S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験 二学年編

第四百六十二話 閑話 賢者パバール(中編)

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「いかにも。かつてはそう呼ばれていたが、今となっては私の存在など書物に少し残る程度だろうな」

ガルドフの問いに対して賢者パバールは肯定する。
賢者と呼ばれる存在、それは魔法に著しく長けたものが得られる称号。しかしパバールという賢者は見識の広いガルドフであっても聞いたことがない。

「申し訳ないが、少し話をさせてもらえぬか?」
「そうじゃな……――」

パバールは未だに視線を逸らし続けるシルビアをジッと見た。

「――……これが全くの初対面の者達ばかりであればまた話が変わるのだが、そうでもないのでな」
「じゃあさっさとしようぜ」
「ちょっとアトム! もうちょっと言い方を考えてよ!」
「そういうのがめんどくせぇんだって」
「けど、今回は事情が違うわよ」

初対面の、それもシルビアの師、つまりエリザからすれば師の師であるのだから当然の答え。失礼のないようにする方が確実に良いという判断をしているエリザ。不安気にパバールに視線を向けるとパバールは笑みを浮かべている。

「無駄だってエリザちゃん。アトムはいつまで経ってもアトムだよ」
「それはそうだけどさクーちゃん……」
「おい。それは褒めてんのか? けなしてんのか?」
「どっちもだろう」

ラウルからすればいつも通り。良くも悪くもアトムはアトム。

「かまわんさ。その程度であれば」

その返答を受けてエリザはホッと安堵の息を漏らした。

「では」
「ただし」

話を進めようとするガルドフの言葉をパバールが遮る。

「一つ条件がある」
「条件とな?」
「ああ。詳しい話はその馬鹿弟子が私に正式に謝罪をして自身の非を認めることだ。そうすればお前達がわざわざこんなところまで訪れた事情を聞こう」

笑みを浮かべシルビアを指差しながらパバールはその条件を提示した。
全員の視線がシルビアに向けられるのだが、シルビアは明らかに不快感を露わにしている。

「こ、の、言わせておけば調子に乗りおってからに!」

言いたい放題言ってくるパバールに対して、シルビアは我慢できずにパバールに対して杖を構える。

「ちょ! 姐さん!?」

その動きが何を示すのかということを全員が即座に理解した。
そして予想通り、息つく暇もない程の素早さで杖が雷を帯びるとすぐさま一直線でパバールに向かって放たれる。

「ふんっ。この程度。まだまだ青い」

雷光が眼前に迫る中、パバールは腕を軽く振るう。
展開されたのは魔法障壁。しかしただの障壁ではなかった。それが反射の効果を持つ魔法障壁だということはその場にいる面々は一目で察する。
しかし驚愕することは魔法反射を繰り出したことでもなかった。

「なんて強度なの!?」
「硬っ!」

エリザとクーナも魔法の技術は超一流。だがシルビアの魔法はその二人よりも一段階上。そのシルビアが躊躇なく、一切の遠慮のない威力を用いて放たれた魔法。それでも障壁に罅を入れることなく跳ね返されているのだから。
そうしてパバールの目の前で反転させた雷光は術者であるシルビアに向かっていく。

「っ!」

小さく声を発したシルビアは直前で顔を動かし雷光を躱すのだが、雷光はそのまま後ろにいたアトムとラウルへと向かった。

「おい!」
「ったく!」

即座にアトムとラウル二人して剣を抜き放ち雷光を受け流す。

「ほぅ」

パバールが感心の声を漏らすのは遠目に見えるその二人に対して。内心ではシルビアの魔法の素早さに対して若干胆を冷やしていた。その反射した高威力の魔法を、いくら距離があったとはいえ的確にいなす姿はそれだけで二人共に強者なのだと見て取れる。

(ふむ。その辺の者を連れて来たというわけではないということだな)

その様な者達を引き連れて一体どういう用件なのかと少しばかりの興味も湧くのだが、それとこれとは話は別。

「もう終わりか? では素直に謝罪をすることだな」
「そのようなことをする必要はない。貴様が大人しく屈服すれば良いだけじゃ」

顔をしかめながら尚もパバールに対して向けられる杖。立て続けにいくつもの魔法を放ち続けた。
だがどの結果も同じであり、炎・雷・氷と属性を即座に変えようともその都度対応される。

