恋に不器用な俺と彼女のすれ違い

干支猫

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巡って来た機会

027 水着選び

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「そ、それで、深沢君……」

潤を見ながらどうしようかと悩んでいる花音を見て潤は花音に背を向けた。

「ああ、わかってるよ。なんかごめんな。俺、いない方がいいだろうから外に出ているよ」

花音の心情を慮って店の外に向かって歩いて行こうとする。

「べ、別に深沢君が居ない方がいいってことじゃないわ!」
「へ?」

しかし、花音は引き止めるように声を掛けた。

本音を言うなら潤としても花音の水着選びを手伝いたいというのは視界の中にある数ある水着を花音が着ている姿を既に想像してしまっているせいもあった。
膨れ上がる下心を抑えるのに必死になるのだが、引き止められたことで思わず変な声を出してしまう。

振り返り無言で花音を見るのだが、花音は俯いて視線を合わせようとしない。

「あの―――」
「―――深沢君さえ良ければ、水着選び、手伝ってもらっても…………いいかな?」

「あ、ああ」

恥ずかしそうにしながらも上目づかいでお願いする花音に胸の高鳴りを覚えながらも抑えていた感情が溢れ出て漏れ出そうになる。

「じゃ、じゃあ、ちょっと見てみようか、な?」
「あ、ありがと」

必死に邪な考えを抑えて小さく息を吐いて笑顔で応えた。対する花音も恥ずかしさを押し殺した様子で言葉を告げる。


先程までは妹の水着選びだったし、光汰もいることから真剣に探す事はなかったのだが、状況が変わった今となっては探し方が逆転した。花音に似合いそうな水着を積極的に探し始める。

「(やっぱり希望としてはビキニなんだがな)」

肌の露出の多いビキニでかつ清楚なイメージの白が花音には間違いなく似合うというのはわかりきっている事実なのだが、男性の視線を気にする花音には適さないというのもわかっている。
チラッとビキニに視線を送るのだが、花音も同じように視線を向けて潤が何も言わないので花音も何も言わなかった。


そして―――。

「やっぱり露出を抑えるためにはラッシュガードとかが無難なんじゃないかな?」
「……そうよね」
「でも、ま、あんまり好みじゃないよな?さっき杏奈にも散々言われたしさ」

女子が水着を選ぶのにラッシュガードをわざわざ選ぶ女子がいるにはいるのはわかっているが、花音が求めているのではないというのは反応を見てすぐにわかった。

「ねぇ」
「ん?」

何か意見があるのかと思い、花音の言葉に耳を傾ける。

「さっき深沢君ビキニ見てたよね?やっぱり男の子ってビキニが好きなの?」
「えっ!?いや、そりゃあ見る分にはビキニがいいけど、その、浜崎にはちょっと合わないんじゃないか?」
「それって、似合わないってこと?」
「いやいや、絶対似合うと思うぞ!ただ、ちょっと露出が多すぎるんじゃないかなーって」

似合うのはわかっている。わかりきっている事実だ。着たところを見たいのも願望の中にはある。その気持ちを押し殺して露出の多さがネックになるということを、心を鬼にして伝える。

「そう……だよね」

花音の同意を得られた事で納得してもらえたのかと思う反面、見る事が叶わなかった残念さを心の中に同居させることに見事に成功した。

「やっぱさ、ラッシュガードまでは言わなくても、ワンピースタイプとかせめて生地の多いパレオの付いたやつとかにすればいいんじゃないかな?」

そして代替案としてもう少し露出を抑えた水着を提案したのだった。

「そうよね、わかった。色は何がいいかな?」
「そうだなー、黒はもちろんちょっと浜崎には合わないし――ってイメージだけどな。それに柄物や赤とか派手目の物も似合うとは思うけど俺のイメージじゃないかな?それよりも白とか青とか色を抑えた方がいいんじゃないか?ほら、これとか」

方向を変えられたことに満足しつつも、だが未だに少しばかり尾を引いてしまっている。「(ビキニ姿見たかったな)」と思いつつも、それでもいつの間にか真剣に他の水着を探して、手近にあった露出を控えめにした水色のパレオ付きの水着を提案した。

