26 / 112
巡って来た機会
026 買い物
しおりを挟む体育祭も終わり、しばらく日常という名の穏やかな日々を過ごすのだが、潤は休日に家のベッドで仰向けになりスマホを持ち何も操作をしないままじっと眺める。
「連絡……来るはずないよなー…………」
花音と連絡先を交換して以来毎日眺めているのだが、まだ一度もやりとりをしていなかった。
「ったく、これじゃなんのために連絡先を交換したんだか」
「そんなにやりとりしたいんなら自分から連絡してみればいいんじゃねぇのか?」
「は?光汰お前何言ってんだよ!そんなことできるわけねぇじゃねぇか!」
「すまん、俺にはどうしてできないのか全く理解できないね」
テレビゲームをしているので潤に背を向けている光汰は、休日だからというので潤から呼ばれたので来ていた。しかし、話の内容を聞いても全く共感できないでいた。
「はぁ。結局お前は俺の意見をどれも拒否したじゃねぇか」
「だってお前が言うことどれもハードル高いじゃねぇか!」
溜め息を吐く光汰に対してベッドから身体を起こした潤はスマホに目をやりながら焦燥感に駆られている。
「なに言ってんだよ?ただ日常の様子を聞いたり伝えたりしながら遊びに誘うだけじゃねぇかよ。今何してんの?とかでいいじゃねぇか」
「……簡単に言うけどなお前」
あっけらかんと言い放つ光汰に対して尚も怖気づいている潤なのだが、こんなやりとりをもう何回もしていた。
「あぁ、もうこの分だと今日は何も出来ねぇだろ?」
「そうは言うけどなお前」
「こんな男二人で部屋に閉じこもっていても鬱屈とするだけだから出掛けるぞ!」
「はぁ、わあったよ。けど、出掛けるったってどこに?」
いい加減業を煮やした光汰はゲームの電源を切って立ち上がり、出掛けようとしたところで部屋のドアが開かれる。
「潤にぃ?光ちゃん?あのさ、ちょっといい? ってあれ?どっか行くの?」
「ん?どうしたの杏奈ちゃん」
部屋には杏奈が来たのだが、少しだけ部屋を覗いて潤と光汰が立っている姿を見たのでどこかに行くのだと察した。
「えっと、ちょっと買い物に付き合ってほしいと思ったんだけど、出掛けるなら無理そうだね…………」
「いや、いいよ。俺達も出掛けるのは出掛けるんだけど別に予定があって出掛けるつもりじゃなかったしさ。潤もいいよな?」
「ああ、別にいいよ」
「やったぁ!じゃあちょっと待ってて!すぐに準備して来るから!」
光汰は表情を綻ばせて出掛ける用意をしに自分の部屋に駆け込む杏奈の背中を見ながら「杏奈ちゃんって高校生になっても変わんないよな」と潤を見て笑っていた。
「あいつはまぁお前の前だといつも割と子供っぽいからな」
「ん?俺の前だけか?」
「ああ見えても高校じゃ割と人気あるみたいで告白してくるやつを結構きつめに振ってるらしいぞ」
「ふーん」
高校で聞く杏奈の噂といえば瑠璃とセットの美少女コンビなのだが、近付いて来る男を片っ端からきつい言葉を浴びせて追い払っているらしい。結果それが裏目に出たのか罵られたい一部の男子が寄って来るという負の連鎖を生んでいるとのこと。
「そっか、まぁ杏奈ちゃんほんと可愛くなったもんな。ちっさい頃から知ってると感慨深いもんがあるな」
「親かお前は」
杏奈の近況を聞いて光汰は深く頷いている。
「まぁ女子って環境で変わるみたいだよな。浜崎もそうだし」
「その点お前はいつまでも変わらずヘタレのままだけどな」
「ほっとけ!」
「おいおい、呼び出しときながらせっかく来た親友に対してなんて言い草なんだよ」
自分たちの出掛ける準備を手短に終え、玄関で杏奈の支度を待つ。
杏奈の見た目について話すのは、高校になって垢抜けてこれまで以上に杏奈はモテていたのだから。そんな杏奈のことを高校が違う光汰はあまり知らない。
「お待たせー」
支度を終えた杏奈はウキウキして階段を降りて来た。
日中は暖かいので潤も光汰も割とラフな薄着であるのに対して、杏奈は先程の会話よろしく、ロングスカートに襟付きシャツといったカジュアルな感じに仕上がっている。
「そんな待ってねぇけどな」
「それで、どこに行くの?」
「いやぁ、恥ずかしながら男子の意見を聞きたいと思いましてー」
「「?」」
どこに買い物に行くのだろうとかと思うのだが、男性の意見が欲しいとのことだった。
光汰もいるとはいえ、妹から男性としての意見が求められる内容の買い物などとは一体何を買うつもりなのかと思う。潤と光汰はお互い顔を見合わせるのだが、思い当たる様子はなかった。
そして―――。
「なるほどね、男子というより光汰の意見が欲しかったわけだ」
潤は大型ショッピングモールの水着売り場の店内に用意された椅子に腰掛け、少し離れたところで水着を選んでいる杏奈と光汰を見て納得した。
「しかしまぁ、こういうところに一人取り残されると些か居た堪れない気分になるんだけどな」
周囲を見渡しても男性の姿はない。時々杏奈が水着を持って潤にも意見を求めるので変質者が来ているという風に見られるわけではないのだが、それでも目のやり場に困ってしまう。
「もう!お兄ちゃんもちゃんと手伝ってよ!」
「とは言ってもお前、俺の意見なんて聞きやしねえじゃねえか」
「だって潤にぃの選ぶの全部つまらないんだもん」
「ってなわけでこうやってじっと座って暇してるんだけどな」
