彼女に顔を向けると、何やら苦い顔を浮かべていた。
 そんなユズリに向け、俺は本心を語る。

「なぁに言ってんだよ。その傷はどれもユズリが戦ってきた証でしょ。俺はかっこいいと思うけどね」

 そうだ。常に何かから逃げてきた俺と違って、挑み続けてきた彼女は格好良いのだ。
 俺のそんな言葉を受け、彼女は顔を背けた。あれ、イマイチ伝わらなかったかな。と思うも、すぐに「ありがと……」と返ってくる。

「さ、俺の傷も大体完治したし、ショーゴの顔でも見に行ってやるか」

 不安や心配といった感情に一旦蓋をし、無理やり活気を掘り起こす。

「うん。レジスタンスの皆に挨拶したら、出発しよっか」

 気持ち新たに、俺たちは顔を見せあって頷いた。


 待ってろよショーゴ。
 顔を引き締め、胸中で強く想った。
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