「うん、じゃあそれを着てみる」
「そっか、じゃあ俺は今度こそ離れて待ってるな」

「待って!」

潤の提案に承諾して布地の多い水色のパレオ付きの水着を手に持つのを見てさすがに離れようかと思うのだが、語気を強めて引き止められた。

花音の方に目を向けると明らかに顔を紅潮させて俯いている姿が窺える。

「あの…………念のために、ビキニを着たところと見比べてもらっても……いい?」
「えっ!?」

今日一番の胸の高鳴り、心臓が弾け飛びそうになるほどに驚き戸惑ってしまう。

「えっ?いや、さすがに、それは……」
「いや……かな?」
「いやいや!いやなわけないじゃないか!ただ、ちょっと恥ずかしいっていうか、浜崎がいいなら……」

是非見てみたいと思うものの、言葉に出していいものか戸惑ってしまう。

「いいよ?それに……深沢君になら見られても知らない人に見られるよりよっぽど気にならないから」
「(そんなこと言われると勘違いしてしまうじゃないかよ)」

心の中で葛藤を覚えるのだが、その可能性を即座に否定する。

「(そうだよな、女の子なら水着選びに慎重になるのもわからないでもないしな)」

高校生になってまだ半年も経たない杏奈でさえ光汰を連れ回しているのだ。浜崎が悩んでしまうのも当然ではないかと自分に言い聞かせる。
そして再び心を落ち着かせて笑顔で応える。

「わかった、じゃあその水着とビキニを見比べてみるから取って来たら?」
「うん、ちょっと待ってて」

そう言って花音はビキニを少し離れた売り場から持って来る

「あれ、それって……」

すぐに戻って来たのだが、手に持っていたのは白のビキニ。トップスとボトムにフリルの付いた可愛らしい水着だったのだが、先程一瞬潤が足を止めて思わず視線を向けたビキニのそれだったのだ。


試着室に向かって入っていく花音を無言で見送るのだが、試着室のカーテンを摘まんで身体を隠しながら花音が振り返る。

「ほんとにどこにも行かないでよね?カーテンを開けて誰もいなかったら寂しいから」
「(可愛すぎるだろ!)大丈夫だって、ちゃんと待ってるから!」
「絶対よ!?」
「ああ、わかってるって!」

少しの恥じらいを混ぜながらカーテンの裏に完全に隠れるので、見えないのだがカーテンの向こうでは花音が水着に着替えているのだと思うと言葉に言い表せない気持ちになってしまった。

「(ダメだダメだ!考えるな!)」

首を振るのだが、こんなところを杏奈たちが見ていたらどう思われるのかと思う。しかし、幸いなことに杏奈と光汰はレジのところで会計をしている姿が目に映った。

そして少しすると、そっとカーテンが開かれた。

「うん、よく似合ってる!」
「良かった。やっぱりこれぐらいだと安心するわね」
「だな」

最初に着たのは水色の方の水着だった。肌の露出も控えめなのだが、それでも色気を感じるほどに似合っているとは思う。ただ、やっぱりビキニの方がより色気を引き出せるのではないかとも思った。

「じゃあ、もう一回着替えるから待っててね」

そうだ、ここからが本番だと再びカーテンが閉まるのを見届ける。今の水着とこれから着替える水着を比べなければならないのだと。妄想が加速する。


そして程なくして再びカーテンが開かれた。

「どう……かな?」

言葉にならなかった。

胸の膨らみがしっかりとわかり、身体のラインも恐ろしいぐらい目を引く。高質な白い肌を引き立てるような白いビキニを身に付けている花音は潤にとって眩しすぎるぐらい可愛らしく映った。

「……やっぱり、似合わないかな!?」

「似合う!めちゃくちゃ似合うって!!想像以上だ!」
「そ、そう?」
「ただ――」

思わず無言で魅入ってしまったのだが、花音は無言をマイナス方向に解釈したので慌てて否定する。即座に思うがままの感想を伝えるのだが、同時に脳内を過る考えを口にしようとして何を言おうとしたのかと思い心の中で制止する。自分でも良く踏みとどまれたものだと思う。

