S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験 二学年編

第四百七十三話 閑話 レインとナナシー②

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王都内を笑顔で歩くレインとナナシー。会話も十分に弾んでおり、レインの気分も最高潮に上がっている。

(い、今なら渡せるかも)

意を決して覚悟を決める。勢いに任せてなんとかなるだろうと、贈り物があるのだと口を開きかけたのだが、それよりも先に口を開いたのはナナシー。

「ねぇレイン?」
「えぅ?」
「なんて声を出してるのよ」
「あっ、いあ、げふん、す、すまん。どうした?」

軽く咳払いをして、あからさまな作り笑顔を向けた。

「なによそのかお? もしかして顔に何か付いてる?」
「な、なんでもねぇっての」
「ほんとにぃ?」
「ほんとだっての」
「怪しいわねぇ」
「そ、それよりどうしたんだよ」
「え?」

そのまま勇気を振り絞って渡してしまえば良かったのではないかということが若干脳裏を過りながらも話題を変えてしまう。

「ほら、さっきさ」
「あっ、そういえばレインの家って確かコルナード商会なのよね?」
「ん? そうだけど、それがどうかしたか?」
「ううん。さっき思い出したのだけど、そういえばイルマニさんがコルナード商会と取引してたなぁって」
「ああ、なんだ。そういうことか」

屋敷の備品等の取引を一手に担っているのはイルマニ。勉強の一環でナナシーもそうした取引に同席させてもらったこともあった。

「そりゃあ貴族家には割と贔屓にさせてもらってるみたいだからな」
「結構大きなところなのよね?」
「…………いや、うん、まぁ」

どんなところなのかと想像を巡らせているナナシーは歯切れの悪いレインに気付かない。

「あっちの方にあるのよね?」
「場所も知ってるのか?」
「ううん。大体よ? 色々と見て回ってた時に薄っすらと覚えている程度だから道もよくわからないし」
「……そっか」

これだけ楽しそうにしている姿を見せられるとがっかりさせるわけにはいかない。

(まぁナナシーが見たいのは物流だしな)

家に連れて行かなくとも納得と満足の両方を得られる方法はある。

「じゃあそろそろ案内するよ」
「うん」

そうしてレインが案内したのは王都の東地区、商業地区から少し外れた倉庫街。

「こんなところがあったのね」
「観光客が来るような場所じゃないしな」

商業店舗が多く立ち並ぶ東地区の外れ。人通りの多い場所とは別の区画。そこにはレインの実家であるコルナード商会が所有している倉庫があった。

「それでここが親父の持っている倉庫なんだ」
「へぇー。さすがの大きさね。なんでも入りそう」
「一応これでも王都ではそれなりに古い商人だからな」

実際立ち並ぶ倉庫の中ではかなり立派なものだということは見て取れる。

「じゃあいつかレインも家を継いだりするの?」

エルフという種族にはほとんどない家督を継ぐという概念。里のような集落では長はいるが、貴族のような権力者がいるわけでもなく、ある程度は平等に集団として生活してきた。

「いや……」
「どうしたの?」

表情を暗くさせて口籠っているレインに対して、ナナシーは覗き込むようにして問い掛ける。

「ん? 誰だそこにいるのは!? 今日は休みのはずだろ?」
「「え?」」

不意に背後から聞こえる太い声。

「もしかして、そこにいるのはレインか?」

しかし声の主はすぐさま誰がいるのかということは後ろ姿だけで認識した。自身と同じ赤髪をしているのだから。

「親父、か」

安堵の息を吐きながらレインが小さく漏らす声。
振り向いた先には、ナナシーにもそれがレインの近親者なのだとすぐにわかる顔立ちの男。

「この人がレインのお父さん?」

小さく頷くのを見たナナシーはすぐさま笑顔を作る。

「初めまして、お父様」
「ん? 君は?」
「はい。本日はレインさんに案内して頂きここを見学させて頂いております。私は冒険者学校の学生でナナシーと申します。日頃からレインさんにはお世話になっております」

滑らかな所作を用いてレインの父親に挨拶をした。

「ほぅ、中々丁寧な子だな」

突然のナナシーの態度に隣にいるレインは驚きを隠せないのだが、レインの父親は感心する様にナナシーを見る。屋敷でイルマニやネネによって指導を受けたその挨拶は見事の一言。

「おいおい、どういうことだレイン?」
「な、なんだよ」
「ふらっと急に帰って来たかと思えばこんなに可愛い彼女を連れて帰って来るなんて、どういうつもりだ?」
「ち、ちげぇし、彼女なんかじゃねぇし、ただの学校の友達だよ!」

慌てて取り繕うのだが、顔を羞恥で真っ赤にさせていた。

「はい。レインさんとは仲良くさせてもらっています」

笑顔で受け答えするナナシーの様子をチラチラと見るのだが、自身とは違い動揺は微塵も感じられない。

(ま、それが普通の反応だよな)

何を期待していたのだとばかりに、上がった熱は自然と下がっていく。

「おい――」

レインの肩に腕を回す父親。

「――本当に彼女じゃないんだな?」
「だからちげぇって言ってるだろ」

繰り返し何度も聞かれることが虚しさを増す。

「こんな可愛い彼女出来たなら俺も親として安心するんだがな」
「はあっ?」

そう小さく呟きながら肩に回していた腕を解くと同時にレインの父親はニカっとナナシーに笑顔を向けた。

「どうもはじめまして。挨拶が遅れて申し訳ない。俺はロビン、ロビン・コルナードだ。一応この商会の会長をやらせてもらっている」

自己紹介をしながらロビンはポンと頭の上に手の平を乗せる。

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