境界線の向こう側 〜主従のはじまり〜

ゆずる先生

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第8章 ダリの時計

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~~ 記憶の固執が溶け始める時間 ~~
~~ 茶褐色の瞳に映る真実の姿 ~~
~~ 声なき声で告白する従順の歌 ~~

「確かに美しいですね」

背後から聞こえた声に、わたしは振り返った。そこには野崎が立っていた。薄いグレーのセーターに紺のジャケット。彼の存在に気づいた瞬間、心臓が早鐘を打ち始めた。まるでわたしの思考が呼び寄せたかのような、あまりにも偶然すぎる出会い。

「野崎さん」わたしは少し上ずった声で言った。「なぜここに?」

「クリムト展を見に来たんです」彼は微笑んだ。「佐々木さんは?」

「わたしも...」言葉が続かない。本当はここに来る前に、野崎との思い出の場所を辿っていたなんて言えるだろうか。銀座の公園で赤いノートに書いた文章のことを思い出し、頬が熱くなった。

「不思議な偶然ですね」野崎は穏やかに言った。「以前もモネ展でお会いしましたから。あの時は睡蓮の前でしたが、今度はクリムトの『接吻』の前で」

彼の言葉に、わたしは胸がきゅっと締め付けられた。あの日の出会いがすべての始まりだった。モネの「睡蓮」の前で、境界について語り合った午後。それから始まった不思議な旅路が、今このクリムトの前へとわたしを導いてきたのかもしれない。

「美術館でお会いするのが、わたしたちの運命なのかもしれませんね」野崎は微かに笑みを浮かべながら続けた。「芸術が結ぶ縁というものがあるとすれば」

野崎は「接吻」の絵に視線を戻した。その横顔は、いつものように知的で落ち着いている。

「クリムトの代表作の一つですね」野崎は静かに言った。「永遠の愛を金色で表現している。とても象徴的な作品です」

わたしは改めて絵を見つめた。金色に包まれた二人の姿。女性の恍惚とした表情。男性の包み込むような姿勢。でも、わたしが感じ取ったのは永遠の愛だけではなかった。この女性の穏やかな表情に、別の美しさを見出していた。

「この女性の表情...」わたしは躊躇いながら口を開いた。「とても安らいでいるように見えます。深い信頼から生まれる、特別な平安のような」

野崎の表情が変わった。わたしの言葉に何かを見出したような、鋭い視線がわたしを捉えた。

「愛情の表現として、とても美しいものを感じます」わたしは頬が熱くなるのを感じながらも、続けた。

「どのような美しさですか?」野崎が静かに尋ねた。

言葉にするのが難しい、複雑な感情が胸の中で渦巻いている。どう表現すれば、この絵から受ける印象を正確に伝えられるだろう。

「昨日、京本さんの画廊で見た『服従の悦び』という作品と、どこか通じるものを感じます」わたしは慎重に言葉を選びながら答えた。

「描かれ方は全く違うのに、根底にある感情というか...完全な信頼に基づいて自分を預けることの美しさが共通しているような気がします。導かれることで見つける、新しい自分の姿のような」

野崎の目に深い満足の光が宿った。彼の表情には、わたしの言葉に対する驚きと悦びが浮かんでいる。

「素晴らしい洞察です」野崎の声には明らかな称賛が込められていた。「クリムトと現代の抽象画では表現手法は全く異なりますが、描かれているのは同じ人間の本質的な欲求。信頼に基づく完全な自己の委譲、そしてそれによって得られる至高の解放感。佐々木さんは、芸術の表層を超えて、その根底にある永遠のテーマを感じ取られた。それは並大抵の感性ではできないことです」

野崎の言葉に、わたしの胸は温かな充足感で満たされた。認められる悦び。それも、ただの社交辞令ではない、心からの評価だということが伝わってくる。野崎の目に宿る満足そうな光を見つめていると、彼の期待に応えられたという実感が、身体の奥底から湧き上がってくる。こんな風に誰かに深く理解されたことがあっただろうか。わたしの感性を、これほど的確に見抜いてくれる人がいただろうか。