杏奈は少しばかり眉をひそめて潤に声を掛けるのだが、潤としては妹の水着を選んでも無難なところしか選ばなかった。何が悲しくて妹の水着選びを率先してしなければいけないのか。
「そんなこと言ってると後で困るからね!」
「どういうことだ?」
困るとは何を指しているのか理解出来なかったのだが、それはすぐに理解した。いや、理解というより、まさかこんなところで顔を合わすことになるとは思っていなかったので衝撃は数倍に膨れ上がる。
「―――杏奈ちゃん、お待たせ!ごめんね、遅くなって…………って、深沢君に塚原君?」
「あっ、花音先輩!」
「はぁ!?」
店内の角で杏奈の姿を確認した花音は声を掛けるのだが、杏奈と一緒にいる潤達に気付かなかったのか、存在を確認して驚きを隠せないでいる。そしてそれは潤も同じだった。
「おい、妹よ、どういうことだ?」
「えっ?元々花音先輩の提案なんだけど?」
「ちょっと待て、浜崎が水着を買いたかったってか?」
「ちょ、ちょっと杏奈ちゃん!」
杏奈にどういうことか問いただすのは、どうしてこの場に花音がいるのかということだ。
質問の意図を察した杏奈はすぐに答えるのだが、花音は慌てて杏奈を制止した。一体何がどうなっているのかと思うのだが、後ろで静かに様子を見ている光汰はにやにやと「(楽しそうなことが始まったな)」と思い見ていたのだった。
「―――つまり、浜崎が水着の新調するのにどういうものにしようかと悩んで、それで兄のいる杏奈だとある程度男目線も理解しているのではないかと思ったってわけだな」
「そ。それで私が又聞きするよりも直接潤にぃたちに意見もらった方が手っ取り早いって思ったの。花音先輩には潤にぃ達が居ること言い忘れてたんだけどね」
てへっと申し訳なさそうにはするものの、真面目に反省しているようには到底見えなかった。
花音が恥ずかしそうにしていたのは、まさか水着選びに男性が、潤達が居るとは思っていなかったってわけだと理解した。
「それにしても浜崎も男うけみたいなこと気にするんだな」
「ち、違うわよ!お、男の人の興味があるのを避けるために選ぶのよ!」
「(あー、なるほど、ただでさえ目立っているのに変に男うけする水着を選んじまうと余計にめんどくさくなるんだな)」
花音にも意外な一面があるもんだと思い呟くように声に出すのだが、花音は聞こえていたのか慌ててそれを否定して即座に理由を答えた。
潤は花音の言葉を受けてその理由に納得ができる。水着などというのは美人でスタイルの良い人間がいればそれだけで一際視線を集めてしまうのだからだと解釈した。
しかしそんな潤を複雑な表情で見ている花音がいたのだが、思案気に耽っている潤はその花音に気付かない。
「じゃあ、せっかくだから俺は杏奈ちゃんと一緒に見てるから潤は浜崎さんについていてやりな」
「あっ、確かに潤にぃのセンスだと花音先輩のニーズに合致するわね。じゃあお兄ちゃんあとはよろしく!」
一通り話し終えたあと、光汰の提案に杏奈は賛同して二人して足早に水着選びを再開してその場に潤と花音の二人が取り残されることになった。
「「えっ!?」」
潤と花音の声が重なる。
「えっ?」
「えっ?」
二人してお互い顔を見合わせて笑うのだが、苦笑いする潤に対して花音もまた潤からは心情はわからないがどこか硬い表情で笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
婚約破棄のために偽装恋人になったら、ライバル店の天才パティシエに溺愛されすぎています
草加奈呼
恋愛
大学生の佐藤天音は、
“スイーツの神の舌”を持つことで知られる、洋菓子店の一人娘。
毎年、市内のスイーツコンテストで審査を務める天音は、
そこで出会った一人のパティシエのケーキに心を奪われた。
ライバル店〈シャテーニュ〉の若きエース
イケメン天才パティシエ・栗本愁。
父に反対されながらも、どうしてももう一度その味を
確かめたくて店を訪れた天音に、愁は思いがけない言葉を告げる。
「僕と、付き合ってくれないか?」
その告白は、政略的な婚約を断つための偽装恋人の申し出だった。
そして、天音の神の舌を見込んで、レシピ開発の協力を求めてくる。
「報酬はシャテーニュのケーキセットでどうかな?」
甘すぎる条件に負け、
偽装恋人関係を引き受けたはずなのに──
いつの間にか、愁の視線も言葉も、本気の溺愛に変わっていく。
ライバル店×コンテストでの運命の出会い×契約恋人。
敏腕パティシエの独占愛が止まらない、
甘くて危険なシークレットラブストーリー。
🍨🍰🍮🎂🍮🍰🍨
※恋愛大賞に参加中です。
よろしければお気に入り、いいね、
投票よろしくお願いいたします。
∞
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。
入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。
しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。
抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。
※タイトルは「むげん」と読みます。
※完結しました!(2020.7.29)
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる