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帝都武闘大会編
第 三百十八話 密室の選考(後編)
しおりを挟む「ほう。何をするつもりなのかはわからんが、真剣なのはわかった。安心しろ。それは保証する。漏らせば重罪に科されるのでな。不安なら私の名も加えるが?」
「いえ。そこまでは必要ありませんよ」
口約束とはいえそれで十分。それを聞いたヨハンは安心する。そして薄く笑った。
「では、後で文句を言われるのも僕としても困りますので、四人同時でお願いします」
兵士たちは途端に憤慨する。顔を真っ赤にしていた。
「……引くなら今の内だが?」
とは言うものの、ブラスター将軍にも止める気はない。いくらなんでもここまで部下を馬鹿にされれば怒るなという方が無理というもの。流石に自信過剰が過ぎる、と。一度痛い目に遭ってもらおうかとも考える。
女性魔導士はその動向を見てあわわと慌てふためいており、事が終わればすぐに治療に入ろうともう既に魔力を練り始めていた。
「大丈夫です」
「よし。二言はないな。お前ら、聞いたな?」
ヨハンに見えないよう目線に意図を込める。遠慮はいらない、と。
「もちろんです隊長!」
「自分らですぐに終わらせます」
「早い者勝ちだぞ!」
既に兵たち四人ともに臨戦態勢。我先にという気概が見られた。
「待て。最低限の礼は尽くせ」
しかしブラスター将軍が制止する。そこは形式通り相手の準備が整うのを待った。
(どうせなら不意打ちでも良かったんだけどな。その方が印象的だろうし)
いつ仕掛けられても問題はなかったのだが、そのまま壁際に立て掛けられていた訓練用の木剣を取りに行く。
「それでいいのだな?」
木剣を手にして軽く一振りすると、そのままゆっくりと歩き部屋の真ん中にヨハンが立った。
「はい。問題ありません」
無造作に片手で剣を構え、準備が出来たということを行動で示す。
「では。これより予選を開始する。方式は一対四」
兵士たちもヨハンと対峙するように歩いて相対した。
「では…………、始めッ!」
力強くブラスター将軍の声により開始の合図が出される。
「おおぉぉぉぉっ!」と一斉に声を発しながら骨の数本を砕くつもりでヨハンに向かい襲い掛かった。
(……大体想定内だね)
動き自体は単純そのもの。真っ直ぐ一直線。目立って特筆すべき点もない。
(だったら)
兵士達の動きを冷静に見定め、迫りくる兵達の間をすり抜けながら自身の木剣で兵の木剣を叩いていく。
「なっ!?」
「は?」
「え?」
「なに!?」
カランカランと音を立てて床に落ちる木剣。今しがた何が起きたのか理解できずに信じられないといった様子で自分達の手を見た。
それを見ていたブラスター将軍も驚愕し、治癒魔導士の女性も目を丸くしている。ニーナはその様子をニコニコと見ていた。
「い、今のはまぐれだッ!」
兵の一人が慌てて木剣を拾い、声を荒げるとすぐさまヨハンに向かって走り出す。
ハッと我に返った他の兵士もそれに続いた。
「待てッ! お前たちっ!」
急いで声をかける。
驚愕したのだが、ブラスター将軍には何が起きたのか理解していた。最初の一合ですぐにヨハンの自信の根拠を理解し、兵士たちに止まるように声を掛けたのだが時すでに遅し。
「……やっぱりそうなるよね。じゃあ次は僕から仕掛けるよ」
兵士たちがヨハンに向かおうとする刹那にそう小さく呟いていた。
ブラスター将軍の声が兵士たちに届くその瞬間には既にヨハンと兵たちは交差している。
「ぐふっ」
「ぐぇっ」
「あぐっ」
「がっ」
バタバタと倒れる兵達の背後に立つヨハン。
すれ違いざまそれぞれの急所に一太刀ずつ浴びせていった。
「これで僕は本戦に進めますよね?」
余裕を持った結果。
確認するように無邪気な笑顔をブラスター将軍に向ける。圧倒的な実力差はこれで示したつもり。最初の説明の通りであるならば異論の余地を挟ませるつもりはない。
「あ、ああ。大丈夫だ。すまないが栄誉騎士殿の名を改めて聞かせてくれまいか? 名前を失念してしまっていてな」
「ヨハンです」
「家名はないのだったな?」
これだけの実力ある者など貴族家にはいないはず。およそ想定以上の実力。
「はい。僕の両親は狩人ですので」
確かにヨハンの知る両親はその通り。
だが答えた直後、内心では若干違うなとも考えたのだがわざわざ言い直す必要もないかと考えた。
「なるほど。良かった」
「じゃあこれで失礼しても?」
「ああ」
何が良いのかよくわからなかったのだが、予選はこれで終えている。
ブラスター将軍からすれば、どこかの貴族の関係者でなければ問題ないということ。もしそうであれば今後色々と問題が起きかねない。
「結果は後で通知がいくはずだがヨハン殿の本戦進出は私が責任を持って確約する」
「ありがとうございます」
「では本戦での健闘を祈る」
「はい」
入口の受付の男の目がヨハンに恐れを抱いている中、部屋を出ようとしたところでブラスター将軍が口を開いた。
「それと部下がすまなかった。それだけの実力があるのなら納得だ」
「いえ、こちらこそ妹が生意気言ってすいませんでした」
「お嬢ちゃんは妹だったか。ならば相当な実力者なのか?」
ブラスター将軍は見定めるようにニーナを見る。
「はい。僕に負けない強さです」
「ならば予選を受けるか?」
「あたしはいいよ。めんどくさいし。目的はお兄ちゃんの優勝だしぃ」
「そうか? それは残念だがヨハン殿の試合が見れるだけでも良しとするか。俄然観戦が楽しみになった」
貴族連中の思惑が交錯するめんどくささを感じていた中で違った楽しみを見つけた。
「では失礼します」
「ばいばーい」
入口の係員が呆気に取られてヨハンとニーナを見送り、女性魔導士は時が止まったかのように固まっている。部屋が閉まるバタンという音で我に返り、自分が今何をしなければいけないのかということを思い出して倒れた兵士たちの治療に向かった。
「あれほどの強さ、もしかすると剣聖ラウル様の少年時代に比肩するやもしれんな」
部屋に残ったブラスター将軍は誰にも聞こえない声でそう呟く。
「良かったねカレンさん」
無事予選突破したことにニーナはカレンに笑いかけた。
直後、ゴンッと鈍い音が廊下に響く。
「いったぁ! 何するのさカレンさん!」
「当たり前でしょ! あなたは相変わらずね。もう少し発言には気をつけなさい! ヨハンが上手く利用したから良かったのよ」
「カレンさん。気付いていたんですね」
「もちろんよ。あれぐらいすれば誰にも文句は言われないわ」
たとえブラスター将軍がヨハンの予選通過を承諾したとしても言いがかりをつけられないとも限らない。
実際のところ、観衆の目に晒されない予選が一番の難関だった。ヨハンを予選落ちにされ、何かとこじつけられて言い逃れられてしまう可能性がある。
「まぁとにかくこれであとは本戦ね。問題はここからよ」
「はい。任せてください」
「もちろん信じていないわけじゃないわ。ただ……」
僅かに表情を落とすカレン。
「どうかしましたか?」
「いえ。何でもないわ。いきましょうか」
さっさと歩いていくカレンの後ろ姿を見送りながらヨハンとニーナは疑問符を浮かべて首を傾げるのだが、カレンがどうにも腑に落ちないのは兄アイゼンのことが脳裏を過っていた。
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