「他の作品も見てみませんか?」野崎が提案した。

わたしたちは他の作品も静かに巡り歩いた。『ダナエ』の官能的な女性の姿、『ユディト』の恍惚とした表情。いくつかの作品を見て回った後、野崎が口を開いた。

「どの絵にも共通するものがありますね」

「共通する...?」

「境界が曖昧になる瞬間です」

わたしは黙って頷いた。確かにクリムトの女性たちは皆、自分の内なる欲望に素直になっているように見える。その表情にはある種の解放感さえ感じられた。

展示を一通り見終えると、わたしたちは静かに美術館を後にした。

美術館を出ると、七月の午後の陽光が街を照らしていた。歩道を歩く人々の影が長く伸び、街路樹の葉が風に揺れている。カフェのテラス席では、人々がゆったりと時間を過ごしていた。日曜日の午後らしい、穏やかな都市の風景。しばらく並んで歩いた後、野崎が足を止めた。少し躊躇するような間があった。

「佐々木さん」彼は一度視線を落とし、それから改めてわたしを見た。「もしよろしければ...わたしの家にいらっしゃいませんか?」

心臓が跳ね上がった。野崎の家。それは今まで想像したこともない場所だった。彼の私的な空間に招かれるということの意味。それは新たな関係性への入り口のような気がした。

「お時間は大丈夫ですか?」彼は丁寧に尋ねた。

わたしは目を見開いたまま、一瞬言葉を失った。喉が渇き、呼吸が浅くなる。この誘いを受けることが、二人の関係を決定的に変えてしまうような予感があった。けれど同時に、断るという選択肢は最初から存在していなかった。

「は...」声が震えている。「はい」

ようやく絞り出した返事は、躊躇と決意が入り混じったものだった。この機会を逃したくないという気持ちが、戸惑いを上回っていた。

野崎の表情に、微かな安堵の色が浮かんだ。それは一瞬のことだったが、わたしには見逃せなかった。彼もまた、わたしの返事を待っている間、緊張を感じていたのかもしれない。その人間らしい一面を垣間見ることで、わたしの心も少し軽くなった。

そして野崎は、いつもの落ち着いた様子を取り戻すと、慣れた足取りで住宅街の方向へと歩き始めた。

「よくこの美術館には来られるんですか?」わたしは話しかけた。

「ええ、家が近いので。特に印象派と象徴主義の展示は必ず見に行きます」野崎は答えた。「芸術は人間の深層心理を映す鏡のようなものですから」

歩きながら、わたしは野崎がどんな場所に住んでいるのか想像していた。おそらく洗練された、落ち着いた空間だろう。彼の雰囲気からは、派手さより深みのある美しさを好む人物像が浮かんでくる。

「そういえば」野崎がふと立ち止まった。「赤いノートはいかがですか?」

その質問に、わたしの頬が一気に熱くなった。昨夜書いた内容、今朝公園のベンチで加えた告白。それらすべてが恥ずかしさとなって押し寄せてくる。

「使っていただけてますか?」彼は優しく尋ねた。

「はい」わたしは小さく答えた。「正直に、と言われた通りに書いています」

野崎は穏やかな眼差しでわたしを見た。「それは良かった。後でぜひ見せていただきたいです」

その言葉に、わたしは凍り付いた。赤いノートの中身を野崎に見せる?正直に赤裸々に書いたあの文章を。想像しただけで身体の芯が熱く火照った。

しかし野崎はそれ以上触れず、また歩き始めた。静かな住宅街を進み、やがて落ち着いたマンションの前に着いた。「こちらです」と野崎は言って、エントランスのオートロックを開けた。

エレベーターで上階に向かいながら、わたしは緊張で手のひらが汗ばんでいるのを感じた。野崎の私的な空間に招かれるということ。それは彼の世界に足を踏み入れることで、二人の関係が新しい段階に入るような気がした。

ドアを開けると、想像していた通りの洗練された空間が広がっていた。白い壁、ダークブラウンの床、必要最小限の家具。そして壁には数枚の絵画が掛けられていた。

野崎が靴箱の上にある鍵を置きながら「どうぞ」と言うと、わたしたちはリビングに入った。まず目に飛び込んできたのは、一面を占める大きな本棚だった。

「すごい蔵書ですね」わたしは思わず呟いた。

本棚には文学、哲学、美術書、心理学書、そしてIT関係の技術書が整然と並んでいる。ドストエフスキーの全集、カフカ、プルースト、ボルヘス。哲学書ではニーチェ、フーコー、バタイユ。美術書にはクリムト、ダリ、シュルレアリスム関連の大型本。心理学の棚には、ユング、フロイト、そして人間関係論に関する専門書。そして一角には、システム設計、AI、プログラミングアーキテクチャに関する専門書が並んでいた。

「興味のあるものがあれば、どうぞ手に取ってください」野崎はキッチンに向かいながら言った。「お茶を入れましょう。佐々木さんは紅茶でよいですか?」

「はい、紅茶をお願いします」

野崎がわたしの好みを覚えていてくれたことに、小さな悦びが胸に宿った。これまでのカフェや美術館での会話の中で、わたしが紅茶を選んでいたことを、彼は静かに記憶していてくれたのだ。些細なことかもしれないが、そうした細やかな気遣いに、言葉にできない温かさを感じた。

わたしは本棚に近づき、背表紙を眺めた。『権力への意志』『エロスと文明』『愛の技法』『支配と服従の心理学』。一冊の薄い本に手が止まった。ミシェル・フーコーの『性の歴史』。

「フーコーは興味深い思想家ですね」キッチンから野崎の声が聞こえた。「特に権力と欲望の関係について、彼の洞察は鋭い」

「権力と欲望...」わたしはページをめくりながら呟いた。

「権力は単に抑圧するものではなく、快楽を生み出すものでもある、というのが彼の考えです」湯を沸かす音と共に野崎が説明した。「支配と服従の関係も、一方的な力の行使ではなく、両者が共に自己の存在意義を見出す相互作用なのです」

わたしは本を閉じ、別の一冊を手に取った。バタイユの『エロティシズム』。

「バタイユもお気に入りの一人です」野崎が言った。「彼は禁忌を破ることの官能性について書いています。日常の秩序を一時的に破綻させることで得られる、特別な感覚について」

「禁忌を破ること...」わたしは小さくつぶやいた。最近の自分の体験と重なる言葉だった。

やがて野崎がトレイを持ってリビングに戻ってきた。繊細な花柄の白いカップに紅茶、黒いカップにはコーヒーが注がれている。

「ありがとうございます」わたしは本を本棚に戻し、ソファに座った。

野崎はわたしの向かいに腰を下ろし、トレイをテーブルに置いた。わたしは紅茶カップを受け取った。アールグレイの上品で繊細な香りが立ち上る。

そのとき、野崎の後ろの壁に掛けられた一枚の絵に目が止まった。

「あれは...」

「ダリの『記憶の固執』の複製画です」野崎は答えた。「時計が溶けている、あの有名な作品ですね」

「不思議な魅力がありますね」わたしは答えた。

「『記憶の固執』は1931年の作品です」野崎は説明した。「ダリは夢と現実の境界を描くことで有名ですが、この作品では時間の概念そのものを問い直しているんです」

「ダリという人は興味深い人物でした」野崎はコーヒーを一口飲んでから続けた。「彼は自分の無意識を意図的に作品に反映させた。狂気と正気の境界線で、芸術を創り出していたんです」

わたしも紅茶に口をつけた。芳醇な香りが口の中に広がる。

「ダリの人生で最も重要だったのは、妻のガラとの関係でした」野崎の声が少し低くなった。「ガラはダリより10歳年上で、最初は別の男性の妻だった。しかしダリと出会い、彼女の人生は変わりました」

わたしは黙って聞いていた。野崎の話し方には、どこか意味深な響きがある。

「ガラはダリのミューズであり、同時に精神的支配者でもありました。ダリは彼女なしには創作ができなかったと言われています」

「精神的支配者?」わたしは思わず聞き返した。

「ええ」野崎は微笑んだ。「ダリは自分の才能を認識していましたが、それを世に出すための方向性を見つけられずにいた。ガラが現れることで、彼は自分の本質を発見できたのです。導かれることで真の自分になれた、と言えるかもしれません」

その言葉に、わたしの胸が締め付けられた。導かれることで真の自分になる。それは野崎がわたしに示唆していることと同じではないか。

カップを両手で包みながら、わたしは野崎の言葉を咀嚼していた。時計の針が確実に時を刻んでいるのに、この部屋にいると時間の感覚が曖昧になる。まさにダリの絵のように。

「佐々木さん」野崎がカップを置いた。「あのノートを見せていただけませんか?」

わたしの手が止まった。ついにその時が来た。「でも...とても恥ずかしいことも書いてあります」

「構いません」野崎の目は優しかった。「あなたの正直な気持ちを知りたいんです」

震える手でバッグからノートを取り出した。赤い革が手のひらに馴染んでいる。これを野崎に渡すということは、わたしの心の内を完全に曝け出すということだった。

野崎は丁寧にノートを受け取り、ページを開いた。わたしは視線を落とし、紅茶カップを両手で握りしめた。彼がわたしの文字を読んでいる時間は、永遠のように感じられた。

しばらく沈黙が続いた後、野崎が口を開いた。

「とても正直に書かれていますね」彼の声に批判的な響きはなかった。「特にこの部分」ページをめくる音がした。「『誰かに導かれることを求めているのかもしれない』という箇所。あなたの本質が表れています」

