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神の名を冠する国
第六百八十三話 教皇の間
しおりを挟む「ここです」
アスラを先頭にして立ち止まった場所は大きな鉄製の扉。両開きになっているその扉がどこに通じるのかという事はクリスティーナが教えてくれる。
「教皇様のところへ?」
「ええ。その通りです」
各聖女も普段訪れることのない場所。そこは教皇が居る場。
「では」
リンガード・ハートフィリアが扉を強く押し開き、開けた先には細く長い絨毯道が敷かれていた。厳かな空間だという事は一目見てわかるのだが、何より目を引くのは最奥に作られている十字架。そこに吊るされている一人の少女。
「「モニカっ!」」
「お姉ちゃん!」
目にするなり一目散に駆け出すヨハンとエレナとニーナ。
「止まれ」
しかし立ち塞がる様にして前に立つリンガード。
「お兄ちゃん、エレナさん、行って!」
ギュッとすぐさま竜人族の力を開放するニーナ。真っ直ぐに向かう先はリンガードへ。
「があッ!」
響き渡る金属音。
ニーナの渾身の一撃をリンガードが受け止めていた。
「ありがとうニーナ!」
「おっと、待てよ」
ニーナが時間を稼いでいる間を縫ってモニカの下へ向かおうとしたのだが、背後から聞こえてきた声。耳に入ってくる言葉に思わず足を止める。
「……ゴンザ」
振り返る視線の先にはクリスティーナとベラルの首元に凶悪な鎌を押し当てているゴンザの姿があった。
「どうしてここに?」
「言ったはずだぜテメェには。相応しい場所でテメェを殺すってよ」
「……それがここだっていうのか?」
「その通りだ。魔王の復活を前にして、テメェは何もできないまま死んでいくんだよ。その手で届かなかったって、存分に後悔を抱きながら情けなく死ぬんだ」
「人質を取ることがきみにとって相応しいことなの?」
「んなわけはねぇだろ。これは邪魔させねぇようにしてるだけだ」
「……だったらその人たちを放せ」
「ハッ! 別に放してもいいんだが」
「僕は逃げも隠れもしない」
「そうかよ」
ふてぶてしく片手をヨハンの前方へと向けるゴンザ。地面には渦巻くようにして黒い煙が生じる。
「そこに立て」
「どうするつもりなんだ?」
「いいから立てよ。早くしねぇとイライラしちまってこいつら殺しちまうじゃねぇかよ。テメェのせいでこの国の大事な聖女様を二人もおっ死なせちまうのか?」
「……わかった」
ゆっくりと、ゴンザから視線を離すことなく煙に向かって歩き始めた。言うことを聞かないと間違いなくゴンザは二人を殺す。
「ヨハンさん!?」
「大丈夫だよエレナ」
「そ、そんなこと言われましても」
「そうよ。罠に決まってるわ」
片手にククリナイフを握りしめるミモザは踏み込むタイミングを見計らっていた。
「ミモザさん。罠だとしても、僕はゴンザとの戦いは避けられません。それに、僕が行かないとゴンザは二人を殺します。でも……――」
何故だか確信的に抱くゴンザへの奇妙な信頼。ここに至るまでにあれだけ自分に固執していたゴンザは、言う通りにすれば恐らくこの場ではクリスティーナとベラルに手をかけることはないだろう、と。
「だから、後のこと、お願いします」
「ヨハンくん……」
「エレナ。モニカのこと、お願い」
「……もちろんですわ」
エレナがチラと視線を向けるその先。どうやら意識を失っている様子のモニカ。
「ヨハンさんが彼を倒している間に、モニカは救い出しておきますわ」
「うん。頼りにしてるね」
笑みを浮かべながらゴンザが生み出した煙の中心に立つヨハン。
「さぁ立ったよ」
「ちっ。だらだらしてんじゃねぇよ。こちとらテメェを殺したくてうずうずしてんだからよぉ」
「これで、どうす――」
何を狙いとしているのか問いかけるよりも先に、足元がまるで沼にでもはまるかのようにしてずぶずぶと沈んでいく。
「お兄ちゃん!」
必死に手を伸ばすニーナ。だが間に合うことなくヨハンの体が完全に沈み消えていった。
「さて。これで後は好きにさせてもらうぜ」
スッとクリスティーナとベラルの首元から鎌を外すゴンザは自身の足下に生み出した影へと身体を沈めていく。
「アスラ様、どういうおつもりですか?」
筆頭聖女である光の聖女なのだが、元来序列のない五大聖女。
しかしその中でも一番年若いクリスティーナはこれまで先輩聖女にあたるそれぞれに敬意を表して一定以上の態度で接して来ていた。
「そんなに睨まなくともよろしいですわ」
だがここに至ってはそうもいっていられない。
「まだそんなことを言っているのですか!?」
声を荒げるクリスティーナ。
明らかに光の聖女アスラ・リリー・ライラックが事態に大きく関与しているのだと。
「そんなことよりお姉ちゃんを!」
光の第一聖騎士リンガードの足止めで精一杯のニーナ。
声に反応して素早く駆けだそうとするのはエレナとミモザ。
「だぁめよぉ」
艶めかしい声が響くと、エレナとミモザ、それにニーナとギガゴンの足下から即座に立ち昇る土の檻。既にサイバルが捕らえられている。
「ちっ! やっぱりあなた」
すぐさまその声の主へ鋭い視線を向けるミモザ。
「えぇえ。せっかくの計画を台無しにされては困りますものぉ」
「ベ……ラル、さま?」
驚愕の眼差しを隣に立つベラル・マリア・アストロスへと向けるクリスティーナ。
◆
沼のようにして身体を沈めたヨハン。そのまま天井から落ちるようにして地面に着地する。
「ここは?」
周囲を見渡すのだが、仄暗いそこは先程までの厳かな空間とは全く異なる別の場所。
「ゴンザ! どこだ! 出てこい!」
大きく声を発するのと同時に、正面から浮かんで出てくるゴンザ。
「んな大声ださなくたってここにいるさ」
パチンと指を鳴らすと、中空に浮かび上がるのは先程まで居た教皇の間の映像。それぞれが土の檻に捕らえられていた。
「なっ!?」
「さぁ、最後の決着をつけようぜ」
事態の展開に驚愕する中、ゴンザはその大きな鎌をヨハンへと向ける。
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