「ただ?」
「いや、なんでもない」

花音は続きに何を言おうとしたのか気になって聞いて来たのだが伝えられないでいる。

「ちゃんと言って欲しい!お願いだから誤魔化さずに言って!!」
「えっ?」

花音は真剣な眼差しで潤に訴えかけるように言うのだが、突然声を荒げられた潤は呆気に取られた。

「ちゃんと言ってくれないと判断できないじゃない」

いつもの調子の声に落として再び要求する花音に対して、どうしようかと悩むのは、それがあくまでも個人的な気持ちだったからだ。

「わかったよ。その代わり、今から言うことをあんまり気にしないでくれよな?」
「う、うん、わかった!」

花音は自分で言い出した事とはいえ、何を言われるのかと思い身構えるのだがその目は真剣だった。

「あのさ、勝手な事なんだけどさ」
「うん」

「俺としては浜崎がそんな露出の多い水着を着るのが嫌だなって」
「えっ?それって……」

潤が感想を口にすると花音は少しばかり声と表情を落とす。

「や、やっぱり、それだけ似合ってて、その、可愛くて、目立つと…………他の男たち、それこそ色んな男が見ると寄ってくるんじゃないか?それって良い気がしないから」

「えっ!?」

「だからさ、友達としては浜崎がナンパなんてされでもしたら危ないんじゃないかと思うからさ」

沈んだ声のトーンと表情なのだが、一瞬にして花音の声の調子が上向く。

「そっか、ありがと。ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ。ありがとね、ちゃんと言ってくれて!じゃあやっぱりもう一個の方にしとくわ!」

それだけ言って花音は再度カーテンの向こうに姿を隠す。

「まぁ、実際は他の男にそんな可愛らしい水着姿を見られたくないってのが一番なんだけどな」

潤は最後に伝えきれなかった本音を小さく呟いた。



「お待たせ!」

既に会計を終えている杏奈と光汰に花音が支払いを終えたところで合流する。

「花音先輩、お兄ちゃんはちゃんと役に立てましたか?」
「えっ?うん、ちゃんと意見言ってくれたわよ?」
「そうですか、それなら良かったです」
「お前、ほんと俺のことなんだと思ってるんだ?(しかしまぁ浜崎も水着気に入ったみたいだし、いいか)」

兄に対して毒づくのは今に始まったことではないので特に気にはしないのだが、妙に嬉しそうな顔をしている花音がいるので尚更気にならなかった。

「じゃあ、せっかくだし飯でも食いに行こうぜ!」
「ナイス提案ね光ちゃん!」

光汰の提案に対して嬉しそうに同調する杏奈は何を食べようかと相談している。


「今日はありがとね、助かったわ」
「いや、大したことしてないから気にしないでくれ」
「せっかく水着選び手伝ってくれたし、みんなで一緒に泳ぎに行けたらいいわね」

潤に対して笑顔で話し掛ける花音を直視できないのは先程のビキニを着た花音を思い出してしまったのだった。
更に潤からすればワンランク落としたとはいえ、花音の水着姿を再び見る事が出来るのならこの夏は十分すぎるほどに満足できるのではないかと思う。

「そ、そうだな、じゃあ何か考えてみるわ」
「ほんと!?じゃあ連絡待ってるわね!楽しみにしてるわ!それにせっかくこの間連絡先交換したのにまだなんにもやりとりしてなかったしね」
「そうだよな、じゃあなんか決まったら連絡するから」
「ふふっ、わかった、待ってる」

潤に笑いかける花音の姿を見て、「(浜崎ってこんなアクティブだったんだな)」と思い、歩きながらせっかく見る事ができた笑顔を堪能した。




―――浜崎家―――

花音は自室ベッドに座り、水着ショップのビニール袋を胸に大事そうに抱いている。

「はぁ、今日はびっくりしたわ。杏奈ちゃんに来てもらったのって…………。 ふふっ、まぁいっか、結果同じだったんだし。ちょっとだけ残念だったのはあの白の水着可愛かったんだけどなー。しょうがないか」

そうして優しい眼差しをスマホに向けた。

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