わたしは顔を上げることができなかった。

「もう一つ質問があります」野崎は言った。「昨夜の体験について書かれた部分ですが、その時何を考えていましたか?」

頬が燃えるように熱くなった。「わたし...その...」

「正直に答えてください」

深く息を吸って、わたしは答えた。「野崎さんのことを考えていました。野崎さんに見られているような気持ちで」

「なるほど」野崎は静かに頷いた。「準備が整いつつありますね」

「準備...ですか?」わたしは戸惑いながら尋ねた。

野崎は長い沈黙の後、ゆっくりと立ち上がった。コーヒーカップをテーブルに置く音が、静まり返った部屋に小さく響く。彼は窓際に向かい、しばらく外を眺めていた。背中越しにも、決断を固めようとしている緊張感が伝わってくる。

やがて野崎は手を伸ばし、静かにカーテンを閉めた。午後の光が遮られ、部屋は薄暗くなった。まるで外界から切り離されたような、密室の静寂が生まれる。

野崎はゆっくりと振り返った。その表情は、今まで見せていた優しい微笑みとは全く違っていた。その目には、これまで見たことのない真剣さが宿っていた。まるで仮面を脱ぎ捨てたかのような、彼の本質的な部分が現れているように感じられた。

わたしは息を呑んだ。空気が変わった。部屋の温度が下がったような、それでいて何かが熱を帯び始めたような。ダリの溶けた時計のように、現実の輪郭がぼやけていく感覚。

野崎はゆっくりとわたしに近づいてきた。一歩、また一歩。その足音が心臓の鼓動と重なり合う。彼がソファの前に立つと、わたしは自然と彼を見上げることになった。上から見下ろす野崎の視線に、言いようのない圧迫感を感じる。

「佐々木さん」

その呼びかけ方さえ、いつもとは違っていた。声が一段と低く、深く、まるで魂の奥底から響いてくるような響き。

わたしは唾を飲み込んだ。喉が渇いている。心臓が早鐘を打っている。

「わたしが」

野崎の言葉がゆっくりと部屋に響く。一語一語が重みを持って、わたしの心に刻み込まれていく。

「あなたのことを」

時間が止まったような感覚。野崎の黒い瞳がわたしを見つめている。その視線から逃れることができない。

「好きに使っていいですか?」

その言葉の瞬間、わたしの中で何かが決壊した。「好きに使う」という表現に、人としての尊厳を完全に預けることの悦びを感じた。野崎になら、すべてを委ねたい。人としてではなく、彼の意のままになる存在として扱われたい。その欲求が胸の奥から激しく湧き上がってきた。

長い沈黙が部屋を支配した。時計の秒針が刻む音だけが聞こえる。野崎の問いかけが空気の中に漂い、わたしの答えを待っている。

わたしの喉が渇いていた。唇が震え、声が出そうで出ない。心の中では答えが決まっているのに、それを声に出すことの重大さに圧倒されていた。

野崎はじっと待っていた。急かすことなく、ただ静かにわたしを見つめている。その眼差しには慈愛と厳格さが同居していて、わたしの内側の葛藤をすべて理解しているかのようだった。

「はい」

ようやく口から出た言葉は、かすれていた。

「はい...」

もう一度、今度は少しだけはっきりと。それでも震え声だった。

深く息を吸い、わたしは野崎の目をまっすぐに見つめた。この瞬間こそが、境界線を越える瞬間なのだと理解していた。

「野崎さんが」声が途切れる。「野崎さんがしたいことを」最後の言葉を紡ぐ前に、一瞬の躊躇、部屋に静寂がよぎる。

「わたしにしてほしいです」

言い終えた瞬間、全身の力が抜けるような感覚があった。ついに口にしてしまった。自分でも信じられない言葉を。

その瞬間、野崎の表情が変わった。今まで見せていた真剣な表情さえも超越する、絶対的な威厳を持った眼差しがわたしを捉えた。まるで別人のような変化。彼の中に眠っていた支配者としての本質が顕現したかのようだった。
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