「おいおいいい加減にしてくれよ」
「まったく。大変だよね」

アトム達が身を捻りながら反射された魔法を躱す中、クーナは空中で浮いていた。

「クーちゃんずるいわよ!」
「だって一人しか浮かせられないんだもん」

エリザが声を掛けるクーナは風魔法の応用で自身を浮かせている。

「こんなもんに手こずってどうする」
「俺達はガルドフみたいな化け物じゃないんでね」
「そうかの」

ラウルが剣で炎を切り裂く中、微動だにしていないガルドフの正面には氷と雷が同時に迫って来ていた。

「むんっ!」

上半身半裸のガルドフはその厚い胸板に力を込める。
直後、粉々に砕け散る氷とパチンと霧散する雷光。

「まったく。どんな身体してんだよ」

圧倒的なまでの肉体の強さに対して呆れる一同なのだがそれもまたいつものこと。

「ぐっ、くぅっ!」
「ふむ。諦めが悪いのは相変わらずじゃの」

魔法を反射し続けるパバールが隙間を縫うようにしてシルビアへと杖を向けた。

「これは!?」

シルビアの頭上、上空に浮かび上がる黒の紋様の魔方陣。

「マズいッ!」

危機を察知するなりその場を飛び退こうとするのだが、足下から伸びるいくつもの黒い手。その手がシルビアの足を掴む。

「チッ!」

次の瞬間、上空の魔方陣から降って来るのは黒い幕。一気にシルビアを覆い尽くした。

「姐さん!?」

姿が見えなくなるシルビアへアトムが叫ぶ。

「案ずるな。少しばかり灸を据えてやるだけだ」

ニヤッと笑みを浮かべるパバールの足下にも魔方陣が生まれ、パバールも地面に沈むようにトプンと姿を消した。

「むぅ。これはどういうことだ?」

魔法に聡い二人、エリザとクーナに向けてガルドフが問い掛ける。

「どういうことって聞かれても……」

スタっとエリザの横へ軽やかに着地するクーナ。互いに顔を見合わせた。

「ええ。別の空間に移されたのは間違いありません。ですが」
「そこじゃないのよねぇ、怖いのは」
「そうなの。シルビアさんは無事だとは思いますが……――」

見つめる先はシルビアが姿を消した場所へ。パバールの言葉尻からしてそう受け取っていたのだが問題はそこではない。

「だったら様子を見るしかねぇんじゃねぇの?」
「そうだな」

害意を感じさせないパバール。一方的な魔法攻撃に対抗していたのみで、むしろ敵意を剥き出しにしていたのはシルビアの方。
そうなると急いで何か手を打たなければいけないわけではない。次に姿を見せるまでどうしようもない現状、出来ることもなさそうなのでとにかく待つことにした。


「――……おっ?」

そうして待つこと一時間程。

「ようやくか」

パバールとシルビアの関係などの談話をするなどして時間を潰していた中、姿を消した地面に再び浮かび上がる魔法陣。
立ち上がり迎える準備をするのだが、思わずその場所から目を逸らす。

「待たせたの」
「…………」

満足気な笑みを浮かべているパバールに対してまるで凌辱でもされたのかと言わんばかりのシルビアの表情。どう声を掛けたらいいのかわらからなくなった。

「シルビアさん、なにされたの?」

ただし、クーナだけが考えなしにその禁忌に触れる。

「黙れッ!」
「え?」

杖の先端がパリッと音を鳴らすなり響く雷鳴。

「きゃあああああっ!」

クーナの毛を逆立てる程に直撃した。

(バカね、クーちゃん)

その様子にエリザは苦笑いするしかない。内心では理解している。シルビアが何かしらの謝罪の意を示したのだろうということを。

「フンッ」

ただの憂さ晴らしに利用されたクーナを余所にガルドフは問い掛ける。

「では詳しい話をさせてもらっても?」
「かまわんよ。中に入れ。話を聞こう」

パバールはそう言ってアトム達を家の中に招き入れた。

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